48.ミッション、スタート。
俺たちは納品を無事終え、宿に戻ってきた。
今は部屋の中で作戦会議中だ。
ニアたちの話によれば、秘密の地下室の見張りは、衛兵ではなく傭兵の一人らしい。
傭兵なら倒しても構わない。
もちろん、あえて殺すつもりはないが。
そう、俺は屋敷で傭兵たちの話を聞いて、奴らを潰すことに決めたのだ。
あんな話を聞いた以上、放っておくことなんてできない。
俺に親切にしてくれているトルコーネさん一家も、あの気さくな衛兵長も金髪美人さんだって、命が危ないのだ。
今夜、忍び込んで、拐われた子たちを救出すると同時に、あの傭兵たちを無力化する。
あんな計画、絶対に潰してやるのだ!
それはいいとして、一つ考えておかなきゃいけない問題があった。
拐われた子たちを救出した後、どうやって街の外に脱出するかだ。
当然、関所の門は、夜は閉まっている。
仮に開いてたとしても、目立ちすぎて堂々と通ることはできない。
一番いいのは、そのままの勢いで外壁を乗り越えてしまうことだ。
外壁は、魔物の侵入防止のために、十メートルくらいの高さがあるが、今の俺たちなら問題ないはずだ。
ただ状況によって、スムーズにいかない可能性もある。
そこで俺たちは、守護の屋敷から、外壁までの最短ルートを探るとともに、何かあった場合に一時的に隠れられる場所がないか、その周辺を探索することに決めた。
作戦は夜に決行するので、それまでの間に探索する予定だ。
俺たちは、トルコーネさん一家に迷惑がかからないように、宿を出ることにした。
トルコーネさんには引き止められたが、町の反対側の外れまで行ってみたいので、遅くなったらその近くで宿を取るかもしれないと説明した。
そして、戻れる時は必ずまた来るという約束をして、何とか解放してもらった。
もう昼近くなったせいか、通りを行き交う人も大分増えている。
この街は、ほとんど人族ばかりのようだ。
この世界の人族の国には、純粋な人族以外にも、“獣人”と言われる獣が人型になった者たちや、“亜人”と言われる耳や尻尾など体の一部だけが獣化している者たちがいるそうだ。
その割合などは、国や領、市町によって全然違うらしい。
純粋な人族以外の者達を迫害するようなところもあるらしい。
トルコーネさんの話では、このピグシード辺境伯領では、亜人や獣人に対する差別は基本的には無いらしい。
これは、領主の辺境伯の意向でもあるらしいのだ。
民思いの領主としてなかなかの評判のようだ。
ちなみに、この街の守護は、当然貴族でハイド男爵というそうだ。
評判は……すこぶる悪いらしい。
みえみえの野心家で、傲慢な男だそうだ。
表立っては言えないらしいが……。
いかに優秀な上司でも、部下全てに目が行き届くわけではないようだ……。
メイン通りを守護の屋敷の方に進むと、途中に大きな広場があり、いくつか出店があった。
ゆっくり楽しむのは今度として、とりあえず美味しそうな焼き串をいくつか買い込んだ。
昼と夜用だ。
『波動収納』に入れておけば、その時点での状態を保つので、ホカホカのままのはずだ。
俺たちは、外壁までの最短ルートを確認した。
ただ、その途中に隠れられそうなものはなかった。
北西の街はずれに林があり、そこなら隠れられそうだが……少し遠い……。
「隠れられそうなところが近くになかったけど……しょうがないね。後は……臨機応変に行こう!」
「出たー! それ完全に、
腕組みしながら、呆れ顔で言うニアだが、その
というか……どちらかというと好きだろう……。
夜になり、いよいよ作戦決行だ。
俺は念のため、顔が割れないように覆面をしている。
覆面といっても、昼に出店で買った黒っぽいタオルを巻いているだけだが……。
まず一枚を頭に巻きつける。陶芸家のような感じだ。
もう一枚は、掃除する時のように口に巻きつける。
目と鼻だけが出た感じになってるが……我ながら……かなり微妙だ……。
