35.行方不明の、真相。
フラニーの話によれば……
昨夜重傷だった『スピリット・ブラック・タイガー』の父親の方が、一時的に目覚め、事の顛末を語ったそうだ。
『ボルの森』の南東の三角湖近くの林で、ブラックタイガー親子三人と子トレントが仲良く散策していたらしい。
近くには、『スピリット・ブロンド・ホース』と『スピリット・タートル』もいたらしい。
そこに突然、魔物を引き連れた『中級悪魔』が現れたそうだ。
襲いくる魔物と戦う最中に、『中級悪魔』の特殊な麻痺攻撃にさらされて、みんな動けなくなったそうだ。
それでも子供を守りたい一心で、虎の夫婦は、悪魔に立ち向かったが、強力な爪の前に敗れたとのことだ。
薄れゆく意識の中で最後に聞いたのは……
『この霊獣たちは、あの人間への対価としてちょうど良い。魔物に殺される前に連れ帰るとしよう』
……という悪魔の言葉だった。
飛行型の魔物に繋がれる子供たちを見たのを最後に、意識を失ったそうだ。
父親虎は、『あの子を助けなければ…あの爪の悪魔から…』と呟くと、また意識を失ったそうだ。
フラニーの話では命は取り留めたものの、なかなか回復しないらしい。
悪魔の爪が何らかの特殊効果を持っていたのではないかとのことだ。
俺は、『スピリット・ブラック・タイガー』たちを鑑定してみる。
———<状態> 危篤 呪い(大)
……となっていた。
フラニーに話すと、通常の呪いであれば、霊域の守護の力で浄化してしまうから、強大な呪いではないかとのことだ。
だが霊域に居続ければ、時間の経過とともに、浄化が進み、元に戻る可能性もあるとのこと。
霊素がより強い『大霊樹』の中で、しばらく安静にして様子を見るとのことだ。
『中級悪魔』は五体ではなく六体いたらしい。
やはり警戒を解くわけにはいかない。
この情報から判断すれば、行方不明の者たちは、悪魔に連れ去られたことになる。
フラニーによれば、まだ生きている可能性が高いという。
確かに、生かす必要がないならその場で殺すだろうし、運ぶにしてもその方が楽だ。
ただ、時間が経つほど生存の可能性が低くなることは確かだ。
報酬として受け取る人間がどうするかにもよるが……。
全く、この世界に来て初めて人間の話が出たと思ったら……これだ……。
大方、悪魔と契約でもしたのか……
どこにでも、どうしようもない奴はいるもんだ。
すぐに助けに行きたいところだが……
どう探せばいいやら……
現代日本のように防犯カメラがあるわけでもないし、GPSがあるわけでもないし……。
ところが、フラニーの話には続きがあった。
カチョウの子供の中に『
自分の知るものの大体の位置を探り出すことができるそうで、かなり広範囲に探せるらしい。
実は、魔物の襲撃が終わって行方不明がわかったときに、本人は一度使ってみたらしいのだが、まだスキルレベルが低くわからなかったらしい。
事の詳細が分かり、改めて探索を何度か実施し、ようやく朧げな場所が察知できたそうだ。
一番仲の良かった、子トレントの気配を探ったところ、『マナテックス大森林』の南西の方角にある人族の街にいるという感覚をつかんだそうだ。
そこで、人族である俺に救出を依頼したいとのことだ。
確かに、フラニーはまだしも、他の者では存在自体で騒ぎになりそうだ。
当然、救助に向かうことに、否やは無い。
俺は早速ニアたちを起こし、事情を説明した。
「もちろん、私も行くわよ!」
「行く!がんばる」
「オイラに任せとけ! 」
みんな行く気満々だ。
「でも人族の街じゃ、まずくないか? 」
「私は大丈夫。人族の街でも、たまに妖精族はいるし。人族は、基本的に私たちに好意的なはずだから。
あと、リンも大丈夫ね。スライムは街をきれいにしてくれる安全で有益な生物として認識されているから。人族の町ほどいっぱいいるはずよ。
シチミは……そのままじゃ厳しいかなぁ……」
「なんでだよ。オイラだって行けるさ。人族は宝物に目がないからな」
シチミが蓋をバンバンさせる。
「そーゆー問題じゃないのよね。
そうね……あんた……擬態できるんだから……もっとこう……そうね……そうそうカバンとかに擬態できないの? 箱っぽいものならいけるんでしょ」
顎に指を添えてニアが言う。
「もちろんさ! どんなやつに擬態すればいいんだよ?」
即答するシチミ。
———そうだ!
俺は『波動収納』から、迷宮で手に入れた魔法カバンを一つ出す。
「これと同じ形になれるかい? 」
肩から斜め掛けで使うタイプで、俺の時代だと中学の時の登校カバンに似ている。
いわゆるショルダーバッグというやつなんだろうか。
大好きな海外ドラマ「ワンデイズ」でテロと戦う主人公が、いつも使っているやつだ。
あれ欲しかったんだよね……
シチミに見せたところ、早速スキルを発動させた。
蓋を閉じてガタガタ震えると———
———軽く弾むと同時に光を発する!
———シュポンッ
おお……そっくりだ!
ちゃんと肩紐まで再現されている。
びっくり技能だな!
これなら、いつも持ち歩けるし、人族の街でも問題ないだろう。
「すごいねシチミ! バッチリだよ」
「あったりまえよー! 任しとけ! 」
このままでも話せるらしい。
話すカバンも……中々にレアだ……。
ニアも驚きながら感心している。
リンは、プルプルしながら三回バウンドしている。
「これならいけるわね。鑑定されなければ大丈夫よ」
ニアがさらっと重要なことを言った。
「勝手に鑑定されることもあるのか? 」
ニアに確認したところ、鑑定系のスキルは貴重で、持っている者は少ないらしい。
だが持ってる者がいれば、いつ見られているか分からないとのことだ。
全く……プライバシーも何もあったもんじゃない………
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