54.竜馬、最高かよ!

 あまりの盗賊たちの多さに、関所は騒然としている。


 これを、俺が全部退治したと正直に言うと……かなりの悪目立ちになっちゃうので……

 今回も都合の良いストーリーを作り上げたのだ。


 すなわち……


 俺が街道を歩いていると、『街の平和を愛する闇の掃除人』と名乗る覆面の男が現れて、盗賊を関所まで連れて行ってほしいと依頼された。

 本人は、他にやることがあると言ってすぐに去ってしまった。

 しょうがなく、俺は盗賊たちを連れてきたというストーリーだ。



 なんとか、そのストーリーに納得してはもらったのだが……

 それでも、すぐには解放してもらえずに、また衛兵長の部屋に通されてしまった。


「いやーグリム殿、今回は大変でしたなぁ」


 まだ二回目だというのに、衛兵長がやけにフレンドリーだ。


「ええ、突然、覆面の人に頼まれた時にはびっくりしましたが、すぐに行ってしまわれたので、引き受けざるをえなかったのですよ」


「その“闇の掃除人”と名乗る覆面の男を見たのですよね? 」


「一応見ました。ただ一瞬でしたので……」


「何か特徴とかありませんでしたか? 」


「さぁ……特には思い当たりませんが……何か手配するとか……捕まえるとか……ですか? 」


「まさか……いや何とか連絡が取れるものならお礼をしたいのです。詳しくは言えないのですが、別の件でもこの街を救っていただいた恩がありまして……」


「そうでしたか……お役に立てずにすみません」


 よかった。手配されるわけではないようだ。


 そして、俺が詳しく聞くわけにはいかないが、守護の屋敷のハイド男爵と傭兵たちも無事に拘束してくれたようだ。


 ただ、今回俺が連れてきた盗賊たちは、数が多すぎて対処に困っているようだ。


 盗賊たちを入れる牢が無いらしい。

 詳しい事情は言えないと前置きの上で、別件で大量捕縛があり、牢が満員で空きがないとのことだった。

 どうも広場に簡易な柵を作り、一旦そこに入れることにしたらしい。


 そして、盗賊退治の褒賞金を、俺に貰ってほしいと言われた。


 なぜ?と思いつつ、もちろん即座に断った。

 何せストーリー的には、俺は『闇の掃除人』に頼まれて運んだだけなのだから。

 俺が貰うのは、どう考えてもおかしいはずだ。


 ところが、盗賊は捕縛した者というよりも、持ち込んだ者に褒賞金をもらう権利があるそうだ。

 例え話として、盗賊を捕縛した者が、その時の怪我が元で死んでしまっても、その知り合いや家族が盗賊を連れてくれば、褒賞金が渡されるというルールになっているらしい。


 まぁ実態としても、俺が捕まえたから貰ってもいいように思うが……なんとなく釈然としない。


 一応、今後『闇の掃除人』が現れたら払わなくていいのかと尋ねてみた。


 盗賊たちを捕縛したとはいえ、それを俺に託した時点で、盗賊たちの所有権は放棄されていて、俺に移ってるので問題ないそうだ。

 ただ、そもそも衛兵長の読みでは、褒賞金を貰いに来るとは思えないとも言っていた。


 それにしても、実態を知らない周りの人から見たら、タナボタ状態でおかしいと思われないだろうか……


 細かい経緯などは、一部の者しか情報が開示されないから、気にせずに貰っておけと言われた。

 神様からの贈り物だと思えばいいとも言われた。


 そして、できればこの街で商売か何か始めて、街に還元してほしいとも言われた。

 もちろん、街に還元することはやぶさかではないんだが……

 何か役立ちそうなことを考えてみるか。


 説得に応じて、褒賞金を受け取ることにした。


 すごい金額だった。


 盗賊一人三十万ゴルだから、通常の褒賞金だけで 四千五百万ゴルで、賞金首が何人かいたので、合計で五千五百万ゴルになってしまった。

 衛兵詰所でも、それほどのお金はないので、後日ということになった。


 そんな褒賞金ほんとに出して大丈夫なんだろうか……


