19.突然の、襲撃者、リンちゃんのターン

 『コカトリス』を全て一人で倒したニアを褒める間もなく、今度は『イビルバタフライ』が迫ってきた。蝶の魔物だ。


 こちらは、リンが任せてほしいとばかりに戦闘態勢で待ち構えている。


 ———リンが動き出す。


 地面から木、木から別の木へと、ビリヤードの球のような動きで空中の一体に体当たりをする。


 バウンドして方向を変えるたびに威力を増した攻撃は、 充分な威力とスピードで、衝撃音とともに『イビルバタフライ』を大きく弾き飛ばした。


 『立体起動』スキルと『体当たり』スキルの合わせ技だろう。


 大きく飛ばされた一体は、ちょうどシチミの前あたりに落下した。


 シチミは口……である箱の蓋を大きく開けて、『イビルバタフライ』の頭をくわえようと近づく。


 蝶の魔物といっても人間くらいのサイズがあるので、宝箱サイズのシチミとしてはギリギリくわえられるくらいの大きさだ……


 飛びつくように襲いかかる———


 ——— 一発で首を切断した!


 これはおそらく『噛みつき』スキルだろう。

 噛むときに、蓋と本体にギザギザの鋭利な歯ができていた。

 まるでサメのように……

 あれで捉えられればイチコロだろう……。


 リンは、さっきの一撃の時に向きを変え、もう一体にも突っ込んだが、ギリギリでかわされたようだ。


 だが、そのまま下向きに角度がついていたリンは、木の太い枝にぶつかると、上向きに再度跳ね上がった!


 かわしたと思って油断していた一体が、再度の攻撃に避けきれず撃ち落とされた。


 またもや反転攻撃に移ろうとしたリンだが、空中にいるところを、残りの三体に囲まれた。


 そして一体の羽で叩きつけられてしまった。


 地面に直撃したリンに更に追い打ちをかけるため、三体が一斉に襲いかかる。


 しかし防御に優れたリンは、ほとんどノーダメージのようだ。

 『物理耐性LV.10』『衝撃吸収LV.10』は伊達ではない。


 リンは、体のサイズをソフトボールぐらいにまで小さくし、回転しながら素早く攻撃を避ける。

 そして一瞬の隙をついてバウンドすると、『イビルバタフライ』の囲みから脱出した。


 リンはひとまず大丈夫なようだが、この地上に降り立った三体の『イビルバタフライ』が、大量の鱗粉を撒き出した。


 周囲が鱗粉に覆われる———


 ……少し息苦しいし……気持ち悪い……


 落下したもう一体を始末に向かっていたシチミと、腕組みしながら状況を見守っていたニアが苦しそうに動きを止めた……


「オイラ……なんだか……苦しい……フラフラする……」


「うー……なにこれ……しびれる……体が重い……」


 シチミとニアが、苦悶の声を漏らす……

 ニアは、力なく着地した……


 これは……毒だ!


 『波動鑑定』すると、『イビルバタフライ』は、『毒鱗粉』という種族固有スキルを持っていたようだ。


 リンは『状態異常耐性』があるから平気なようだが、ニアとシチミは毒にやられたらしい。


 よく見るとフクロウも苦しそうだ……


 オレも……やばいと思ったのだが……

 今のところは大丈夫のようだ……。


 解毒薬なんてもってないし、早くなんとかしなければやばい……


「リン、がんばる、すぐに倒す、必殺技出す! 」


 リンも、早く決着をつけなければいけないと思っているようだ。


 『立体起動』スキルで、もう一度空中高く舞い上がると———


 今度は……巨大化した!


 種族固有スキルの『膨張』だろう。


 巨大化したリンは、巨大な楕円形……いや……鏡餅のようになった。

 そう、『イビルバタフライ』を潰せるほどの大きさだ。


 そのまま落下し、『イビルバタフライ』二体を押し潰した。


 体積を増やし、重量も増やせるということだろう。

 地面が揺れた。


 残る一体は、かろうじて逃げたようだ。


「逃さない! 」


 リンは、体の一部を細長くすると、逃げようとする『イビルバタフライ』に巻きつけた。


 種族固有スキル『変形』を使ったのだろう。


 イビルバタフライは最初暴れていたが、だんだん動きが鈍くなってきている。


 これは、おそらく種族固有スキル『吸収』の『HPドレイン』コマンドを使ったのだろう。

 HPを吸い取っているに違いない。


 動きがかなり鈍くなったところで、リンは一度拘束を解き、再度空中に舞い上がると、先程の鏡餅スタンプを繰り出した。


 ———圧殺完了だ!


 これで残りは、先ほど地面に落ちて、シチミが対処に向かっていた一体だけだが……


 おっと、シチミは毒にやられながらも、なんとか落下していた『イビルバタフライ』にたどり着き、噛みつき攻撃で始末したようだ。


 よくがんばった! シチミ!


 これで戦闘は終わりだな。




 基本的には圧勝だった。


 特に、ニアの攻撃力は凄まじかった。


 もちろん、攻撃スキルの少ないリンもよく頑張ってくれたし、レベルの低いシチミも充分貢献してくれた。


 俺の出る幕は全くなかった……

 といっても……レベル9の俺ではそもそも出る幕は無いのだが……

 卑屈になるのはやめておこう……

 今はこの三人の仲間が何よりも誇らしい。


 おっと、戦果の分析をしている場合ではなかった……


 ニアとシチミ、フクロウが毒にやられている……

 大ダメージはないが継続ダメージを受けているようだ。


 リンが急いで戻ってくる。


「毒、吸い取る、大丈夫!」


 そういうと、ニアのところに行って、体に触れて毒を吸い取りだした。


 ……そうか!


 リンの種族固有スキル『吸収』の中に毒を吸い取って治療できる『毒吸収』コマンドがあるといってたっけ。


 よかった! これで大丈夫だ。


 シチミも、フクロウも同様に毒を吸い取ってもらい、皆事なきを得た。グッジョブ! リン!


 これで終わったか……


 いやまだだ……


 フクロウの傷は治していない。

 治療しないと……


 ニアに頼んで風魔法の『癒しの風』をかけてもらった。


 フクロウの傷は、大きい傷も小さい傷もみるみる塞がり、あっという間に治ってしまった。


 魔法による回復を初めて見たが、びっくり現象だ……


 これで大丈夫だろう。


 改めてフクロウを『波動鑑定』してみると……


 <種族> 『スピリットオウル 』


  <レベル> 36


 やはり、魔物ではないようだが……

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