51.兎耳少女の、 SOS。
俺たちは、霊獣たちを休ませてある広間へと向かう……
確かに、みんな目を覚ましたようだ。
「みんな大丈夫かい? 改めて挨拶させてもらうよ。俺はグリム、君たちの霊域の新しいマスターになったんだ。フラニーたちに頼まれて、助けにきたんだ」
俺は、しゃがんで、眼線を合わせて、改めて挨拶をした。
「助けてくれて、ありがとなのだ、マスター」
「主様、ありがとう」
「マスター、心より感謝いたします」
「ご主人様、感謝します」
『トレント』『スピリット・ブラック・タイガー』『スプリット・タートル』『スピリット・ブロンド・ホース』が順番に感謝を述べてくれた。
俺はみんなに、『ボルの森』に魔物が攻めてきた時の顛末を簡単に説明した。
そして、みんなの心身が回復したら、すぐに連れ帰ると約束した。
フウは、みんなとスリスリしながら喜び合っていた。
ニア、リン、シチミも自己紹介して、一緒に話をしていた。
サーヤさんも一緒に話を聞いていたが、兎耳の少女は別の部屋のベッドで寝ているので、ここにはいないのだ。
『スピリット・ブラック・タイガー』の子供に、両親が無事である旨伝えると、大きく安堵して涙をこぼしていた。
俺は、念話でフラニーに、みんなを救出したことを連絡し、もう少し回復を待ってから連れ帰ると伝えた。
『スピリット・ブラック・タイガー』の夫婦は目を覚まし、快方に向かっているそうだ。
俺は『波動収納』から、『ボルの森』でもらった霊果を出し、みんなに食べさせてやった。
『マナップル』は魔力回復効果、『マナウンシュウ』は身体力回復効果、『マナバナナ』はスタミナ回復効果、『スピピーチ』は気力回復効果があるから、みんなの回復もより早まるはずだ。
これで一安心だ。
残るは兎耳の少女だけだが……
サーヤさんに様子を見てきてもらうと……
目を覚ましたそうだ。
俺たちは簡単に自己紹介をし、なぜ捕まっていたのか尋ねる。
「早く……早く家に戻らないと……妹たちが待っているんです……心配しています……」
詳しく話を聞くと……
この兎耳の少女は、俺たちがこの街に来る時に通った、あの不可侵領域といわれている街道の山で暮らしていたそうだ。
両親は亡くなり、妹二人と弟一人の四人暮らしをしていたのだという。
狩りに出ていたところ、突然、何者かに麻痺攻撃を受けて体が動かせなくなり、捕まったらしい。
今頃、妹たちが心配して探しているに違いないという。
もし盗賊たちの縄張りに入ったり、見つかったりしたら命の危険に晒されてしまうとのことだ。
一刻も早く、無事を知らせに家に戻りたいと懇願された。
そういうことなら急いだ方が良さそうだ。
ただ、まだふらついているので昼まで休み、その後、俺が付き添って連れていくことで、了承してもらった。
サーヤさんの作ってくれたご飯と、俺の持ってきた霊果を食べて、少しでも元気になるように励ました。
実はちょうどよかった……
何せ俺は、これからあの街道に戻って盗賊退治をするつもりだったからだ。
“悪だくみぶっ壊し作戦”はまだ終わっていないのだ。
奴らの計画には、盗賊が入っていた。
相当数、抱き込んでいたはずだ。
何せ盗賊に関所を襲わせて、防衛している衛兵を後から射つという計画なんだから。
盗賊たちを潰しておかないと、関所が襲われてしまうのだ。
俺は兎耳の少女の依頼がなくても、あの不可侵領域の街道に戻って、盗賊たちのアジトを潰すつもりだった。
だから、まずはあの子を家に送り届け、その後、予定通り盗賊退治をすれば良いのだ。
そして俺は、もう一つ忘れていたことを処理する。
俺は外に出て、リンを呼んだ。
「リン、昨日の守護の館から持ち帰ったものを出せるかい? 」
「リン、出せる。今出す」
そう、昨日リンに頼んだ極秘任務、“守護の館の武器や危険な物などの回収”の確認がまだだったのだ。
かなりの数がある……リンは、かなりの物量を回収してきてくれたようだ。
まず、武器や防具などが結構あった。
剣、槍、斧、弓、盾、鎧等一通りある。
各種一つじゃなく、何個かあるから、一緒のコレクションかもしれないが……
きれいに装飾された高そうなものもある。
時間がないので、鑑定は後回しだ。
他にも、絵画や彫刻のようなものもある。
これはどうでもいいが……。
驚いたのは、動物や魔物の剥製がかなりの数あることだ。
二十体ぐらいある……。
あのゲス野郎のコレクション話は本当だったらしい。
これらが、剥製として手に入れたものか、殺して剥製にしたのかのか、わからないが…… 。
考えると気分が悪くなるから今はやめとこう……
そしてなんとリンは、宝箱を三箱も持ってきていた……
かなりの金貨と宝石が入っている……
これは……まずったかな……
