55.動き出す、悪意。

 兎耳の亜人のミルキーたちも、落ち着いたようだ。


 彼女たちはサーヤさんの厚意で、この家に住まわせてもらえることになった。


 サーヤさんとミルキーは気が合うようで、早くも仲良しな雰囲気になっている。


 この家の間取りは…… 5LDKのようだ。


 キッチンに隣接してるテーブルをダイニングとして、大広間をリビングとして見て、他に五部屋あるようだ。

 平屋建てなので、二階は無いが、外に、納屋があるようだ。

 ガーデンと反対側の東側にある。


 玄関入って、すぐ右にあるのがサーヤさんの部屋だ。

 その隣のミルキーが寝かされていた部屋が、亡くなった親友の部屋だったようだ。


 その部屋がミルキーにあてがわれ、他の子たちにも空き部屋を一部屋ずつあてがっていた。

 もっとも、みんなお姉ちゃんと一緒がいいということで、ミルキーの部屋に集まるようだが。



 みんな俺が帰るのを待っていてくれたらしく、これから晩御飯だ。


 人数が増えたので、大広間にみんなで集まった。

 直接床に座って食べることにしたのだ。


 リン、シチミ、フウ、オリョウ、霊獣たちには、俺の持っている霊果を食べてもらった。


 ちなみに初めて食べるオリョウは……


 食べた後に、しっぽがビンビンに波打って、風きり音を立てていた。

 高速すぎて…… 少し怖かった……。


 味の感想を尋ねると……


(あちし、なんか体がすごいことになってるわけ。みなぎるって感じ! マジ震えるっしょ! 食べ物まで最高かよ! )


 ……まぁ……とにかく気に入ったようだ……。


 他の子たちもおいしそうに食べている。

 やはり食べ慣れた森の恵みは、とても美味しそうだ。


 あと、ミルキーの妹弟たちがよだれを垂らして見ていたので、全種類あげたところ……


 ……みんなで泣きながら食べていた。


 弟のワッキー君なんか号泣しながら……鼻水とよだれと涙を流しながら……ずぶ濡れになって食べていた。


 最初ちょっとびっくりしたが、本当に感動しただけのようだった。


 俺とニアとミルキーたちは、サーヤさんの手作り料理も堪能した。もちろんサーヤさんも一緒に食べた。


 カブのスープは、さっぱりした味でとても美味しかった。


 採れたてラディッシュは、ディップにつけて生でかじった。

 みずみずしさと、程良い辛味がすごくおいしかった。

 ディップはなんとなく味噌っぽい味も入ってる気がしたが……味噌ではなかったようだ……。

 いろんなハーブや木の実などを混ぜているのだそうだ。


 一番感動したのは、サーヤさん手作りのソーセージだ!


 なんとソーセージが食べられるなんて……

 

 ボイルしたソーセージに齧り付いた。


 ポンッとはじける音とともに、肉汁があふれだす……


「あーーーうまーーいっ!!」


 粗挽きで、太くて、肉汁たっぷり!


 ソーセージの味が複雑だ。

 おそらくいろんなハーブを使っている。

 くせになる味だ。


 こっちの世界に来て、こんなうまいソーセージが食えるなんて!

 俺は美味しすぎて、大笑いしてしまった。

 ほんとに美味しいと笑うしかなくなるのだ!


 俺は、何本もおかわりした。


 ミルキーたちも、一心不乱にソーセージを食べていた。

 これは誰でもそうなるよね。


 そして気になるあの人……ニアさんは……


 ……やはり一言も発さずに、一心不乱にソーセージにかじりついていた。


 この肉汁たっぷりのソーセージのお陰で、全身びちょびちょになっていた………残念!



 そんな感じに、楽しい夕食の時間を過ごし、俺たちは大分打ち解けあって、そのまま雑魚寝してしまった。



 起きたら、すっかり日が昇っていた。


 また、朝寝坊してしまったみたいだ。




  ◇




 とある一室。


「今日は勢ぞろいだな……いよいよ行くのか迷宮に……」


 白衣の男が腕組みしながら黒マントを見上げる。


「ああ、迷宮にピンポイントで攻め入って、中のアンデッド共を一掃してくれるわ」


 異形の顔を舌なめずりしながら答える黒マント。


「今日は、例の計画の実行日でもある。抜かりないだろうな? 」


「ああ、もう始まってる頃だろうよ。心配なら“使い魔”で確認してみるが良い」


「そうだな……。まぁ今宵は二つの良い報告で、うまい酒が飲めそうだなぁ。そうだろう?」


「くどい奴だなぁ……。迷宮を手に入れたら、すぐに呼んでやるから楽しみにしてるんだな」


「まぁ、せいぜい頼むよ」


「では、行ってくるぞ、ハハハ」


「うん……待て! “爪の”よ、ちょっと待て……どうも動きがないぞ。使い魔からの報告がない。一番近いマグネの街が何も動きがない。気配すらないぞ。他は動き出しているようだが」


 椅子から立ち上がり声を張る白衣の男。


「なに! あの人間、何かしくじりやがったか。使えぬ奴め。 まぁ良い、保険は仕込んである。“鞭の”よ、悪いがマグネの街に行ってくれるか? いざとなれば保険を使い、悪魔化させればいい」


「仕方がないざますね……本当は迷宮の方がよかったざますが……そっちはあなたが行きたいんざましょ……一つ貸しざますよ」


「すまぬな、くだらん人間の街よりも、迷宮の方が楽しめそうだからな。我らに従わぬ上級アンデッド共をいたぶってくれるわ」




 マグネの街の外壁で、 一羽のカラスの目が怪しく光る。


「やれやれ、尻拭いとは軽く見られたものざます。まぁ良いでしょう。その分、殺戮を楽しむざますよ。予定通り集めるざます」


 カラスは飛び立ち、今度は衛兵詰所の屋根に止まる。


「やれやれ、人間とは、こうも間抜けざますかね。捕まってるざます。まぁ私が来たからには、逆に好都合ざます。贄もいっぱいざます。下級ならすぐに来るざますね。この街はもう終わりざます。楽しみざます」


 カラスの目が怪しく光っていた……。

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