49.強行、突入!
「私は……シルキーの……サーヤと申します……助けていただき……ありがとうございます。なんとか……『家魔法』一回分は使えそうです……私の家に……転移できます。そこで、しばらく回復を待った方がいいと思います……」
銀髪美人さんが、苦しそうにしながらも、気丈に提案してくれる。
『シルキー』という種類の妖精族らしい。
ゲームの知識では、有名なブラウニーと同じように、家妖精だった気がするが……。
おそらく、『ドライアド』のフラニーと同じようなことができるのだろう。
ここにいる全員を転移できるか訊いたところ、もう少し回復したらできるということだった。
俺達は、その案に乗ることにした。
サーヤさんの回復を待っている間に、もう一つやらなきゃならないことがある。
俺の大事な森の仲間たちをこんな目にあわしたヤツを許すわけにはいかない。
そして、奴らの計画もぶち壊す!
俺は、ニアとフウにこの場を任せ、悪党退治に向かった。
朝に納品した倉庫に行くと、扉に鍵はかかってなかった。
傭兵たちが、出入りしてるのかもしれない。
扉を開けて、そっと忍び込んだが誰もいないようだ。
俺は、今朝納品したクロスボウ含め、倉庫にある武器などを押収する。
家具や調度品などお構いなしに、倉庫にある物を全て丸ごと、一括で『波動収納』にしまってやった!
これで倉庫は、まっさら状態だ。
すると、地下室へのドアが簡単に見つかった。
そっと覗くと……かなり広い空間がある。
おそらく……五十人以上いる。
よくこんな広い空間を作ったものだ……感心してる場合じゃなかったか……。
一緒に来ているリンとシチミと手分けして、一気に拘束することにした。
シチミは、通常の宝箱姿に戻っている。
「よし! じゃあ突っ込むぞ! 」
最初にシチミが、種族固有スキル『マルチトラップ』の中から『閃光』という技を発射する。
これは刑事ドラマなどで、特殊部隊が強行突入する時に、犯人のアジトに投げ込む“ 閃光弾”と同様のものだ。
相手は、強烈な光に視界を奪われるのだ。
———そして突入!
———先頭は俺だ!
手前にいる十人ぐらいの集団を、魔法紐を巻きつけて一気に拘束する。
今日の日中に練習した成果で、かなり自由自在に紐を動かせる。
鞭ような速さと蛇のような動きで、一気に十人まとめて締め上げたのだ。
この紐は、拘束紐として使う時、麻痺効果を持つので捕まった者はもう動けない。
俺はそのまま、魔法紐の使っていない反対側で同様にもう一つの集団を確保した。
その間に、シチミが、いつものように『マルチトラップ』の『投網』を発射する。
しかも連続発射だ!
これで二十人ぐらい確保した。
そこから漏れた傭兵を、リンが種族固有スキル『変形』で作った十本の鞭のような触手で拘束した。
なんだかリンの触手の使い方が洗練されてきた気がする。
数も増えているし、磨きがかかってる感じだ。
俺たちは、電光石火の早業で傭兵たちを拘束してしまった。
傭兵たちは、声を上げる暇もなく、ほとんどの者は、何が起きたかさえわからなかったに違いない。
今回はシチミが大活躍だった。
能力的にもこういう作戦に向いている。
あとは、俺とリンで、『状態異常付与』スキルから、『眠り』を付与しておとなしくさせた。
この秘密部屋に、丁度ロープがあったので、全員そのロープで縛りあげた。
ロープが五束もあって助かった。
もちろん、ここにあった武器、防具、傭兵自身が身に付けていた装備品も全て没収し、『波動収納』にしまった。
他にも傭兵たちが持っていた本や遊び道具、家具等も全部収納し、この秘密部屋も丸裸にしてやった。
何か隠してると困るからね…。
傭兵たちは、ほぼ下着姿だ。
もう隠し武器もないだろう。
そんな時だ。
外から物音がする……
俺たちは、地下の秘密部屋から地上の倉庫部分に移り、身構える……
「こ、これは! なんダヒョッ…」
俺は、入ってきた男を魔法紐で拘束した。
かなり良い身なりをしている……もしや……
俺は魔法紐を解いて、男の腕を後ろ手に絞り上げながら訊いた。
「お前は誰だ?」
「無礼者! お前こそ誰だ!」
「訊いてるのは俺だ!」
