33.カチョウは、ビッグマミィ。

 森に広がった火は、『守護の力』が発動した時に、あらかた消し飛んだらしい。

 だが、一部の残り火やくすぶる火種を再出動した『ライジングカープ』たちと『スピリット・オウル』のカチョウたちが鎮火しているようだ。


 『ライジングカープ』のキンちゃんがブレスと言っていた技は、見た感じ放水だったから、消火には最適の能力だろう。


 『ドライアド』のフラニーに訊いたところによると、あれは種族固有スキルの『水芸トリックウォーター』というものらしい。

 水圧や放出範囲を自由に変えられるらしい。


 芸というだけあって、いろいろな使い方ができるそうだ。


 種族固有スキルまで……クセが強い!


 森の復興は比較的早くできるそうだ。


 ここでフラニーから提案があった。


 倒れてしまった木を、俺にもらってくれないかと言う。


 抜けたり、切断された木は、直後なら治せる確率が高いが、今からでは、かなり低いらしい。


 ちなみに、根が残っているものは新芽を吹かせられるそうだ。


 その抜けたり、切断された木を俺にくれるらしい。


 『森魔法』で土に返すこともできるが、優良な材木になるし、貴重な種類もあるので、森を救ってくれたお礼の意味も含めて、もらってほしいとのことだった。


 せっかくなので、もらうことにした。


 完全に焼けて灰になったものは、最高の土を作る素材になるそうだ。


 俺は農業をしていたので、灰が土作りに良いのは知っていた。


 元の世界の日本では、普通はできないが、焼畑をすると、虫も病気も3年ぐらいは出ないと言われている。

 そのくらい素晴らしいカンフル剤になるのだ。


 アフリカとかでは、今でも焼畑農業をやっていたはず…… うろ覚えだから地域は間違っているかもしれないが……


 いずれにしても、“焼畑農業”は凄いのだ。


 ここの樹木は大量の霊素を含んでいるので、効果が段違いらしい。


 完全に枯死してなければ、この灰をかけただけで植物は元気を取り戻すそうだ。


 まさに“花咲かじいさん”状態だ。


 灰自体は、この森の早期再生に役立ちそうだったので、そのままにして、使い道のない中途半端に焼けた木を引き取ることにした。


 掃除してあげる意味も込めてだが、俺が暇なときに『波動収納』から取り出して、焼いて灰を作れば良いと考えている。


 無限に収納できるみたいだし、すぐ使い道がなくても特に問題はないだろう。


 灰だけでなく、炭焼きもできるかもしれない。


 将来、自分の畑を持って炭焼きをしながらスローライフをしたら楽しそうだ。


 ……そうだ! 異世界スローライフ……いいじゃないか!


 問題は、この広い範囲からどう回収するかだ。


 『波動収納』の『目視回収』コマンドが使えるといっても、全域が見えるわけではないし……


 戦利品というわけでもないから、『戦利品自動回収』も使えない……


 何か……一発回収できる方法は無いだろうか……


 『自問自答』スキルのナビゲーターコマンドのナビーに訊いてみる。


(現状のスキルコマンドでは、『目視回収』以外にないと考察します。

 可能性は低いですが、『戦利品自動回収』コマンドを使うときに、『ボルの森の倒木』と念じてみてはどうでしょう……」


 なるほど……ダメ元でやってみるか。


 ——波動収納——戦利品自動回収——ボルの森の倒木


 ……………………


 何も起きない……

 やっぱりダメみたいだ。


 フラニーに相談したら、『スピリット・オウル』のカチョウが戻ってきたら、背に乗り回収してまわるのが、一番良いということになった。



 しばらくすると、消火活動から『ライジングカープ』の“カープ騎士”たちとカチョウが帰ってきた。


 カチョウの周囲には、小さな子フクロウが10羽いる。


 どうやらカチョウの子供らしい。


 カチョウは、子だくさんだったらしい。

 あの体なら卵十個ぐらい温められそうだ。

 まさに、ビッグマミィだ。


「ご挨拶なさい。新しいマスターですよ」


 カチョウが促すと……


 子フクロウたちが横一列に並んだ。

 順番に名乗るようだ……


「ヒイ」

「フウ」

「ミイ」

「ヨオ」

「イツ」

「ムウ」

「ナア」

「ヤア」

「コオ」

「トオ」

「「「よろしくお願いします。マスター」」」


 おお……さすが十つ子、息が合っている。


 てか、これ昔の日本の数え方だよね……

  十一羽いたらどうするつもりだったんだろう……


 なんか色々ツッコミどころあるけど……考えたら負けかな……無視……いや、可愛いから許す!


