38.新たな、お供。

 俺は、霊域の主として、いつものように方針・行動指針だけ決める。


 一、命大事に——死ぬな。

 二、仲間大事に——仲間同士助け合え。喧嘩するな。

 三、森を大事に——早期に森の復興させよう。

 四、生き物大事に——野生生物や植物を必要な時以外は狩らない。


 ほとんど、『マナテックス大森林』と同じだが、四つ目はシンプルだ。

 『ボルの森』は、守護の力が働いてるから、魔物や敵意のある者は入れないらしいからね。

 それらとの戦闘は想定していない。


 ただ、万が一の時のために、『マナテックス大森林』の行動指針も教えておいた。

 今後、交流もするし、お互いに把握しておいた方が良いだろう。

 情報共有は大事だよね。


 三つ目の“森を大事に”は、まず復興からだ。

 実は、これが一番重点項目だ。


 完全にフラニーたちに丸投げで良かったのだが、希望は無いかと聞かれたので、一応、意見を述べた。


 ホームベース形になっている『ボルの森』の五角形の下側、野球でいったらキャッチャー側だが、そこから『大霊樹』へ向かうラインをある程度の広さで、木ではなく野草や薬草のエリアにしたらどうかと提案した。


 ここは焼失がひどかったし、将来的にどうなるかわからないが、木のない草原のようなエリアがあった方がいいと思ったのだ。


 薬草エリアにしておけば、将来、野菜作りなど畑にもすぐに転換できるし。

 ここで農業するかは全く未定だが……

 まあ……それも楽しそうだけど……


 フラニーは、快く了承してくれた。

 確保する面積や植える野草・薬草の種類は任せた。




 これで旅立てるが、どうやって件の人族の街まで行こうか……

 そしてどう探したものか……


 考えていると、カチョウと子供たちがやってきた。


 カチョウは、大きなソリのようなものを引いている。


 ソリを引くのはメリクリでは……とツッコミたいところだが……。


 どうやら、食べ物を持ってきてくれたようだ。


 俺が収納スキルを持っていることを知って、旅のために多めに採ってきてくれたようだ。


 すぐ近くで採れる種類だけということで、昨夜のラインナップと同じだが……全く問題ない。むしろ最高だ!


 『マナップル』『マナウンシュウ』『マナバナナ』『スピピーチ』それぞれ二百個以上あるようだ。


 俺は今食べる分だけ残して、『波動収納』にしまった。


「マスター、お願いがございます」


 カチョウがそう言うと、子フクロウが一羽前に出た。


「この子はフウと申しまして、『万物探索オールサーチ』のスキルを持っております」


「じゃぁ、その子がさらわれた子たちの居場所を……」


「はい、まだスキルレベルが低く、大体の場所しか分かりませんが、近くに行けば、より正確に察知できると思います。どうぞ、この子をお供にお加えください」



 カチョウとフウが揃って頭を下げる。


「それは願ってもないけど……いいのかい? 」


 フウは見た目は普通のフクロウにしか見えないので、人族の街に行っても怪しまれないとは思う。


 しかし、危険が待っているのは間違いない。


「大丈夫です。早く見つけてあげなければ、さらわれた者たちの命が危険なのです。確かに、この子を危険にさらすかもしれませんが、あの者たちを見捨てることなどできません。同じ森の家族なのです」


