32.遠くの敵も、倒したい!

 シチミが、急に真剣な雰囲気で話し出した。


「オイラに使える武器はないかな。遠くの敵を倒せるヤツ」


 ……なるほど。


 確かにシチミは、まともな攻撃手段が『かみつき』しかない。


 宝箱の罠である『マルチトラップ』は、通常戦闘では使いにくそうだもんね。


 接近戦一択は、確かに辛いかも……。


 遠距離攻撃に使えそうなものというと……


 テスター迷宮で手に入れた魔弓を出してみる。


 シチミは喜んで構えた。


 ガチャ、ゴト、ゴゴッ———


 ダメだ、箱型のシチミには、体にぶつかって使い辛そうだ。


 両手を使うものは、やりにくいかもしれない。


 後は魔法の杖が二本あったが……


 魔法の杖を『波動鑑定』して、情報を確認してみる……


 この二本の魔法の杖は、『エレメンタルワンド』と呼ばれるもので、杖の頭頂部に、はめ込んだ属性石に応じた魔法の光線のようなものを発射するらしい。


 通常の杖のように、術者の魔力効率を高めたり総合的な補助をするものではなく、特定の機能に限定した特別仕様のものらしい。


 そのかわり、魔法適性がなくても魔力を流せば誰でも使えるらしい。


 これ、いいんじゃないかな……


 一本は火、もう一本は水の属性石のようだ。


 取り出して説明すると、シチミは嬉しそうに火の方を手に取った。


「オイラはやっぱり燃える男の赤だぜ! 」


 そう言うと、右手に杖を構え、前方の地面に向けて振り下ろす。


 ビュン、ボワッ、バーン———


 おお、光線というより、細長い火の玉だな。


 けっこうな威力だし、それなりに飛距離もありそうだ。


 シチミは、三回蓋をバンバン言わせながら、変なステップを踏んでいる。


 ……つまり大喜びだ!


 今度はリンが、バウンドしながら近づいてきた。


「リンも使うかい?」


 そう言って、水の『エレメントルワンド』を渡すと、二回プルプルしながらバウンドした。


「ありがとう、がんばる」


 嬉しそうに言った。


 リンも肉弾戦能力しかないからね。


 防御特化型だから、壁役でもいいんだろうけど……

 遠距離攻撃があったほうがいいよね。


 ちなみにリンは、種族固有スキルの『変形』を使って口を作るのと同様に、手足が作れるのだ。


 手足を出した姿は……


 なんだか……バレーボールのキャラクターマスコットのようでめっちゃかわいい。

 ……“リボちゃん”と名づけたいくらいだ……。


 ただ、足で走るよりバウンドの方が速いから、足を使うことは無いんだろうけど。


 リンも杖を構えて、前方の地面に振り下ろす。


 おお……これもやはり実際に水が出る。


 高圧縮の水鉄砲のようだ。

 水でも高圧縮で放出すると、硬度のあるものを切断できるみたいだし、かなり強力なようだ。


 二人は、しばらく使い勝手を確かめて、それぞれ自分の持つ収納スキルにしまっていた。


 ニアも刺激されたのか、『如意輪棒』の練習をしていた。


 練習といっても、めちゃめちゃに振り回しているだけだが……ここはスルーしてあげよう……やさしさスルー


 そういえば、ニアの棒さばきはともかく、『如意輪棒』の能力はすごそうだ。


 ニアが持てる細さのまま、長さだけが伸ばせるのだ。


 そして、すぐに元に戻すことができる。

 いわゆる如意自在、思いのままだ。


 この伸縮をマスターすれば、かなり遠くの敵にもダメージを与えられるようになるし、いろんな使い方ができそうだ。


 可能性は無限かな。がんばれニア!



 そうこうしているうちに、森に散っていた霊獣たちが帰ってきた。


 巨大なヘラジカである『スピリット・エルク』の背に、大きな黒白の縞模様の虎が二体乗っている。


 ……どうやら瀕死のようだ。


 駆け寄ったドライアドのフラニーが、回復魔法をかけている。


 大量に血を失っていたらしく、全く動かない。


 だが、ギリギリ生きているのだろう。

 傷が塞がっていく。


 目を覚ます様子はないが、命は取り留めたようだ。


 『スピリット・エルク』によると……


 『ボルの森』南東の三角湖の近くに倒れていたらしい。


 死にかけるほど重傷の霊獣は、他にはいなかったらしい。


 そう、この虎も霊獣なのだ。

『スピリット・ブラック・タイガー』というらしい。


 野生動物たちは、ほとんどは逃げて大丈夫とのことだ。


 樹木や植物は倒されたり、焼かれたり、大きな被害だそうだ。


 なんでも、この『ボルの森』には『トレント』という樹人(妖精族ではなく、スライムと同様、『始源の中庸生物』らしい)がいるが、現在“休眠期”というものらしく、森の北側の横長の湖の近くで、一斉に普通の木として休眠しているらしい。


 北側に被害がなくて本当に良かったとフラニーが言っていた。


 ただ『トレント』は、休眠期に入ると、新しい世代として子トレントが生まれるらしいのだが、今回の休眠期で一体しか生まれなかったという貴重な子トレントがまだ見つかっていないらしい。


 戻ってきた他の霊獣たちの話も総合すると、子トレントだけでなく、先程の『スピリット・ブラック・タイガー』の子供と、『スピリット・タートル』という亀、『スピリット・ブロンド・フォース』という金髪の馬が行方不明らしい。


 引き続き捜索中とのことだ。


 無事見つかると良いのだが……。



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