 みんなモフモフだし、サイズも普通の小さめのフクロウサイズだし……


 モフモフしたい……

 そんな気持ちが視線に乗ったのか……十羽一斉に一歩後ずさった。


 ———いかんいかん……


「オホン、グリムです。よろしくね」


 満面の笑顔で言ったのだが……


 ……子フクロウたちはビッグマミィの後ろに隠れてしまった。


 ……解せぬ…。


 ちなみに、カチョウに兄弟はいないのか訊いたところ、双子の妹がいるらしい。


 今は別の霊域に住んでいるそうだ。


 名前はフウゲツらしい。


 ……なるほど……

 ……カチョウ……フウゲツ……

 ……花鳥風月ね……

 そっちか……なるほど。

 ……てか誰がつけたのよ、名前………


 旦那さんはいないのか気になって訊いたところ、今は旅に出ているそうだ。


「彼は、自由が好きなので、好きなようにさせてるんです」


 頬を赤く染めながら話すカチョウ。


 ちなみに名前を訊いたところ……


 ……ブチョウらしい……


 やっぱそっちかい!


 ……てか誰がつけたんだよ……ほんと……

 ……ほんと誰がつけたのよ……名前……


 カチョウの旦那がブチョウで、カチョウの妹がフウゲツで……

 ……課長と部長で……

 ……花鳥風月で……

 ……もうわけわからん!

 これやっぱ考えたら負けだな……無視!



 早速、カチョウに事情説明して、背に乗せてもらい倒木の回収に向かった。


 ニア、リン、シチミは、子フクロウたちと遊びだしている。ライジングカープたちも一緒だ。


 ニアなんかモフモフしまくってる。うらやましいヤツめ!


 倒木の回収をしながら、カチョウから聞いたところによると、この霊域『ボルの森』は、この大陸に何箇所かある“霊素溜まり”の一つだそうだ。


 霊素が大きな渦を巻くように溜まってくのだという。


 霊素は、万物の素であり、精霊の最小単位でもあると言っていたから、一種のパワースポットのようなものだろうか。


 そして、その周囲には必ず、魔力の元となる“魔素溜まり”と、気力・精神力の元となる“聖素溜まり”ができるのだという。


 魔素が大きくたまった場所を『魔域』と呼び、魔素を浴びて変質した魔物が発生しやすくなるらしい。


 聖素溜まりは、『聖域』と呼ばれ、『霊獣』とは違う『聖獣』たちが守護しているそうだ。


 『ユニコーン』や『ペガサス』もいるらしい。


 是非一度行ってみたい。


 『魔域』は、単独で存在している場合もあるが、『聖域』は『霊域』の近く以外には、ほとんどないようだ。


 この『霊域』は、東西南北の四つの山脈に区切られて四角形をしているわけだが(森部分は五角形のホームベース形だが、湖全てを入れれば四角形なのだ)、北の山脈と西の山脈の反対側には、山脈に沿うように細長い形で『聖域』が一つずつあるそうだ。


 南の山脈の反対側は、我が『マナテックス大森林』があるが、ここは細長いわけでなく長方形のような形をしていて、その中央付近に『テスター迷宮』があるのだ。


 東の山脈の反対側には、山脈に沿って細長い『魔域』が広がっているとのことで、今回攻めてきた魔物は、ここから来たらしいとのことだ。


 もっとも、魔物を使役するのは、悪魔でも難しいらしく、誘導して暴れさせるのがやっとだったのではないかということだ。


 それ故、今回侵攻してきたのは、ごく一部の魔物で、『魔域』にはまだ多くの魔物がいるらしい。


 『霊域』は『守護の力』で大丈夫だろうし、『マナテックス大森林』も『アラクネ』のケニーが強いから、通常の魔物は大丈夫と思う。


 問題は悪魔で、俺はワンパンで倒してしまったが、本来は、狡猾で能力も高く、特殊能力を持っていたり厄介だそうだ。


 やはり種族固有スキルとか固有スキルを持っているのだろうか……


 レベルぐらいしか見る暇がなかったが……

 詳しく鑑定すればよかった……


 いずれにしろ、当分警戒を続けないといけない。



 すべての倒木の回収を終えて戻ったときには、すっかり夜になっていた。


 よく考えたら、朝食べてから何も食べていない。


 みんなと合流して早速ご飯にする。


 リンとシチミは、あまり食べなくても平気みたいだが、ニアはペコペコだったらしい。


 ただ、そんな雰囲気でもないので、俺が帰るまで待っていたようだ。

 意外と空気が読めるじゃないか……。


 よし、じゃぁ、何か食べよう!

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