50.シルキーと、素敵な家。
俺たちは、ニアたちが待つ秘密の地下室に戻る。
サーヤさんは、先程より少し回復しているようだ。
「お待たせ」
「結構早かったわね。うまくいったの? 」
尋ねるニアに首肯する。
「もう大丈夫です。魔法が使えます。皆さん、行きましょう。私の周りに集まってください」
俺たちは、サーヤさんの指示に従い周りに集まった。
「
サーヤさんが呟くと、俺達の周りを白っぽい光の輪が包む……
景色が歪んだと思ったら、やはり一瞬で別の場所にいた。
どうやら、サーヤさんの家の玄関先らしい。
大きな屋敷というわけではないが、それなりの広さがある家だと思う。
庭も結構広そうだ。
俺たちは、早速中に入れてもらい『ボルの森』の霊獣たちと、一緒にいた兎耳の少女を寝かしつけた。
サーヤさんが、大きな広間に厚手の布を敷いて寝床を作ってくれた。
ベッドが二つあるようで、俺に使うように言われたが辞退した。
サーヤさんと兎耳の少女に使ってもらった。
いろいろ聞きたいことがあるが、今は休んだ方が良いだろう。
明日の朝ゆっくり話すことにして、そのまま休んでもらった。
俺も森の霊獣たちと一緒に雑魚寝した。
みんな衰弱が激しいが、命の危険はなさそうだ。
リン、シチミ、フウが念のため、夜番をすると申し出てくれたので、お願いした。
休まなくて平気かと尋ねたが、三人で交代で休憩するし、話してると楽しいから大丈夫とのことだ。
人間の前では話せないから、遠慮なく話せる時間が楽しいのかもしれない。
翌朝、目が覚めると、サーヤさんはもう起きていた。
完全に日が昇りきっているから、早朝というよりは、大分お寝坊した感じだ。
朝ご飯の支度をしているようだ。
「サーヤさん、もう大丈夫なんですか? 」
「ええ、大丈夫です。まだ本調子ではありませんが、朝ご飯ぐらい作れますよ。もうすぐできるから待っててくださいね。外に井戸がありますから、そちらの水を使ってください」
「ありがとうございます。お庭をちょっと見てもいいですか?」
「どうぞ、たいしたものは植わってませんけど……」
俺は、外に出て、両手を広げる。
新鮮な朝の空気を体の隅々まで取り込む。
「リン、フウ、シチミおはよう。夜番は大丈夫だったかい? 」
「おはよう。大丈夫。リン、平気」
「おはようさん。バッチリだぜ。任しとけって」
「はい、大丈夫です。おはよう、ございます」
俺の挨拶に、みんな元気に答えてくれた。
俺は、井戸の水で顔を洗ってから、庭を見渡す。
ここの庭は、かなりいい感じに作られている。
イングリッシュガーデン風のおしゃれな庭だ。
素朴でありながら洗練されている。
庭の中央にきれいに小道が作られており、その両側に、手前から奥へと草丈がだんだん高くなるように植物が配置されている。
奥の方には、おしゃれで素敵なオリーブの木がある。
ブルーベリーの木もあるようだ。
ブルーベリー大好きなんだよね……
そして、色とりどりの花が咲いている。
一定の区切りで、同系統の花色がまとめて植えてある。
ガーデンの中で、色の塊が楽しめるようになっている。
ハーブもあるようだ。
おお……これはワイルドストロベリー。
ジャムにするとおいしいんだよね。
このミントは……ほんのり……りんごの香りが……アップルミントのようだ。
一画には野菜も作ってある。
ラディッシュに、葉物野菜が中心だ。
ちゃんと庭の雰囲気を崩さないように配置されている。
サーヤさんは、かなりのガーデナーと見た。
素晴らしい!
目で見て美しいだけでなく、食べ物としての恵みもある素晴らしいガーデンだ。
「ちょっと、ご飯できたってよ」
ニアが飛んでくる。
いつの間にか起きていたようだ。
「わかった。いくよ」
霊獣たちや兎耳の少女は、まだ寝ているようだ。
回復魔法をかけたとはいえ、呪いの影響であまり効いてないからね。
目覚めるまで、そのまま寝せておくことにした。
ということで、朝食は俺たちパーティーとサーヤさんだけだ。
スープを作ってくれたようだ。
あと葉物野菜と干し肉の炒め物。
パンも軽く炙ってくれたようだ。
「「「いただきます」」」
「い、いただきます」
俺たちの挨拶を見て、サーヤさんも真似してくれた。
スープは細かく刻んだ野菜が柔らかく煮てある。素朴で体に優しい味だ。
この絶妙な塩加減を出すのは、結構難しいんじゃないかな。
葉物野菜の炒め物もすごくおいしい。
総じて、素朴であったかい家庭料理という感じだ。
サーヤさんは家妖精だけあって、かなりの女子力のようだ。
さすがに、ニア様の皿とかはなかったが 、一番小さな皿に取り分けてくれた。
スプーンは、計量用の一番小さいやつだったが、それでもニアには大きかった。
ニアとサーヤさんは、同じ妖精族ということで親近感を感じているようだ。
当然、まだそれほど、打ち解けてないが、悪くない雰囲気だ。
リン、シチミ、フウも美味しそうに食べていた。
といっても……リンは、一口で丸呑みだし……。
シチミは宝箱の蓋を開けて、流し込むだけだし……。
一瞬で食事が終わってしまうのだ。
俺たちは、サーヤさんになぜ捕まっていたのか、事の顛末を聞いた。
サーヤさんは、街の北西のはずれにあるこの家に、もう八十年ぐらい住んでいるらしい。
なんと、サーヤさんは百二十八歳とのことだ……
見た目は普通に二十歳前後だが……。
人族の友達の女性と、ずっとこの家で暮らしていたらしい。
ただ、その友人は百二十歳で、老衰で亡くなったらしい。
かなりの長生きなので、この世界の人族はみんな長生きなのか訊いてみると……
普通は長生きしても七十歳から八十歳くらいだそうだ。
サーヤさんの家魔法や手厚いケアで寿命を延ばしたそうだ。
亡くなってからは、サーヤさん一人で ひっそり暮らしていたそうだ。
もう十年になるとのことだ。
森妖精の『ドライアド』が、森を守る妖精であるように、家妖精である『シルキー』や『ブラウニー』は、家を守る妖精なのだという。
それ故に、妖精族の中では珍しく、人族と関わっているものが多いのだそうだ。
特に『シルキー』は見た目が、普通の人族と区別がつきにくいので、人族として暮らしていることもあるらしい。
ちなみに、耳の先が少し尖ってるという程度の違いしかないそうだ。
もちろん、『鑑定』スキルがある人間が見ればわかることだが……
サーヤさんは、基本的にはこの家で静かに暮らしていて、出かけるとしても、すぐ近くの林で野草を摘んだり、木の実を採ったりという程度らしい。
たまに、メイン通りのお店に買い物に行くらしいのだが、たまたま出かけた時に、人間に化けていた悪魔に見られたらしく、突然麻痺攻撃をされ、家魔法で逃げる間もなく拘束されてしまったとのことだ。
この家に転移してきたのは、家魔法の系統で、シルキーの種族固有スキル『
家魔法自体も森魔法と同様にレアスキルらしい。
家魔法にどんなものがあるのか興味があったが、会ったばかりなので自重した。
兎耳の少女とは知り合いではないらしい。
彼女が一番最後に秘密の地下室に連れてこられたそうだ。
「マスター、みんな目覚めました!」
様子を見に行っていたフウが知らせに来てくれた。
みんなお目覚めのようだ……
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