36.偽装と、人物設定。

 勝手に鑑定されてしまうなら、何か対策が必要だ。


 困った時のナビー頼みだ……


 ———ステータスを隠す方法はないかなぁ?


(『波動』スキルの『波動調整』コマンド、そのサブコマンド『情報偽装』を実行すれば、任意のステータスに偽装できます)


 よしそれだ!


 ほんと助かる。

 元の世界でもスマホの便利機能の半分も使えてなかったからな。

 ナビーのお陰で楽ちんだ。


 ———でも肝心のシチミはどうしよう?


(『情報偽装』で魔法カバンのステータスを作成し、『波動転写』でシチミに貼り付ければ、偽装可能と推定します。同様の手順で、ニアやリンのレベルやスキルも隠蔽可能と思われます)


 なるほど、じゃあ早速やってみよう。


 俺は、まず自分のステータスの偽装画面を作成する。


 レベルは9だしそのままでもいいが、一応、念のため009から0を取り、9にした。


 他のステータス数値も同様に0を取った。


<状態> の“記憶喪失(一部)”は、そのままにした。


 これから人族と関係を持つときに、常識的なことを知らなくても、記憶喪失なら言い訳がしやすそうだったからだ。


 <職種> が空欄なので、無職はまずいと思い、ニアに相談した。


 ニアのアドバイスにより、俺は自分の人物設定をした。


 ◯遠くから来た旅の行商人であり、テイマーでもある。

 ◯道中で魔物に襲われ、命からがら逃げたが、その時、頭を打ち一部の記憶を失くした。

 ◯倒れているところを助けてくれたのがピクシーのニアで、もともと連れていたのがスライムのリン、フクロウのフウである


 ……というストーリーだ。


 もちろんシチミは、ストーリー上は、ただのカバンだ。


 これをもとに <職種> 欄は、『商人』と『テイマー』にした。


 <称号> は……いろいろやばいので……『やさしきテイマー』だけにして……


<加護> は、空白にした。


 <通常スキル> もやばい……

 スキルレベル10なのもやばい……。


 『テイム』をレベル3に偽装して、『毒耐性』と『格闘』はレベル1なのでそのまま残した。


 他のスキルは載せていない。


 <固有スキル> も色々とやばいので空白にした。



 次はニアたちだな。


 『情報偽装』のスキルの説明をして、相談の結果、ニアも大幅レベルアップ前の状態に偽装することにした。


 <種族> はピクシーに、レベルを15にして、各ステータス数値もそれに合わせて下げた。


<通常スキル> <種族固有スキル> も、その当時使えていたものだけにして、スキルレベルも下げた。


 この偽装画面を『波動転写』コマンドを実行し、ニアに貼り付けるようにイメージして念じる———


 ———ニアがほんの一瞬光った。


 どうやらうまくいったらしい。


 ニアに確認したところ、本当のステータスと偽装ステータスの二つが、切り替わりで見えるそうだ。


 俺も、自分のステータスを確認したが、確かにマルチウィンドウのように切り替えられるし、並列することもできる。


 俺がニアを『波動鑑定』してみると……


 やはり二つの画面が見えてしまう。


 本当に偽装されているのか不安になり、ナビーに訊いてみた。


(おそらく、マスターが高レベルなことと、スキルレベルが10であることから見えるだけで、通常の『鑑定』では偽装画面しか見えないはずです)


 なるほど……今はそれを信じるしかないね。


 次はリンだが、ニアやリン本人によると、通常、レベル6以上のスライムが少ないらしく、一般的なレベル3に偽装することにした。


 前に聞いた通り、レベル6で覚える種族固有スキル『増殖』により、野生では、すぐに分裂増殖してしまうらしい。


 テイムされているスライムも、通常は掃除などが仕事なので、強くなることは期待されておらず、『増殖』を禁じるテイマーはいないとのことだ。


 むしろ増えてくれた方が良いらしい。

 家畜を増やすのと同じ感覚なのだろうか……。


 ステータス数値も相当なものに下げた。


 スキルも通常のスライムが持つ <種族固有スキル> 『分解』『吸収』『種族通信』のみにしてスキルレベルも低くした。


 これを貼り付けて完了だ。


 シチミについては、『魔法鞄——階級 下級』と表示されるように偽装画面を作り貼り付けた。


 これで大丈夫だろう。




 この救出が、どれぐらいの旅になるか分からないので、今後のことをフラニー、カチョウと打ち合わせることにした。


 といっても……いつも通り丸投げだ。


 『テスター迷宮』『マナテックス大森林』『ボルテックス霊域』と三カ所のマスターになったが、俺は基本何もしない……


 まるでオーナー……株主のような感じかな……


 『ライジングカープ』のキンちゃんが呼んでた“オーナー”という呼び名も、意外と的を射ていたかもしれない。


 俺が無理に関わるよりも、適材適所の方がうまくいくはずだ。


 大きな方針だけ決めればいいだろう。

 決して面倒くさいわけではない……決して……。


 彼女たちの方が『ボルの森』のことをわかってるし、任せるのがベストな選択だと思う。


 二人は、快く了承してくれたが、くれぐれも死なないでくれと言われた。


 そういえば前マスターも森の外に出たまま行方不明で、守護の力が消えたことから、おそらく死亡したのではないかとのことだった。


 本来なら前マスターの行方も調べたいところなんだろうけど、今は森の子たちの救出が最優先だもんね。


 案外、悪魔が森を襲ってきたタイミングから考えるとマスターの件にも関わっているのかもしれない。

 タイミングを考えると、むしろその可能性の方が高い気がする。


 森の子たちの救出が、前マスターの行方の手がかりになるかもしれない。


 そのことをフラニーとカチョウに告げると、「お願いします」と泣きそうな顔で頼まれた。


 もちろん、俺もそのつもりだ。

 あくまで森の子たちの救出が最優先だけどね。

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