56.騒ぎの、始まり。

 俺たちは、少し遅めの朝食をとっている。


 昨日の楽しかった夕食のお陰で、みんなすっかり打ち解けた感じだ。


 そんな時、俺に念話がつながった。

 霊域の『ドライアド』のフラニーからだ。



(主様、何とか昨日おっしゃっていた人族の街の林に『森妖精の通り道フェアリーロード』を開けそうです)


(よかった。ありがとうフラニー、それじゃあ、もう少ししたら転移をお願いするよ)


(はい、かしこまりました。待機しておりますので、いつでもご連絡ください)



 よかった。


 関所を通らなくても、この子たちを安全に霊域に帰せそうだ。


 俺は、この話をみんなに聞かせ、朝食が終わったら、すぐ横の林に行って転移する旨を伝えた。


 もっとも、俺たちパーティーは、もう一日残る予定だ。


 今日が騒乱計画の実行日で、念のため無事に一日が終わるまで確認するつもりなのだ。


 計画は潰したはずなので大丈夫だと思うが……。


 霊獣たちは、まだ本調子ではないので、帰る方法ができた以上、先行して帰すことにした。

 特にトーラは両親が心配して待ってるだろうし。



 家のすぐ隣の林にみんなで行き、霊獣たちを見送る。

 せっかく打ち解けてきたのに、みんな残念そうだったが……しょうがないよね。


 ただ、どういう手段を使ったのかわからないが、フラニーは、この林に転移を使えるようになったのだ。

 遊びに来ようと思えば、来れるはず。


 俺は、そんな話をしながら、別れを惜しむみんなをなだめ、転移を見送った。


 虹色の輪に包まれると、空間が少し揺らいだように見え、一瞬で消える。

 無事に帰ってくれたようだ。



 さて、俺たちは街の様子を見がてら、みんなで出かけることにした。

 俺たちパーティーに、サーヤさんとミルキーたちを含めたみんなだ。


 俺たちは最初に、トルコーネさんの宿屋に向かった。


 また来ると約束したけど、そのままだったからね。

 それに、トルコーネさんたちは善い人たちなので、同じ街の住人として、サーヤさんやミルキーたちを紹介しておきたかったのだ。

 トルコーネさんは、結構顔が広いので、色々と助けてくれるかもしれないという思いもあった。


「こんにちは、グリムです」


「まぁグリムさん……あなた……グリムさんがいらっしゃったわよ」


 ネコルさんが、いい笑顔で出迎えてくれ、トルコーネさんを呼んでくれた。


「これはこれは、グリム殿、心配してたんですよ」


「いやー、すみません。心配かけちゃって。実は、こちらの皆さんと知り合いになりまして、泊めてもらってたんですよ」


 俺は、トルコーネさん一家に、サーヤさんとミルキーたちを紹介した。

 ちなみにオリョウは、竜馬りゅうまなので、当然お店の中には入れず、厩舎の方で待ってもらっている。

 もちろん、シチミは、鞄状態だ。


 ロネちゃんは、ミルキーの妹弟たちと歳が近いので、友達になってくれそうだ。

 この一家は、ミルキーたちが亜人であることは、全く気にならないようだ。

 まぁそう思ったから、連れてきたんだけどね。

 同じ街に住んでいる仲間として、良い関係を築いてくれそうだ。


 そんな感じで、なごやかに話をしていると……何か大きな物音が聞こえた。


 ……嫌な予感がする……俺は宿を飛び出し、大通りに向かう。


 関所前の広場の方から、土煙が上がっている……


 俺は、『聴力強化』スキルと『視力強化』スキルを使う……


 関所前の広場でやはり何かあったようだ。

 みんなも様子を見について来ていた。


「関所の方で何かあったようだ。俺たちで見てくるから、サーヤさんとミルキーたちは待っていて。トルコーネさん、この子たちをお願いします」


「わ、わかりました。グリムさん、気をつけて!」


 俺は、トルコーネさんに、サーヤさんやミルキーたちのことを頼み、ニアたちと関所に向かった。



 関所前の広場が、大変なことになっていた。


 昨日、俺がとらえた盗賊たちが、暴れているのだ。


 簡易で作ってあった柵を何者かが破壊したようで、百五十人の盗賊が一斉に暴れ出している。


 衛兵たちの対応が間に合っていない。


 このままでは、一般市民に被害が出るかもしれない。

 近くにいた人達は、混乱しながら逃げている。

 パニック状態だ。


 一刻も早く盗賊たちを再拘束しなければ……


「ニア、けが人の回復を優先で頼む。リン、シチミ、盗賊たちをできるだけ早く拘束するんだ。全力でやっていいよ。フウ、怪我で動けない人を見つけて、ニアに知らせるんだ。オリョウ、動けない人を安全なところに運んであげるんだ。みんな行くよ!」


「オッケー」

「わかった」

「任しとけい」

「はい」

  (任せてヨロ)



 盗賊たちは、基本的に収監されていたので、武器は持っていないが、衛兵の武器を奪おうとして暴れたり、逃げ出そうとしている。


 衛兵たちは、盗賊を切り捨てているようだ。

 人が斬り付けられるのを見るのは、なかなかに衝撃的な光景だ。

 だが、盗賊たちの数が多いから、衛兵たちも悠長なことは言っていられないのだろう。

 武器を奪われれば、自分たちの命が危うくなる。


 逃げる盗賊たちがかなりいて、一般市民に危害を加える恐れがあるので、俺はそっちを優先的に拘束する。


 魔法紐を鞭にして、走りながら盗賊に巻き付け麻痺させる。


 紐の両側を鞭にして、二刀流で左右同時攻撃だ。


 盗賊アジトを壊滅して、更に磨きがかかった俺の鞭捌きは、ほぼ百発百中だ。

 もちろん、高レベルで各種のステータスが高いからだろうが。


 回を重ねるごとに、使い勝手が分かり、今では手足の延長のように動かせる。


 リンも、十本出した変形触手で、次々に盗賊たちを麻痺させている。


 シチミは、宝箱状態に戻って、いつもの投網を発射をしている。


  二人とも動きが洗練されてきて、非常に素早い。

 そして、お互いに連携までしているようだ。

 ある程度人数がまとまった集団を見つけると、リンがシチミを触手で空中に放り投げる。

 そしてシチミは、上空から投網を発射する。

 確かに、まとめて捕らえる時は、上から下に向けて発射した方が効率が良い。

 いいコンビネーションだ。


 ニアは、フウとオリョウに的確に指示を出しながら、けが人の救出と回復を行っている。

 ニアが回復している間に、フウが次のけが人を見つけているようだ。

 オリョウは、二足歩行で両手が使えるので、けが人を抱えて運んであげている。

 いい感じのチームに見える……やるじゃないか。


 俺は、拘束した盗賊たちを放り投げて、一ヶ所に集める。

 リンとシチミが拘束した盗賊たちも同様に集めた。


 俺たちがあっという間に拘束したので、混乱していた衛兵たちが持ち直してきている。


 突然乱入した俺たちに、警戒する衛兵もいた。


 だが、俺を見知ってくれている衛兵もいて、言葉を交わしたわけではないが、味方と受け取ってくれたようだ。


 後は、衛兵たちが対処している盗賊が片付けば終わりだが……


 ババババンッ———


 ———衛兵詰所の扉が破壊されて吹っ飛んだ!

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