「リン、この金貨は、館にあったの全部持ってきちゃったのかい? 」
「全部違う。隠してあった、秘密の悪い部屋のやつだけ、他の部屋のお金持ってきてない」
おお……リンは、むやみに持ってきたわけじゃないんだ。
これはどうやら……リンちゃん、グッジョブらしい。
おそらく、隠し部屋にあったということは、悪巧みのために用意したお金に違いない。
もし、館にある公的なお金まで持ってきてしまったらまずいと思ったのだが、その心配は無さそうだ。
今更返すのも大変だし……このお金は……取り上げてしまった方が良いかもしれない……。
なんとなく、俺が貰うのも違う気がするが…… 。
いずれにしろ、一旦このまま預かっておこう。
そして、魔術書や歴史書なども何冊か入っていた。
これも……直接騒乱の手段にはならなそうだが……
今更返すの大変だし……貰っておくことにする。
実は後でじっくり読みたかったりするのだ……。
そして、リンは、すごいものを持ち帰っていた……
なんと、ハイド男爵の騒乱計画の詳細が書いてあるメモがあったのだ。
傭兵たちが話していた計画の概略などがしっかり書いてある。
彼なりに綿密な計画を立てていたようだ。
しかも、ご丁寧にハイド男爵の印が入った便箋に書いてあるのだ。
もし傭兵たちが計画を証言すれば、ハイド男爵の便箋に書かれたメモは、それを裏付ける証拠として決定的な役割を果たすのではないだろうか。
俺はリンを労った後、回収してきた物を『波動収納』に収めた。
そして、みんなに待機するように言って、一人出かけた。
ちなみに、サーヤさんの家は、昨日下見の時に少し見た、北西の外れにある林の奥側の端にあったようだ。
ここなら、ほとんど人通りがないから、のんびり生活できるだろうし、隠れるとしても最適かもしれない。
騒乱計画のメモがあったことによって、俺は賭けに出てみることにした。
それは、衛兵に男爵と傭兵たちを捕らえさせるというものである。
普通なら街の最高権力者を捕らえさせるなんてことは期待できないが、このメモがあれば、そしてあの衛兵長なら……。
衛兵長は、一度会っただけだが、真っすぐで正義感の強い性格に見えた。
もしもの可能性にかけてみたくなったのだ……。
衛兵詰所までは、結構距離があるが、俺は屋根の上を全力疾走して、すぐにたどり着いた。
俺は『隠密』スキルを使って、こっそり証拠のメモ書きと事件のあらましを書いた紙を衛兵長の部屋に投げ入れた。
そして、あらましを書いた紙には、本気で捕まえる気があるなら、男爵と傭兵たちの拘束場所を教えると書いておいた。
全くの匿名というよりも、街を守りたいという気持ちを表すために、『街の平和を愛する闇の掃除人』という少しキザな名前を入れておいた。
俺は、近くの建物の屋根に伏せて、気配を消しながら衛兵詰所の様子を確認していた。
一人、早馬を駆って飛び出していった。
おそらく、守護の屋敷に向かったのだろう。当然確認するよね。
さすがに今頃は、屋敷でも主人がいないことに使用人たちが気づいているのではないだろうか。
しばらくすると、衛兵が帰ってきた。
報告を受けた衛兵長が表に出てきた。
衛兵たちを集めている。
どうも捕縛の準備をしているようだ。
俺は『聴力強化』スキルを使って話を聞き取る。
聞き取った情報によると……
やはり衛兵長は、本気で逮捕する気のようだ。
信頼できそうだ。
あのハイド男爵は、よほど評判が悪かったらしく、むしろこんな機会を待っていたような感じの発言をしている。
衛兵たちも同じようだ。
これは、うまくいきそうだ。
俺は、監禁場所を書いたメモに石を詰めて丸め、気づかれないように注意して投げ入れた。
———メモを確認して、早速捕縛に向かうようだ。
俺は、『波動収納』のサブコマンド『登録品回収』を使う。
守護の屋敷の倉庫に設置した巨大な石を回収したのだ。
そうしないと衛兵長たちが、ハイド男爵たちを確保できないからね。
この『登録品回収』は、事前に登録してある物を『波動収納』に回収するサブコマンドだ。
距離が離れていても関係なく回収できる。
“登録品”といっても、一度『波動収納』にしまったものは、波動情報が分かるので、事実上いつでも回収できるのだが。
これで確保できるだろうし、その後の事は衛兵長に任せればいいだろう。
俺はみんなの待つ家に帰って、このことをみんなに報告した。
リンが持ってきてくれた情報が、大いに役立ったことを伝え褒めてあげた。
もちろんリンは三回バウンドしていた。
そして、シチミも嬉しかったようで、三回開閉変なステップ付きを披露していた。
この後は……兎耳少女の手助けと盗賊退治だ!
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