 悲痛に訴えるカチョウ。


「フウ、助けたい。必ず見つける。役に立つから連れてって」


 真剣に俺を見上げるフウ。


 俺はしゃがんでフウを見つめる……


 ……目には強い意志が感じられる。


「わかった。じゃぁ、お願いするよ。早く見つけて助けてあげよう」


「はい。お願いします」


 強い決意が声に滲む。


「カチョウ、この子は必ず俺が守るから」


「よろしくお願いします」


 カチョウはそう言うと、フウの毛づくろいを始めた。

 他の子たちもフウを囲んでいる。


 フウのスキルがあれば見つけやすいのは間違いない。


 この子はレベルが低いが、仲間たちと協力して必ず守る。

 俺はそう決意した。


 さて、それにしても人間の街までだいぶ距離がある。


 なるべく早く着くにはどうしたら……


 フラニーに相談するか……。


 そういえば、もう一つ相談したいことがあった……

 個人的なことで……


「フラニー、相談があるんだけど……何か……服とか布のようなものはないかなぁ……」


 不思議な顔でフラニーが見ている。


「実は悪魔との戦いで服を焼かれちゃって、このローブの下は何も着てないんだよね。

 人族の街で買ってもいいんだけど、その途中で何かあったら……まずいというか……なんというか……」


「主様、残念ながら衣服はありません。布もありません。ですが簡単な衣服でよろしければ、私がお作りしますが……」


 おお……作れるのか……


 フラニーによれば、聖麻ホーリーヘンプという特殊な麻の糸があり、その糸を使って服などを作れるそうだ。


 フラニーは、『植物錬金』という種族固有スキルを持っており、植物及びその系統の素材を使って、いろんなものを作ることが可能なようだ。


 そういえば、『アラクネ』のケニーも種族固有スキル『糸織錬金』を持ってて、自分の服も作っていたっけ。

 よく考えたら、ケニーに頼むという手もあったが……


 フラニーが作れるというのだから、お願いすればいいか…… 。


 俺はトランクスとTシャツ、ズボン、シャツの絵を地面に描きながら説明した。


 あまりうまく説明できた気がしないが……

 なんとなくフラニーはわかってくれたようだ。


 あと、ずっと裸足なのも辛いので、靴は無理でも、草履のようなものが作れないか頼んでみた。


 フラニーが聖麻ホーリーヘンプの糸を持ってきた。


 特殊な麻らしく、フラニーの服もこの糸を使い、自分で作ったそうだ。


 ケニーといい、フラニーといい器用なものだ。


 聖麻ホーリーヘンプは、麻の強化版のような植物みたいだ。


 その糸で作った衣類は、汗をよく吸い、乾きも早い、おまけに消臭・抗菌効果まであるそうだ。

 また、ある程度の温度調節機能もあるし、使えば使うほど体に馴染むらしい。

 そして、丈夫で長持ちするとのこと。

 また、精神耐性の特殊効果を持っており、精神魔法や精神攻撃に耐性を発揮するらしい。

 ストレス軽減効果もあり、精神を健康に保つ効果もあるとのこと。

 精神疾患の者に身に付けさせると、症状を緩和させる効果を出すらしい。


 機能性といい特殊効果といい非常に強力な素材と言える。


 願ってもない素晴らしい素材だ。

 これは期待できる。


 フラニーは、持ってきた糸束を空中に放り投げると「植物錬金」と呟いた後、両手を突き出した。


 すると両手から薄緑の靄のようなものが放出され、空中の糸束をとらえる。

 そして、靄が卵のような形に形成されていく。


 その中で聖麻糸が激しく動いているのが透けて見える。


 数秒すると……


 ———何の音もなく靄の卵が一瞬で消える。


 すると……ひらひらと一枚の布が地面に落ちた。


 あの形はトランクスだ。


 フラニーはそれをそっと取り上げると、あらかじめ用意していた伸蔓のびつる というゴムがわりに使える植物の蔓を、トランクスにはめ込んでいく。


 あっという間にその作業は終わり、俺のトランクスは完成したらしい。


 受け取った俺は試着してみる。

 もちろん、こっそり隠れてだ。


 おお……素晴らしい肌触りだ。

 ゴムも全然きつさを感じないけど、しっかり止まっている。


 これはいい!

 やっぱり何も履いてないのは、スースーして嫌だったんだよね。


 フラニーは、残りの衣服・草履も同様にして作ってくれた。


 ある程度の色は、一緒に付けられるようで、ズボンとシャツは黒にしてもらった。

 トランクスとTシャツと草履は、元の聖麻ホーリーヘンプの色の焦げ茶色だ。


 どれも素晴らしい出来の服になった。

 シンプルなデザインだが非常に気に入った。

 何よりも肌触りと緑を感じさせる香りが良い。

 草履もいい、足にしっくりくる。

 履き心地が良いのと足の裏が気持ちいい。

 極太の麻紐を編み込んだ感じの作りなのだが、感触が気持ちいいのだ。

 天然の健康サンダルみたいな感じだ。


 フラニーが、一度作ったものは簡単に作れると言うので、同じものを追加で2セット合計3セット作ってもらった。


 これで人族の街で服が調達できなかったとしても、暫くは大丈夫そうだ。


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