特別短話『サーヤと、ミルキー。』
「ねぇ、サーヤさ……サーヤ、どうして私たちを住まわせてくれることにしたの? 」
兎耳の美少女ミルキーが、申し訳なさそうに訊く。
「それはね……さっきも言ったけど……前に暮らしてた親友に、なんとなく雰囲気が似てるのよ。ほっとけなくて……。あっ、でも……亡くなった親友の身代わりとか……そういうんじゃないから……」
家妖精シルキーのサーヤが、懐かしむような表情で答える。
「うううん、そんなこといいの。むしろ嬉しい。サーヤの親友だもの、とってもいい人だったんでしょ? 」
「そうよ、いつも元気で明るくて、一生懸命。そのくせ変なとこが抜けてたりするのよね……」
「えー、じゃぁ、姉ちゃんとそっくりだ。姉ちゃんも変なとこが抜けてるからなあ」
末っ子の弟ワッキーが、茶化したように言う。
「こら、ワッキー! お姉ちゃん、そんなに抜けてないぞ! 」
「そんなことないよ、お姉ちゃん。この件に関しては、ワッキーを支持する!」
反論するミルキーに、三女のユッキーがダメを押す。
「そだねー」
次女のアッキーも同意のようだ。
「あらあら、知らぬは本人ばかりなりね……」
サーヤが愉快そうに腕を組む。
「えーもう……そんなことないけどなぁ……」
参ったとばかりに、額に手を当てるミルキー。
「「「わはははははははは」」」
なんとなくおかしくなり、みんなで、お腹を抱えて笑い合った。
サーヤは、ふとこの十年の一人暮らしを思う……
家族はいい……賑やかな家は暖かい……そんな気持ちをかみしめるのだった。
「実はさぁ、サーヤ、私……今まで友達っていなかったんだよね。ずっと山暮らしだったから……そんな私で良いのかな……」
ミルキーが、呟くように尋ねる。
「じゃぁ、私が記念すべき友達第一号ね。とても光栄だわ」
ミルキーの不安を吹き飛ばすように、明るく答えるサーヤ。
「友達っていっても、どうしたらいいか……私わからないのよね……」
サーヤに心を開いた故か、更に不安を吐露するミルキー。
「簡単よ……一緒に居ればいいの。無理に話をしたり、話を聞いてあげたり、そんなことしなくていいの。同じところに居るだけでいいの。お互い好きなことをすればいいのよ。家族も友達も一緒。それに、私達はこれから一緒に住むんだから。友達でもあり家族でもあるんだから。ありのままでいいんだよ。今みたいに、不安なことがあったら正直に言ってくれればいいし」
サーヤが、母親のような優しい笑顔で、諭すように話す。
「ありのまま……」
「そう、ありのままでいいの……一緒にいるだけで大丈夫。それだけで充分支え合ってるの。友情も家族愛も、ちゃんと育っていくわ」
「わーい! じゃあ簡単だね! 好きにしてればいいんだね」
鼻の下をこすりながら、おどけてみせるワッキー。
「ええ、もちろんよ。ただし、ワッキー君、お手伝いはちゃんとやってもらいますからね! 」
「やっぱそうかぁ……はーい! わかりました」
みんなで、お互いを見やりながら大爆笑した。
ミルキーは、心がふわっと軽くなるのを感じた。
サーヤと話していると、お母さんと話してるような気持ちになるのだった……。
「じゃぁ、みんなの部屋に案内するね。必要なものは、これから揃えるからね……」
張り切るサーヤの後を、みんなでついていくのだった……。
サーヤ、ミルキー、アッキー、ユッキー、ワッキー、それぞれが、なんとも言えない暖かくて幸せな気持ちに包まれていた。
そして何よりも、十年ぶりに活気を取り戻したこの家自身が暖かさに包まれていた……。
小さな小さな光の粒の渦が、家を取り巻き、溶け合いながら吸収されていった…………。
『あったかいね』
『あったかいよ』
『ポカポカだね』
『ポカポカだよ』
『芽吹くね』
『もうすぐだね』
『新たな宿り木』
『楽しみだね』
素敵な家の赤い屋根が、明かりが灯されるかのように、柔らかな光を一瞬発していた……。
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