52.クセが、強い!
兎耳少女が再び目を覚まし、身支度を整えて俺のところに来た。
「さっきは名乗らずにごめんなさい。私は、ミルキーです。助けてくれて、感謝です」
そういえば、まだ名前聞いてなかったんだよね。
でも大分元気になったようだ……。
「俺はグリム、よろしくね」
早速、ミルキーの妹達のところに出かけることにするが、全員で行くわけにはいかない。
拐われていた子たちが、まだ回復しきってないからね。
そこで、今回はニア、リン、シチミ、フウは留守番してもらうことにした。
万が一のことを考えて、俺以外の戦力を全てここに残すことにしたのだ。
みんなそれぞれについていきたがったが、ここを守るのが最優先と言い聞かせ、了承してもらった。
俺とミルキーの二人で行こうと思ったのだが……
「グリム様、私も同行いたします」
サーヤさんが同行を申し出た。
話を聞くと……
サーヤさんが一緒に行けば、何かあっても、すぐに『
確かに、それは魅力的な話だったので、一緒に来てもらうことにした。
早速、出発した俺たちは、関所に来ている。
サーヤさんの家から見える外壁を乗り越えるのが一番早いが、関所から出ておかないと、盗賊を捕まえて、引き渡す時に不自然に思われる可能性があるからだ。
身分証があるし、門番の一人は、先日訪れた時のことを知っていたので、すんなり通してくれた。
サーヤさんとミルキーは俺の連れということにし、人探しに行くということになっている。
門番の衛兵たちは、気をつけるように何度も注意してくれた。
暗に、危険だから思い留まらせようという感じだったが、ミルキーの妹達をすぐに探さないといけないと言って何とか通ってきた。
逆に、少し待ってくれれば、手の空いている衛兵を集めて、捜索を手伝うとまで申し出てくれた。
俺は恐縮しながら、一刻も早く探しに行きたいからと丁重にお断りした。
みんないい人たちだ。
しばらく街道を進み、関所から見えなくなったところで、ミルキーの家に向かう森の中へと入った。
西にしばらく進むと、小さな小屋が見えてきたのだが……
「ああ……、アッキー、ユッキー、ワッキー! 姉ちゃん帰ったよ! みんなどこ! 」
小屋の様子を見て、ミルキーは慌てて叫びながら飛び込んだが……
誰もいないようだ。
そして、ひどく荒らされている。
小屋自体も半分ぐらい壊されている感じだ。
これはやばい……盗賊に見つかったのかもしれない……。
俺は、『聴力強化』スキルと『視力強化』スキルを使う。
ミルキーは、妹たちの名前を呼びながら探している。
サーヤさんも一緒に探してくれているようだ。
北の方角に、かすかな音を拾った。
「多分向こうだ! 」
俺は叫びながら指差す。
みんな一斉に走り出した——
「諦めろ! もう逃げられないぞ」
「全く、すばしっこい兎共だ」
「大人しくしないと痛い目を見るぞ!」
「それにしても、この竜馬はなんだ!」
「突然出てきやがって」
「まぁいい、こいつも捕まえて、飼い馴らしてやるさ」
「いや、やめてー!」
「姉ちゃんを離せ!」
「いや、助けて、助けてミルキー姉ちゃーん!」
おっと……ギリギリ間に合ったようだ。
お前たちの思い通りにはさせないよ!
俺は、走りながら魔法紐を鞭状にして、盗賊たちに放つ。
ビュウンッ——
——ベシィーンッ
盗賊が一人吹っ飛ぶ!
「何、誰だ」
「なんだ」
「なんぢゅぼっ…」
子供たちと一緒にいる大きなトカゲが、盗賊の一人を尻尾でなぎ払った。
どうやら子供たちを守ってくれているようだ。
俺は続けざまに魔法紐の鞭を放ち、すべての盗賊を吹っ飛ばした。
「もう大丈夫だよ。もうすぐミルキーが来る!」
「え、お姉ちゃんが」
「アッキー、ユッキー、ワッキー!」
大きな声で叫びながら、全速力でミルキーが向かってくる。
「「「お姉ちゃん!」」」
三人の子供たちが、一斉にミルキーに向かって走り出した。
俺は、その間に盗賊たちを縄で拘束した。
ミルキーと妹たちが抱きしめあいながら泣いている。
大事に至らなくてよかった……。
かなり遅れたがサーヤさんも到着したようだ。
息を切らしながら、ミルキーたちを見守っている。
それにしても……ミルキーは、驚くほど足が速い。
距離がそれほどなかったとはいえ……こんなに早く俺に追いつくとは……。
ミルキーは、妹たちに捕まった経緯を話し、心配かけたことを謝っているようだ。
少し落ち着いたようなので、俺は改めて挨拶をする。
「はじめまして、グリムです。よろしくね」
「あの、お姉ちゃんを助けてくれてありがとう」
「私たちのことも、助けてくれてありがとうです」
「ぼく、ぼく、いろいろ、たしゅけてくれて、ありがと、ございんす」
子供たちが順番にお礼を言ってくれた。
上から、アッキー十三歳、ユッキー十一歳、ワッキー九歳とのことだ。
一番下の子は男の子で、緊張しているのか噛んじゃってるね。
ちなみに、ミルキーは十五歳らしい。
そしてもう一人……というか一体……俺の方ずっと見ている……
……大きなトカゲだ。
サーヤさんによると、
二足歩行の大型のトカゲで、足が太くどっしりしていて、手は小さく短い。
体色はグレーが多いようだが、この子は青っぽい色だ。
馬車を引いたりするそうで、馬よりもはるかに人気があるらしい。
そういえば、前にニアが言っていた気がする。
野生の
子供たちの話では、突然現れて助けてくれたそうだ。
なんだか……仲間になりたそうに見つめている……ような気がしないでもない……
「子供たちを助けてくれてありがとう」
俺は笑顔でお礼を言った。
尚もつぶらな瞳でずっと見つめている。
「もしかして……仲間になりたかったり……する? 」
すると、即座に首肯した。しかも何回も。
——
おお、久しぶりの天声だ。
この人は、どういう時に、どういう理屈で出てくるのだろう……
やはりテイムした時には必ず聴こえるものなのだろうか……
多分違う気がするが……
本当に気まぐれだ……
天声は忘れた頃にやってくる……なんて……まぁそんなことはどうでもいいんだ。
名前をつけてあげるか。
俺は、なんとなく、『オリョウ』という名前をつけた。
坂本龍馬の奥さんの名前から取ったわけではない……あくまでなんとなくだ……。
オリョウは、何か嬉しそうにしている。
そして俺の
(オリョウ、これからよろしくね)
(ご主人、あちし、頑張っから、なんでも言って! ご主人のこと、まじ気に入ったし、今の気分、“最高かよ”って感じ)
(あ、ああ……)
俺は微笑むしかなかった。
この感じ……なんとなくデジャヴ……
……なんか……やばい子を仲間にしちゃった気がしないでもない……
なんとなく……ライジングカープのキンちゃんぽい感じがしないでもないし……。
(なんでこの子たちを助けてくれたんだい? )
(なんでって……弱いもん助けんのは当然なわけ。正義の味方ってそんな感じっしょ! 見て見ぬふりなんて、マジ勘弁! あんなダメンズ、あちし一人でもボコボコなわけ。マジ手加減なしだかんね)
出たー……クセが強い!
言ってることは素晴らしいけど……完全に“クセ強キャラ”来ちゃったよ。
これがガチャだったら、レアキャラなんだろうけど、ダブり来た的な、おかわり来ちゃった的な……。
まぁ面白いからいいけどさ。
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