 犯罪奴隷として、強制労働をさせたりするので、大丈夫という理屈らしいのだが……

 まぁそう考えると、確かに、人件費がかからない人手が確保できたと思えば、褒賞金で三十万ゴルぐらい出しても問題ないのかもしれない。


 これでようやく解放してもらったので、俺は急いでサーヤさんの家に帰る。



「みんな、ただいま!」


 俺は、元気よく帰ったのだが……


「もう遅いわよ! 何してたのよ! 大丈夫だったの? 」


 何やらニアがおかんむりだ……というか……心配なお母さん状態かな……。


「ごめんごめん。遅くなっちゃって。盗賊は、みんな捕まえたから、もう関所が襲われることはないと思うよ。ただ、人数が多すぎて、関所で時間が掛かっちゃったんだよ」


 更にブツブツ言うニアに謝りながら、みんなに大体の経緯を話した。


 それから、新しく仲間になったオリョウについて紹介した。


 オリョウにも、霊域に行くことを勧めてみたが、全く無駄だった。

 むしろ、なぜそんなことを言うのかと、軽く説教される始末だった……解せぬ……。


 俺のパーティーメンバーには、念話が通じるので念話で挨拶をしていた。


(あちし、オリョウ。これからよろしくなわけ。仲良くヨロって感じ。見た感じみんな“最高かよ”って感じ)


 という感じで、独特の挨拶をかましていたが……


 リン、シチミ、フウは一瞬固まっていたように見えた……。


 そして、ニアは、やはりニヤニヤしてる……

 やばい、やっぱり気に入ったようだ……もう笑うしかない……。


(私はニア、子供たちを助けてくれたんだって。すごいわ。これから仲良くしましょうね)


(助けるのはマジ当然、あちしの心はいつも熱々なわけ、ニアパイセンよろしくって感じ)


 パイセンって……変なコンビが誕生されても困るんですけど……。


(リン、仲良くする、よろしく)

(オイラはシチミ。困ったことがあったら、オイラに任しとけい! )

(フウ、よろしく)


(リンちゃん、シチミ、フウちゃん、まじいい感じ。末永くヨロなわけ。最高かよ! )


 本当に、クセが強い! おなかいっぱいでーす!


 それにしても……なぜシチミだけ呼び捨て……

 シチミが本当に不憫でならない……いじられキャラへの道を突き進んでいる気が……。


 他の子たちとも、念話は通じないが、挨拶をしていた。


 ちなみに、オリョウは、レベル12だ。

 通常の馬ならレベルは3前後で、軍馬でも10前後らしいので、結構高めだ。

 野生暮らしで鍛えられたのだろうか……


 そして、種族固有スキルで『健脚LV.4』というのを持っている。

 また、通常スキルで『なぎ払いLV.2』と『爆走LV.3』を持っている。

 盗賊をしっぽで吹っ飛ばしていたのは、『なぎ払い』スキルを使っていたのかもしれない。


 竜馬は、霊獣などではなく、通常の生物なわけだが、オリョウはかなり優秀なのではないだろうか。



 霊獣たちも大分元気になってきたようだ。


 ここで、霊獣たちから頼み事をされてしまった。


 何となく予感がしたが……やはり名前をつけてほしいとのことだった。


 確かに、名前がないと呼ぶ時に不便だとは思っていたけど……。


 早速名前をつけてあげる……


 てか……もしもし……ニアくん……まだ名前を発表する前から……ジト目をするのはやめてほしい……強く抗議したい……。


 気を取り直して名前だが……


 『トレント』——レントン 性別なし

 『スピリット・ブラック・タイガー』の子供——トーラ 女子

 『スピリット・タートル』——タトル 女子

 『スピリット・ブロンド・ホース』——フォウ 女子


 ……となった。いつも通り思いつきでしかない……。


 ちなみに、この子たちも、霊域の他の霊獣たちと同じように、心の仲間チームメンバーとして、『絆登録』しておいた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る