29.錦鯉、飛ぶ!
俺の『自問自答』スキルのナビーの推論が正しければ、俺は完全なチート野郎なわけだが……
あまりにも現実味がない……
ただ、魔物や悪魔がいる恐ろしい世界で生きるうえでの安心材料にはなる。
余程のことがない限り、すぐに死ぬようなことは無いはずだ。
チートな体、そして生活に困ることがないお金、前の世界で四十五歳のおっさんが欲しかったものを手に入れたわけだが……
……さて、どう生きるべきか……
………………………………………
……なるようにしかならないか……
今後、ゆっくり考えるとして、まずは、この霊域のことを考えないとね。
ドライアドのフラニーに現状を確認すると……
「魔物については、守護の力が発動しているので、もう、この霊域内にはいないと思われます。
怪我をした者の救助や死亡した者の回収は、ここを守っていた者たちが行っています。大霊樹に避難していた者たちは、カチョウの指示のもと森に戻り、救助や回収を手伝っています」
……とのことで、迅速に次の行動に移っているようだ。
フラニーは、優秀な指揮官のようだ。
フラニーに、救助作業の手伝いを申し出ると、大部分は避難できていたので、森の生き物たちで足りるとのことだった。
回復や解毒が必要な者の処置は、ニアとリンも手伝うようだ。
俺が持っているマナップルやマナウンシュウを、食料と回復薬がわりに提供しようとしたのだが、森の北側半分は無傷であり、近くに、いろいろな果実があるから、大丈夫とのことだ。
無傷で動ける者たちが、今採りに行っているらしい。
この霊域の森は、正式名を『ボルテックス霊域ーボル高原森林』というらしく、通称で『ボルの森』と呼ばれているらしい。
この『ボルの森』の中心にある大霊樹は、いざという時の避難場所にもなっており、通称で、『大樹』と言われているらしい。
大木と呼んでいたが、大霊樹というらしい。
直径で二百メートル以上はありそうだし、上の方は普通に枝があって緑の葉がついている……
……てっぺんは高過ぎて下からでは見えない。
落ち着いて見てみると、雄大で荘厳、神々しい素晴らしい大樹だ。
ボルの森は、東西南北を山脈に囲まれた高原であり、正方形に近い形をしているそうだ。
北側の東西に伸びる山脈に沿う形で、細長い大きな湖がある。
南側には、左右に対になるような三角形の大きな湖があり、南北を三つの湖に囲まれているらしい。
フラニーに地面に描いてもらった図を見ると、南側の真ん中が両側の三角湖に削られて尖った形になっており、森の部分だけを見ると、野球のホームベースのような五角形をしている。
ナビーによると、山手線の内側ぐらいの面積はあるらしい。
『マナテックス大森林』に比べると小さいとはいえ、それでもかなりの広さがある。
大きな被害を受けたのは、大霊樹より南側で、被害範囲は広く、半分近くが悪魔の火で焼き払われてしまったようだ。
この森には、人型の生物は、ドライアドのフラニーしかいないらしく、通常の動物や『始源の中庸性物(スライムもこれに入るらしい) 』や、霊獣と呼ばれる珍しい生物が住んでいるとのことだ。
先ほど戦っていたのは、霊獣たちらしい。
驚くことに、霊獣たちは皆、念話ではなく通常の会話ができるらしい。
さっきは、それどころではなかったが、思い出すと、確かに不思議な生物が結構いた。
空飛ぶ錦鯉がいたからね。
金や銀など様々な色で、十匹以上はいたようだ。
『ライジングカープ』というらしく、ドラゴンの眷属ともいわれているらしい。
確か、登竜門の語源になった『鯉が滝を登って、竜になる』なんていう伝説があったから、案外本当にクラスチェンジしてドラゴンになったりするのだろうか……
てゆうか……ドラゴンは実在するんだね……さすがファンタジー……
他に、戦っていたのは……
『スピリット・エルク』という巨大ヘラジカ、
『スピリット・イエローベア』という大熊、
『スピリット・シルバーウルフ』という狼、
『スピリット・レッドフォックス』という狐、
『スピリット・グリーンラグーン』という狸、
『スピリット・ブルースワロー』というツバメなどだったとのことだ。
みんな二から三メートルの巨体だった。
ちなみに、『ライジングカープ』は、みんな大きな鯉のぼりサイズだった……。
しかし、この霊獣たちは、個人的にツッコミどころが満載だ。
黄色いクマとか、赤色のキツネとか、緑色のタヌキとか、赤いコイとか、なんか色々と……色々とねぇ……。
ちなみに、『スピリット・オウル』のカチョウももちろん霊獣だ。
そんな時、スピードの速さを生かして森の外周の確認に出ていた『ライジングカープ』たちが帰ってきた。
フラニーに報告が終わると、みんなで俺の前に集まってきた。
「えー……えー……テス、テス、うちがこのチームの監督だし。みんなで新しいオーナーに挨拶にきたし。よろしくだし」
「「「よろしくお願いしやーす!」」」
リーダーらしき金色の鯉に続き、全員が口をパクパクさせながら挨拶する。
突然のなんとも言えない感じの挨拶に、戸惑ってしまった。
チームって……監督って……オーナーって……
色々とツッコミたい俺の気持ちにお構いなく、監督だという金色の鯉が更に続ける。
「うちら全員カープの女子たちだからって、絶対に“カープ女子”って言っちゃダメだし。“カープ騎士”って言ってほしいし。うちらこの霊域を守る騎士だし」
もう……微笑むことしかできない俺……
口をパクパクさせている姿だけは可愛いのだが……
「あと、うちらがいくら可愛いからって、いやらしい目で見たらセクハラだし。……あ、それから、女子なのにヒゲ? って思ったら、それもセクハラだし。鯉だからしょうがないし。抜こうとしたけど無理だったし」
いやらしい目で見てねーし!