上と下でタオルを二枚使って……なんとなく学生の時に、大掃除でこれと似たような格好をした気がしないでもないが……。
今度余裕ができたら、ちゃんとした覆面をフラニーかケニーに作ってもらおう。
今日はこれで我慢するしかない……
決して大掃除の人ではないのだ……ある意味、悪人掃除するから、大きく外してはいないが……。
まず、門の衛兵二人は、『隠密』スキルと透明化でリンが近づき、『状態異常付与』スキルで眠りを付与し眠らせた。
俺達は、屋敷に入り、例の地下室まで直行する。
扉の番をしている傭兵は、先行したリンが同様に眠らせた。
こういう作戦でも、リンはかなり優秀なのだ。
地面にある扉は錠前がついているが、俺は力任せに引っ張り破壊した。
扉を開けて中へ降りる。
「みんな、助けに来た!」
フウが待ちきれずに飛び込んだ。
ニアもすぐに後を追った。
俺はリンに外の警戒を頼み、シチミ鞄とともに中へ降りた。
秘密の地下室は、完全に地下牢だった。
この中に番人いないようだ。
「フ、フウちゃん……」
「ああ……」
「フウ……」
「う、うう……」
みんな衰弱しているようだ。
『トレント』『スピリット・ブラック・タイガー』『スピリット・タートル』『スピリット・ブロンド・ホース』みんないるようだ。
他にも銀髪ロングの美人さんと、ピンク髪で兎耳の美少女がいる。
「俺はグリム、フラニーに頼まれて皆を助けに来たんだ」
俺は、牢の中のみんなに声をかけながら錠前を引きちぎる。
フウが仲間たちのところにかけよるが、相変わらずみんな苦しそうだ。
「ニア、回復魔法を頼む!」
「オッケー! まかしといて!」
ニアが一人ずつ回復魔法をかけていく。
「あなた……シルキーね。私は、ピクシーのニア、あなたたちも一緒に助けてあげるわ」
ニアはそう言うと、銀髪美人さんに『癒しの風』をかけてあげる。
「あの……私たちは……こ、この首輪のせいで……身動きが取れないのです。力も……吸われています。この首輪を……外さなければ……逃げることができません……」
少し回復した銀髪の美人さんが、身体を起こしながら力なく呟く。
全体的に、ニアの回復魔法があまり効いてない。
今の話からして、おそらく……この首輪が問題なのだろう。
「おそらく……これは……悪魔の呪印を刻み込んだ『支配の首輪』です。身体力(HP)、スタミナ力、気力、魔力(MP)を……徐々に奪い……朦朧としたところを……下僕として完全支配するものだと思います。呪いの力で……破壊することができません……」
ふり絞るように言葉をつなぐ銀髪美人。
それでみんな弱っているのか……。
俺は、銀髪美人さんを抱きかかえながら、『支配の首輪』とやらを触ってみる。
無理に引き離して、怪我をしたり、命に危険が及んだら大変だ。
俺が触ると……
———ピシッ
音とともにヒビが入った。
もう一度触ると……
———シュッ
砂のように崩れ落ちてしまった。
銀髪美人さんが驚いているが……
とりあえず、俺が触れば壊せるらしい。
ちなみに、ニアが壊そうとしてもダメだった。
何か特殊な力が作用しているのだろうか……考えるのは後だな……。
俺は、順番にみんなの『支配の首輪』を破壊していく。
もう一度、ニアに『癒しの風』をかけてもらったが、いまいち回復しないようだ。
『スピリット・ブラック・タイガー』の夫婦たちが回復が遅かったように、何か呪いの力が作用しているようだ。
波動鑑定してみると……
<状態> 呪い(中)
やはり呪いの影響のようだ。
“呪い(大)”でないのがせめてもの救いだ。
現状では、みんな、まともに歩けない。
話せるのも、かろうじて銀髪美人さんだけだ。
この人数を抱えて逃げるのも……無理すれば、できなくもない気がするが……
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