24.俺、チート。

「中級悪魔が現れた時には、ダメかと思いましたが、ぬし様のお陰で、助かりました。それにしても、一撃で倒すとは驚きです。目の前で見ても信じられない光景でした」


 『ドライアド』のフラニーが改めて俺に話しかけてくる。


「悪魔って、意外と弱かったみたいで助かったよ。回避能力もそんなに高くないし、物理攻撃に弱いんだね。たまたま、そういう悪魔だったのかもしれないけど。中級じゃなくて下級とかなんじゃないかな……」


 俺の言葉に、フラニーは一瞬無表情になる……


 そしてニアは、腕組みしながら目の前に飛んできた。


「そんなわけないでしょう! あれは二本角だったから中級! 一本なら下級、三本以上なら上級と決まってるのよ。

 悪魔、それも中級以上は、魔物とは比べ物にならない強さよ。同じレベル50だとしても悪魔の方がはるかに強いし、狡猾よ。

 それを拳の一撃……ワンパンで倒すなんて……ありえないわよ! しかもレベル9の人族が! 非常識なのよ! 非常識の塊よ! 」


 なぜかニアがめっちゃキレてる……なんで……? Why?


「僭越ですがぬし様は、ただのレベル9ではないと思われます。魔物に振るっていた剣も尋常ではありませんでしたし」


 落ち着いた口調でフラニーが言う。


「あれは、魔剣がすごかったからだよ」


「あのね! いかに魔剣がすごいからって、あんなのもありえないのよ! 一撃で真っ二つ、しかもその余波で周りの魔物も瞬殺! 非常識なのよ!!」


 ニアが完全におかんむりだ……なぜだ……


 フラニーに攻撃力などの各ステータスを聞かれたので教えてあげると、通常よりは高めだが不自然な数値ではないし、一撃で中級悪魔を倒せるような数値ではないそうだ。


 俺は、何か悪魔に対する特攻的な属性でも持っているのだろうか……


 『自問自答』スキルのナビゲーターコマンドのナビーに考えられる可能性を訊いてみた。


 彼女なら(といっても俺自身のはずなんだが……)、俺よりも俺の状態を把握しているし、可能性の高い仮説を導き出すのではないだろうか……


(情報を総合的に判断すると…… 一番可能性の高い推論は……マスターがレベルシステムの上限を超えてしまったということです)


 曰く……


 俺の実際のレベルは、9ではなく1009と思われる。


 レベル1の時に“浄化の光”を出して、約五千体のアンデッドを倒し、約二千体の魔物を浄化したことによる経験値に、レベル補正が加わったのではないかということだ。


 これに追加要素として……


 アンデッドの中には、かなり高レベルのものがいて、大きな経験値となった可能性。


 ニアが前にちらっと言っていたが、噂では魔物の浄化は、倒した場合に比べ二倍くらいの経験値が入るらしく、これが本当だった可能性。


 それに、俺の何らかのスキルがプラスで影響した可能性もあるとのことだ。


 そこで、一気にレベルが上がり、システムの上限と思われる999を超えてしまい、それ以上の表示ができないので、一周回って1009ではなく009という表示になったのではないかとのことだ。




 ……昔のインチキ中古車の距離メーターじゃないんだから…… 一周回るって……ねぇ………ねぇ……。



 そしてそれは、レベル表示が“LV.9”ではなく“LV.009”であることから、ほぼ間違いないのではないかとのことだ。


 確かに、ニアたちのレベル表示には、前に0や00はついていない。


 もう一つの裏付けとして、“浄化の光”発生時、気を失い、完全に戦線離脱の状態だったニアとリンが大幅レベルアップしていることがあるとのことだ。


 通常、意識を失った状態では、パーティーメンバーだとしても、意識を失った後の魔物の討滅の経験値は入らないはずであり、これは『絆』スキルの『相互援助』コマンドの効果、つまり、俺が入手した経験値の1%相当を入手したからではないかと考えられるとのことだ。


 また、俺がレベル1の時に持っていた通常スキル、固有スキルが、すべてレベル10になっていることも裏付けになるのではないか、とのことである。


 ちなみに、スキルレベルだけが10で止まり、限界を突破していないことの疑問をナビーに訊いたが、現時点では不明との回答だった。

 今後、超える可能性もあるのではないかとのことだ。


  そして今回、中級悪魔を倒したにもかかわらず、俺はレベル009のままであり、これも推論の根拠になるとのことだ。


 本来、レベルは高くなるほど、レベルアップに必要な経験値は多くなり、上がりにくくなる。


 もし、本当にレベル9なら、レベルアップに必要な経験値も少なく、今回の戦闘でかなりアップするはずである。


 しかし、レベル1009なら、レベルアップにはかなりの経験値が必要なので、今回の戦闘でレベルアップしなかった説明がつくことになるとのことだ。



 レベル以外の表示も同様に、『身体力』すなわちHPだが、表示が0095となっており、実態は10095と思われる。

『攻撃力』の表示011も、1011が実態なのではないかとのことだった。


 この異常なレベルアップは、システムの想定外のことで、そう表示せざるを得なかったのではないかと考えるのが、一番合理性があるらしい。


 称号に『想定外』とついていることも、この説の整合性を高めているという。


 それならば、中級悪魔に対してのワンパン勝利もうなずける。


 カンストどころか、カンスト超えだったらしい……本当かな……。


 もう一つ、ナビーの推論では、通常スキルの『限界突破』……これもニアの話では、かなりのレアスキルらしいが……この存在が大きいのではないかとのことだ。

 つまり、本来は上限でカンストしてレベル999で止まるものが、上限を突破して、突き抜けてしまったのではないかとのことだ……


 かなり荒唐無稽なように聞こえるが……一応筋は通っている気がする……


 これが本当だとすれば……


 俺は凄まじいチートということになる……


 だが……あまりそんな実感は無い……


 力なども普通にしてる分には、特に今までと変わった気はしない……

 何かを握ったら、潰してたなんてことはない。


 逆に一周回って、能力も普通に戻っちゃったということは無いのだろうか……


 ……まぁそれもなさそうだ……

 なにせワンパンで中級悪魔を倒しちゃったわけだから……


 俺は、恐る恐る……この仮説を今周りにいるニア、リン、シチミ、カチョウ、フラニーに話してみた……


 カチョウとフラニーは、納得気に頷いている。


 リンとシチミは、顔に斜線が入る感じで一瞬固まっていたが……その後は喜ぶような感じになっていた。

 リンはいつものように三回バウンドし、シチミは変なステップとともに三回蓋をバンバン開閉していた。


 そしてニア……完全にプンスカモードだ……


「なにそれ! レベル1009って! HP10095って! 攻撃力1011って! ……システムの想定外って何よ! チートもチート、チートオブチートじゃない! このCOC! 真面目にやってるこっちが馬鹿らしくなるわ!」


 ニアは、ブンブン不規則に飛び回りながら、時々俺の頭をポンポン叩いてくる。


 なんか笑いながら怒ってる変な感じだ……

 変な駄々っ子のようだ……


 まぁ、ニアが混乱する気持ちもわかるけど……


 俺自身が一番わけわかんないし……


 それにしてもCOCって……CEOみたいな感じで呼ぶのはやめてほしい……そんな役職できたら困るし……。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る