20.フクロウ、願う!

「助けていただき誠にありがとうございます。強き王よ。

 私は、『ボルテックス霊域』の代行者の一人である『スピリット・オウル』のカチョウと申します」


 おお、『スピリット・オウル』は話せるようだ。


「大丈夫かい? どうして魔物に追いかけられていたんだい?」


 そう尋ねると、カチョウは下げていた頭を上げ、静かに語り出した。


 要約すると……


 この魔域である『マナテックス大森林』の北に、上位領域である『ボルテックス霊域』があるが、突然、魔物の襲撃を受けて、現在危機に瀕しているとのことだ。


 本来ならば、霊域には強力な守護の力が働き、魔物は入ってくることなどできないらしい。


 だが、霊域マスターが行方不明になり、おそらくは死亡したために、守護の力が働かなくなったとのことだ。


 このタイミングを見計らったかのように魔物が現れ、現在蹂躙されているのだという。


 元々守護力に守られた霊域は安全であり、戦力などほぼ無いらしい。


 この状況をなんとかするために、助けを求めてやってきたとのことだ。


 話を聞く限り魔物の襲撃のタイミングが良すぎるので、何か意図的な、企み的なものを感じるが……


「でも、どうしてこの魔物の領域に? 」


 俺は素朴な疑問をぶつけた。


 魔物から助けてもらうために、魔物の領域に来るのは、筋が通らない。


「昨日、霊域からでも“浄化の光”が見えました。あれは、おそらく伝説の“精霊波”、その御業の主である強き王であれば、必ずこの状況を救ってくれると信じやってまいりました」


 震えた声で、すがるようにカチョウが答える。


 “精霊波”とか、王とか言われてもピンとこないけど……


 ニアは、ジト目で見ているし……


「あの……多分……昨日の光は、俺が出したんだけど……何かの偶然が作用したみたいで、もう一度出せと言われてもできないんだよね」


 期待を裏切るのは申し訳ないが、はっきり言っておかないと……

 そんな俺の思いもお構いなしに、カチョウが重ね気味に続ける。


「もちろんです。伝説の技が、そう易々と出せるものではないことは、重々承知しております。私がお願いしたいのは、霊域にお越しいただき、新しい霊域マスターになっていただきたいのです」


 出た!……マスターおかわり三杯目……もうお腹いっぱいなんですけど……マスターが渋滞してます……


 ニアがさらにジト目になってるし、リンとシチミは固まっている……


 カチョウによれば……


 マスターがいれば守護力が発動でき、ある程度の魔物は一瞬で追い払えるらしい。


 代行者なんだし、カチョウがマスターになればいいんじゃないかと言うと……


「マスターは誰にでもなれるものではありません。霊域、つまりは精霊たちに認められなければならないのです。霊域の守護力もマスターの能力に影響受けるので、できるだけ強力な方がいいのです。“浄化の光”を放った御業の主、強き王に、ぜひお願いしたいのです」


 俺はレベル9だから、強くもなんともないんですけど……


 たまたま“浄化の光”ってやつが出ただけなんだけど……


 ただ、魔物が襲ってきたのは、“浄化の光”の後らしいので、もしかしたら、“浄化の光”が何か影響してるのかもしれない……


 そうだとしたら、俺にも責任があるかもしれない……


 ……はてさて、どうしたものか……


 困っている俺を見ながら、ニアがお手上げとばかりに肩をすぼめる。


「マスターになっちゃえばいいじゃん、二つも三つも一緒でしょ」


「二つも三つも……」


 カチョウが疑問顔で首をかしげる。


「いやー……ダンジョンマスターと魔域の主になったばかりで……」


 頭を掻きながら言うと、また重ね気味に、


「全く問題ありません。霊域は上位領域ですし、魔域や迷宮のためにもなるはずです」


 宣言するカチョウ。


 いやいや、こっちには問題……大有りなんですけど……。


 でもなぁ……

 今回ばかりは、メリット、デメリットなんて言ってる場合じゃないし……


 もしかしたら、俺に責任の一端があるかもしれないし……


 やっぱ行くしかないかな……


「わかった。俺で役に立つかわからないけど、協力するよ」


 そう言って、より詳しい状況を訊いた。


 最初に襲ってきたのは、飛行型の魔物とそれが運んできた魔物で、第二陣として南東側にある魔物の領域から迫ってきているらしい。


 どうも、その一部が通り道として、この『マナテックス大森林』を通過しようとしていたようだ。


 それが今まさにケニーたちが迎撃している魔物たちなのだろう。


 ケニーたちの迎撃は、奇しくも霊域への援護になっていたようだ。


 この大森林の戦力を連れていけば、なんとかなりそうな気がするが……かなり移動に時間がかかりそうだ。


 カチョウの話でも、それでは手遅れになる可能性があるとのことだ。


 それよりは、この大森林や、その上空を通過する魔物を迎撃して、霊域に近づけないようにしてもらった方が効果的というのがカチョウの意見だ。


 確かにその通りだし、この大森林や迷宮を手薄にして、万が一こちらがやられたら元も子もない……。


 俺さえ霊域に行って、マスターになれば、守護力が発動できるからなんとかなるとのことだし。

 俺だけならカチョウが運べるので最短時間でたどり着けるとのことだ。

 ニア、リン、シチミぐらいなら一緒に連れていける。


 この提案に乗るのが一番良さそうだ。


 そう決めて俺は絆通信をつなぐ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る