30.予想の、斜め上。

 俺は腰をおろし、少し休むことにした。


 ボルの森の事後処理は、フラニーに任せておけば大丈夫そうだ。


 チートの件もあるし、改めて自分のステータスを確認しようと思う。


 そんな時、『マナテックス大森林』を任せてある『アラクネ』のケニーから念話が入った。


(あるじ殿、こちらの残敵は全て掃討いたしました。戦利品の回収をお願いします。お言い付けの通り、こちらの損害はありません。なんとか死者を出さずに守り終えてございます。また、『コカトリス』を十五体テイムいたしました。早速戦力に組み込みましたがよろしかったでしょうか?)


 誇らしげに報告するケニー。


 普通の報告のように見えるけど……

  なんかすごい情報が入ってる……


 残敵の掃討はいいとして……


 あれだけの数を相手にして…… 死者なしって……どんな戦い方したんだ?


 おまけに『コカトリス』をテイムしたって………なにそれ!


 確かに……共有スキルに、一応テイムも入れてみたけど……


 あいつらをテイムして戦力にするなんて……予想の斜め上を行っている。


 ニアが『コカトリス』と戦っていた時には、考えもしなかった。


 『オリジン』だから、やろうと思えばテイムできたわけだね……


 それにしても、ケニーは優秀すぎるな……


 これは完全に丸投げで大丈夫そうだ……

 いや……むしろ丸投げの方がいい。


 それにしても、『コカトリス』は大丈夫なんだろうか……

 間違って味方に嘴が触れて、石化したりしないのだろうか……


 一応、ケニーに確認したところ、コカトリスたちは石化攻撃を意図して、嘴を使わなければ 石化効果は無いそうだ。


 だったら安心だし、いい戦力補強ができたよね。


 しかし、まさか俺の『テイム』を実際使うなんて……


 俺は、使役生物 テイムドリストを確認する。


 確かに、一番下に『コカトリス』が十五体入ってる。


 どうも、俺のテイムドたちがテイムした生物は、俺のテイムドになるらしい。


 俺が元親ということなのだろうか……

 何かマルチ商法的に増えていきそうな気がしないでもない……

 てかマルチ商法って言っちゃダメだね…… マルチレベルマーケティングだね……

 そんなことはどうでもいいか……。


 『テイム』のスキル自体が共有スキルで、本来、俺のスキルだから俺のテイムドになってるのかもしれないけどね。


 俺は、ケニーを労いつつ、めちゃめちゃ褒めてあげた。


 なんか無口になってたけど、あれはきっと触脚をツンツンしてるに違いない……


 そして俺は、『波動収納』の『戦利品自動回収』を実行し、魔物の死体を回収した。


 なお、今後何か戦利品で欲しいものがあった場合には、自動回収されないように自分のものとして持つように伝えた。

 素材を使いたいとか、武器や道具を落としたりとかもあるかもしれないし。

 俺のテイムドが所持してるのは、俺が所有してるのと同じことだから、それ以外のものが自動回収の対象になるはずだ。


 ケニーは……


(とんでもないです。全てあるじ殿のものです)


 ……と言っていたが、戦ったケニーたちの戦利品なんだし、俺が全部吸い上げるつもりは毛頭ない。


 今のところ、必要なものは特にないのかもしれないが、必要な時は遠慮しないように言っておいた。

 他のみんなにも伝えるよう頼んだ。


 一応、大森林のみんなには、絆通信で……


(よくがんばった。お疲れ様。ありがとう。引き続き頼む)


 ……と短く労いと感謝を伝えた。


 個別の連絡でなく、みんなに同時に連絡するときは、一斉連絡モードを使う。


 これなら、一方的に俺の声が届くだけで、みんなからの返事は無い。

 二千体以上から一気に返事が来たら俺の頭がパンクしちゃいそうだし。


 ナビーの見解では、やろうと思えば、みんなで話し合ったりすることもできそうだ。

 今度試してみようと思う。



 さて、今度こそステータスチェックをしよう。


<基本ステータス> <サブステータス> ともに変化は無い。


 レベルも攻撃力なども全く同じだ。


 俺のチートが本当なら、もう簡単には上がらないだろう。

 おそらくレベルアップに必要な経験値は膨大なのだろう。


 経験値の表示はどこにもないんだよね。

 これは必ずカウントされてるはずなのに……


 “隠しステータス”のようなものがあるのだろうか……


 試しにニアに訊いてみると、何かの本で読んだことがあるらしい。

 ニアは結構本好き女子だった。


 経験値を含めたいくつかの要素は、通常では表示されないステータス、いわゆる“隠しステータス”として存在していると考えられているらしい。


 大昔に、大賢者と呼ばれる人がその確認方法を見つけたらしいが、今ではその技術も道具も残っていないらしい。


 ついでに、ステータス数値についても訊いてみた。


 レベル以外のステータス数値、特にサブステータスとして表示されている<攻撃力>などの数値は、レベルアップ以外でも、訓練などで上がることがあるらしい。


 この世界のシステムは、必ずしもレベルアップ時でなくても、ステータス数値がアップしたり、スキルを取得したり、スキルレベルを上げたりが可能らしい。


 戦闘以外の普段の生活、仕事や勉強も経験であり、経験値が発生するので、理論上はレベルアップできる。

 だが、戦闘による経験値取得が一番効率が良いらしく、戦闘しない普通の人たちは、必然的にレベルが上がりにくい状態になるとのことだ。


 そんな人たちでも 訓練すれば特定のスキルの取得をしたり、スキルレベルを上げたり、知力を上げたりできるらしい。

 したがって、レベルが10程度なのに、知力数値だけが非常に高い秀才や、スキルを多く所持する者などもいるようだ。


 次は特殊ステータスだが……


  <称号> に、『悪魔殺し(中級)』、『ボルテックス霊域——ボル高原森林の主』というのが増えていた。


 悪魔を殺すと称号がつくらしい。


 <加護> は、『精霊の加護』のみで特に増えていない。


 この『精霊の加護』のおかげで、霊域の精霊たちにも認められたのだろうか……


 <通常スキル> は、『命名』スキルがレベル10に上がっていた。


 これはおそらく、『自問自答』のナビゲーターコマンドのナビーが頑張って、約二千体の浄魔たちに識別番号の名前をつけてくれたからだろう。


 新たに『毒耐性』と『格闘』のスキルが取得されていた。いずれもレベル1だ。


 『毒耐性』はおそらく、イビルバタフライの毒を受けた時に取得したのだろう。


 『格闘』は、悪魔を倒した時に、取得したと思われるが……


 一度受けたり使っただけで、スキルとは取得できるものなんだろうか……


 気になってニアに訊いたところ、スキルを取得するには通常、例えば『剣術』なら素振りや練習など積み重ねがあって取得できるらしい。


 レベルアップの時に、突然、思いもよらぬスキルを取得することもあるらしいのだが……。


 そこから考えると、俺のスキル取得の効率は恐ろしく良いらしい。


 これもレベルの高い効果なのか……

 それとも何かのスキルが影響しているのか……


 ただ、全て効率がいいわけではないらしく……


 今回『剣術』スキルは取得できなかった……

 まぁあれ『剣術』じゃないしね……どっちかっていうとテニスだし……


 これからは、毎日剣の素振りでもして、スキル取得に励もう……


 <固有スキル> は、特に増えてはいなかった。


 ただ、『自問自答』スキルのレベルが一つ上がってLV.2になっていた。

 ナビーが色々と頑張ってくれてるからね。ありがとうナビー。



 さて、ニアたちはどうかな……

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