「いーいててっ……わかった……我は……この街の守護であるハイド男爵だ。わかったら、その無礼な手を離せ!」
この身なりの良い、嫌味ちょび髭の男は、やはり守護だった。
こいつが悪の元凶だ。
館の方に捕まえに行く手間が省けた。
「なぜ森の動物たちを捕まえ、閉じ込めていたんだ?」
「我が捕まえたのではない。これはある男にもらったものだ」
「それは悪魔だな? 」
「悪魔? 悪魔など知らぬ。背の高い異国の男に、報酬としてもらったのだ! 」
「何の報酬だ? 」
「いてててっ……わ、わかった、この街で騒乱を起こす計画だ。騒乱を起こして、街の人間をできるだけ殺せと……おそらく……この街か……国に恨みでもあるんだろう。計画はすべてあの男が立てた」
「閉じ込めていた者たちは、どうするつもりだったんだ? 」
「どうする? もちろん……飼うんだよペットとして……俺に隷属させて……
あの男のくれた魔法道具でな……従順な奴隷としてたっぷり可愛がってやるのさ……
まぁ、一緒のコレクションでもある。
珍しいものは集めたいじゃないか…… 死んでも剥製にして飾ればいい…… 」
反吐が出る。
今すぐ一発ぶん殴りたい。
「この計画を知っているのは、傭兵たち以外には誰だ? 館にいる者で知っているのは誰だ? 家族や使用人は知っているのか? 」
「ふん、知るものか、家族は領都におるわ。使用人共は、皆最近雇ったグズ共だ」
どうやら、このハイド男爵が己の野心のために、人間を装った悪魔に利用されたようだ。
屋敷の使用人たちや衛兵は関係ないらしい。
ということは……拘束すべき悪党は、これで全員拘束したことになる。
俺は、男爵をロープで縛り上げながら、リンに念話で極秘任務を与えた。
それは、守護の館……本邸と来客用の別邸があるが……その両方に潜入し、武器屋や襲撃に使えそうな物を回収してくることである。
『隠密』スキルと透明化ができるリンなら、館の使用人に気づかれずに遂行できるはずだ。
それにリンは、種族固有スキル『体内保存』を持っている。
これは、アイテムボックス系のスキルなので、かなりの物量が収納できるはずだ。
早速、リンは館の方へ向かってくれた。
俺は、霊獣たちが捕らわれていた地下室の見張りをしていた傭兵とハイド男爵を、傭兵たちが眠っている地下の秘密部屋に入れ眠らせた。
ハイド男爵によれば、この地下の秘密部屋は男爵しか知らないそうだ。
それを利用させてもらうことにした。
とりあえず、こいつらが悪事をできないように、閉じ込めるのだ。
本来であれば、衛兵に突き出すところだが……
何せハイド男爵は、この街の最高権力者、どう言い逃れするかわからない。
とりあえず、計画の決行日という2日後までは、ここに閉じ込めておくことにした。
俺は、シチミに倉庫の番を頼み、一旦、屋敷を出た。
この周辺を散策してる時に、見つけた物を取りに行っているのだ。
人目につかないように屋根の上を全速力で飛ぶように走る。
気分的には、鼠小僧かアメコミヒーローだ。
まぁ今はそんなことを考えている場合ではないが……。
俺は目的物を回収し、すぐに戻ってくると、回収してきたそれを倉庫の中に出した。
巨大な石である。
造成地のようなところがあり、巨大な石がいくつも落ちていたのだ。
この巨大な石で地下の秘密部屋の入り口を封鎖した。
そして倉庫の扉の内側にも大きい石を出した。
これで倉庫に入ること自体が大変になる。
この石を動かすのはかなり大変なはずなので、もし仮にここが怪しまれたとしても、時間を稼げるという計算だ。
ちなみに、この巨大な石は、俺の『波動収納』にしまったので、簡単に運ぶことができた。
俺たちは、外に出てから石を倉庫内に出していたので、後は扉を閉めるだけだ。
そして落ちていた錠前で施錠した。
丁度、リンも帰ってきた。
「リン、がんばった。隠れながら全部の部屋見た。多分大丈夫」
「ありがとう、リン。ご苦労様。じゃぁニアたちのところに戻ろうか」
俺たちは、ニアたちと合流するために歩き出した。
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