ヒゲはちょっと思ったけど……ごめん
てか、抜こうとしたんかい!
相変わらず微笑むことしかできない俺……
「舐めたらダメだし……ドラゴンほどじゃないけど、ブレス吐けるし。うちは、ドラゴン王にきっとなるし!」
そう言うと、口からブレスを吐いてみせた。
ブレスというより、放水のような気がする……
ドラゴン王ってなに? ……海賊の王的なやつかな……
スルーしてあげよう……ニア以外に初めて使う——やさしさスルー
しかし……この子……クセが強い……強すぎる!
この口調は……なんなの……ギャル……なの……おじさんにはよくわからん……
もう……なんも言えねぇ……何もツッコまない……
なんかニア以来の残念感を感じるが……
そう思い一緒にいたニアを見ると、とても愉快そうに笑ってる。
……これは嫌な予感しかしない。
シンパシーを感じたのか、ニアは鯉のところに飛んでいった。
「私はハイピクシーのニア、よろしくね。あなたたちのこと気に入ったわ。仲良くしましょう」
「こっちこそ、よろしくだし。うちもあんた気に入ったし。服もまじイケてるし、一緒に飛べるし、マジ最高っしょ! まじまんじ! 」
“カープ騎士”たちとニアが楽しそうに騒いでる。
俺は、まだろくに話してないのだが、完全に空気になってしまった……。
ちょっとして……
ニアと 監督鯉が俺のところにやってきた。
「この子たちと友達になったの。名前がないと不便だからつけてあげてよ」
「ニアちゃん、マジ、マブだし。まじまんじ」
「「「よろしくお願いしやーす!」」」
鯉たちにもお願いされてしまった。
俺は改めて挨拶をする。
「グリムです。よろしくね。俺が名前をつけていいのかい? 」
「まじかっこいいのか、萌えるのにしてほしいし」
「「「よろしくお願いしやーす!」」
しょうがないので、つけてあげることにした。
金色鯉——キン、銀色鯉——ギン、赤色鯉——ヒロ、赤白混合鯉——シマ、青色鯉——アオオ、黄色鯉——キキキ、ピンク色鯉——ピピピ、緑色鯉——ミドド、紫色鯉——ムララ、オレンジ色鯉——オレレ、グレー色鯉——グレレ
ふう……頑張って名前をつけた……
もしもし……ニアくん……そんなジト目で見るなら……なぜに俺に頼む……
「よかったね。キンちゃん」
「ありがとだし、ニアちゃん」
喜び合う二人。
他の鯉たちも嬉しそうだ。
「ああ……それから、ありがとだしオーナー。あと、紹介するけど、ギンちゃんがマネで、ヒロちゃんがキャプテンだし、グレレちゃんが審判だし。他はまだ決めてないし…… よろしくだし」
「よ、よろしくお願いします。マネージャーのギンです」
「ヒロっす。キャプテンやらしてもらってるっす。よろしくっす」
「審判を拝命しておりますグレイです。この度は、名前をお付けいただき誠にありがとうございます。今後とも、何卒、よろしくお願い申し上げます」
気弱キャラに、下っ端キャラ、堅物キャラですか……もうお腹いっぱいなんですけど……
他の八体が普通であることを祈るばかりだ…… 。
てか、審判て何よ……
「ああ、それから、何か知りたいことあったら、うちに訊くし。物知りで通ってるし。人族のことも、違う世界のことも、結構知ってるし。舐めるなだし」
最後にキンちゃんがそんなことを言ってきた。
俺が疑問顔をしていると、隣でニヤニヤ見ていたフラニーが言った。
「あの子は、固有スキルで『ランダムチャンネル』という変わったスキルを持ってるんです。突然、ランダムにいろんな情報が脳に入ってくるらしいのです」
へー……そんな固有スキルを持っているのか……
しかし……何にどう使えば良いスキルなのだろう……
どんな情報を持っているのか、今度ゆっくり聞いてみたいものだ。
俺がいた世界の情報も持っているのだろうか……変な風に持ってるっぽいけど……。
とにかく、クセが強い“カープ騎士”たちだが、俺も気に入った。面白い奴らだ。
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