21.悪魔が、来たりて、、、
俺は、『絆通信』で
一、大森林の南東から侵攻してきている魔物を引き続き迎撃。『アラクネ』のケニーに現場の指揮を任せる。
二、大森林の他の地域も警戒しつつ、ケニーの指示に従う。森上空を通過する飛行型の魔物は全域で迎撃する。
三、迷宮地上一階のウルフたちと二階のイーグルたちは、その機動力を生かして自由に行動する遊撃部隊とする。
四、迷宮自体は『マナ・クイーン・アーミー・アント』のアリリの指揮で警戒しつつ待機。特に、空からの侵入に警戒。状況により、不在になった地上一階二階に他の階層から応援を回して警戒すること。
『絆』スキルの『絆通信』というサブコマンドが発生した効果かもしれないが、
これによって、俺を介さなくても、仲間同士で臨機応変に連絡しあって対応ができる。
指示を終えた俺は、ニア、リン、シチミとともに『スピリット・オウル』のカチョウの背に乗り、霊域へと飛び立った。
カチョウは、その見た目に反し、かなりのハイスピードだ。
振り落とされないようにするのが大変だ。
ニアたちは、まとめてカチョウの背と俺のお腹の間に挟み込んでいる。
かなり上空を飛んでいることもあり、すごく寒い。
しかし……間に合うのだろうか……
速いといってもかなり距離があるはずだ……
霊域は、『マナテックス大森林』よりは小さいらしいが、それでもかなりの距離だろう……
間に合うことを祈るほかない……
しばらく飛ぶと……
……どうやら大森林を抜けたようだ。
前方には東西にのびる山脈がある。
ここを抜けると霊域らしい。
山脈を抜けると……
左右にそれぞれ大きな湖があり、その奥に平地が広がっているらしいが、今飛んでいる高度からでは、その全貌はよく見えない。
平地といっても、草原というわけではなく、ほとんどが木の生えた森のようだ。
すでに、火がまわり焼野原が広がっている……
……魔物がすごい数だ。
三百体以上は確実だろう。
スケルトンなどのアンデッドもいるようだ。
目前に見える手前側は、酷いやられようだ。
木はなぎ倒され、火が放たれ、かなり燃え広がっている。
霊域に入ってすぐの魔物が暴れている手前で、カチョウは地面に降りてしまった。
なぜこんな手前で降りたのか疑問に思っていると、カチョウが叫んだ。
「フラニー、お願い!」
直後、俺達は虹色の輪に包まれた———
———次の瞬間……
大きな建物……
……いや、これは巨大な木だ……大木の前に立っている。
おそらく、横幅が三十メートル以上はある……
「早く中へ!」
声の方に振り向くと、緑のロングヘアの女性の後ろ姿があった。
杖を持って魔物と戦っている。
周りを見回すと、魔物が向かってきている。
結構近くまで迫ってきている。
この女性の他にも、戦っている様々な生物たちがいる。
鹿、熊、狼、狐などの動物もいるし……魚が空を飛んでいる?……錦鯉?……まぁそれはともかく、魔物に比べれば、数が圧倒的に少ない。
ここがおそらく、防衛の最前線ということなのだろう。
そして彼女が、先ほどカチョウが呼びかけていたフラニーなのだろう。
「カチョウ、黒幕は悪魔たちよ。何かを探してるみたい。彼を急いで中へ。マスターになって守護の力を使ってもらわないと……もう……持たない……」
顔は前を向いたまま、悲痛に叫ぶ。
「わかったわ。強き王よ、さぁ中へ」
急いだ方が良さそうだ。
でも……多勢に無勢で……前線がもう持たなそうだ……
「ニア、リン、シチミ、俺は行ってくるから、その間ここを守ってくれないか!」
そう頼むと……
「そうこなくっちゃ!」
「がんばる! 守る! 」
「まかせとけ!」
みんな力強く答え、すぐに動き出す。
俺は、カチョウに促され、眼前の大木の大きな穴である
その時———
———突然、体を何かに引っ張られた……
突然のことで、踏ん張ることもできない。
俺の体は、宙を舞い、ニア達や緑髪の娘を通り越し、魔物たちの方に引っ張られる。
よく見ると、胴体に黒いローブのようなものが巻きついている。
外そうと手をかけるが、うまく掴めない。
そうこうしているうちに、地面に叩きつけられてしまった———
かなりの衝撃だったが、不思議と大きなダメージは無いようだ。
ただ、それなりの痛みは感じる。
そして、俺を引っ張った張本人は目の前にいる。
黒いマントを羽織った 二メートルぐらいの人間……いや……人間じゃない!
大きな長鼻、下から突き出した大きな牙、魚の鰭のような耳、スキンヘッドに突き出す二本角、赤い肌……
「そいつは悪魔よ! しかも中級! 他にも何体かいるわ! 気をつけて!」
緑髪さんの叫び声が、後ろの方から聞こえてくる。
かなりの距離を一気に飛んだらしく、ニアたちと距離が遠い。
一瞬後ろ振り返ると、ニアたちは、俺を助けるために走り出しているようだ。
しかし、遠い……
すぐには着かないだろう……
ここは自分でなんとかしなければ……
悪魔がギロリと目玉を動かし、嗜虐の笑みを浮かべる。
「こんな人間が切り札とは……。泣けてきますね。レベル9とは……何の冗談でしょうか。面白すぎて、もはや笑えませんよ」
俺を鑑定したらしい。
俺も鑑定する。
<種族> 赤の悪魔(中級)
<レベル> 52
……やばい……
これはほんとにやばいやつだ……
……やばい……武器、武器、武器……
そうだ! 迷宮で手に入れた魔剣があったはずだ。
俺が、『波動収納』から魔剣を取り出し、手に握ろうとしたその瞬間———
悪魔が黒いロープをもう一つ出し、魔剣を叩き落とした———
……俺は、魔剣を取りこぼしてしまった。
悪魔が、更に嗜虐の笑みを強くして顔を寄せてくる……
———コノヤロウ!
俺は、焦りと魔剣を叩き落とされた怒りで、思わず悪魔の顔を殴りつけてしまった。
———瞬間……
悪魔の頭がグチャグチャに破裂してしまった!
残った体は、黒い液体になり地面に落ちた。
その後、霧状になって消えてしまった……。
いったい何が……
俺が倒したんだろうか……
後ろ振り向くと、ニアたちが魔物を蹴散らしながら近づいてきている。
「まだいるわ! 気をつけて!」
緑髪さんの声が聞こえた時には、俺はすでに四体の悪魔に囲まれていた。
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