10.迷宮、話す!
突然、世界が歪む……
クラっとしたその瞬間、俺たちは全く別の場所にいた。
赤茶けた壁や床に囲まれた大きな部屋のような場所だ。
部屋と言ってもかなり広い……
一般的な体育館の半分くらいはありそうだ……。
一瞬のそんな思考から我に返ると、ニアとリンは既に警戒態勢に入っていた。
今度はいったい何が起きたんだ……
まったく……次から次へと……無理ゲーすぎるだろ!
そう思いつつ、おれも周囲を警戒すると……
……この部屋が、普通の部屋ではないことがわかる。
何やら機械装置っぽいものがたくさん置いてある。
それはファンタジー世界には不似合いな造形だ。
……また別の世界に飛ばされたのだろうか……
そんなことを考えていると、突然、立体映像のようなものが現れた!
黒髪で日本人ぽい……
全身を白いマントのようなもので包んでいる……
かなりの美人だ。
あくまで立体映像ではあるが……
そう、立体映像と明らかにわかる作りなのだ。
どこから照射されているのかは、わからない。
だが生身の人間でないことはわかる……。
一瞬で俺たち三人は、後ろに距離をとった。
「警戒しなくて大丈夫です。あなたたちに危害を加えるつもりはありません」
突然、立体映像が話し出した。
「あなたは誰? 私たちをどうするつもり?」
ニアが、柳眉を逆立てた。
「私は、『テスター迷宮』管理システムです。あなたたちを害する意思はありません。協力を……いえ……救援を依頼したいのです」
立体映像が力なく揺れた気がする。
いや……ざらついた感じで揺れている。
「迷宮管理システムって……この迷宮はとっくに死んでいて、遺跡化してるはずでしょ?」
腕組みしたニアが、更にまくし立てる。
「先程までは休眠状態でした。現在情報から考察し……およそ…… 二千年が経過している模様です」
「二千年って……仮にそれが本当だとして、なんで急に目覚めたのよ」
「現在情報から考察するに、先程発生した大規模な“浄化の光”の作用により、システムの一部が起動したと思われます」
「“浄化の光”って、まさか……スケルトンたちを倒したのって、“浄化の光”なの?」
俺の方に向き直ったニアは、問い詰めるように訊いてきた。
「いやー……よくわからん……何か光ったところまでは覚えてるんだけど、スケルトンを倒すところは見ていないし……意識飛んじゃったから……」
俺の曖昧な答えに……ニアは天を仰ぐような仕草をしている……
「周辺の残留情報からの推定では、『テスター迷宮』及びそれを中心に『マナテックス大森林』のほぼ全域のアンデッドが殲滅されています。さらに、同範囲のほぼ全ての魔物が浄化されている模様です」
立体映像がなんとなく言い辛そうに告げる。
ニアを見ると、口を大きく開いたまま固まってしまっている。
リンは、隣でただの丸い球体と化している……。
それにしても……スケルトンだけじゃなく全てのアンデッド、それもこの迷宮遺跡だけじゃなくて、大森林全域のアンデッドを倒すなんて……
この迷宮遺跡が属するという大森林がどれぐらいの広さかわからないが……
魔物の浄化というのも気になるけど……
「あの……それって……どれぐらいの数ですか?」
「……アンデッドが五千体以上、魔物が二千体以上と推定されます」
え、そんなに……
数が凄すぎて全然ピンとこないけど……それにしても……
ニアもリンも、固まったままだ……。
もう一つ訊いておこう……
「魔物の浄化って、倒したってことですか?」
「魔物の浄化とは、魔物の精神を癒し、通常の生物だった頃の精神状態に戻すものです。一般的な魔物は、普通の生物が、魔素溜まりなどで大量の魔素を浴びて変質することにより魔物化したものです。魔物化すると、通常の精神状態を保てず攻撃本能のみで生きる状態になります。この状態から、通常の精神状態に戻すのが浄化なのです。討滅ではなく、状態変化です。いわば夢から覚めさせるようなことです」
なるほど……ニアが前に言っていたけど、魔物がテイムできない状態を、取り除いたことになるわけか。
ということは……今なら魔物のテイムもできるのではないだろうか……。
テイマーとしては、ちょっと食指が動くが……今はそれどころじゃないか……。
そんなことを考えていると、ニアがようやく再起動したようだ。
「浄化の光って……まさか……“精霊波”?」
「“精霊波”の確定データがないために、検証できませんが、残留霊素を見るに、ほぼ同等のものと推察されます」
立体映像が、なんとなく申し訳なさそうに答えている。
「“精霊波”って、 精霊王だけが出せる伝説の技で実在するかもわからない究極技なのよ……こんなおっさんが出せるわけないでしょ!」
ふてくされるように、ニアが吐き捨てる。
毒舌も戻ってる………
確か……称号に『精霊王』ってあった気がするけど……
とても言える雰囲気じゃない……スルーしよう……今回は……ごまかしスルー
「グリム様が放射されたのは間違いないと思います。現在情報によると浄化された魔物は、すべてグリム様に『テイム』された状態になっています。浄化の光に『テイム』の効果も乗っていたと推測されます」
俺、名乗ったかなぁ……と思いながら聞いていると、さらりと、とんでもない情報が載っていた……
なんですとー!
約二千体の魔物の『テイム』って……
そんなバカな………
そもそも……
「魔物は、浄化の光を浴びて、『テイム』できる状態になるはずなのに、浄化と同時に『テイム』なんてできるのかな?」
俺は素朴な疑問をぶつけてみた。
「詳しくは分かりませんが、浄化の光を浴びた瞬間、テイムの効果も生じたと考えざるを得ないと思います」
本当にそんなことができるのかな……
……待てよ……確か……『テイム』すると『絆』スキルの『絆登録』リストに自動的に載るはず……確かめよう。
――絆――絆登録
……………………………
念じただけでは、リストらしきものは現れない……
――
そう念じてみたら、瞬間、リスト表が現れた!
……膨大な数だ……
……登録件数 二千三十九件……
まじか……本当だった。
これ……ムリムリ……二千三十九って……どうしろっていうの……
「あるじ、ほんと?」
突然再起動したリンが訊いてきた。
ニアはジト目で見ている。
「うーん、今確認してみたんだけど……なんか……ほんとみたい」
「そう……リン、第一号! 嬉しい! リン一番!」
リンが嬉しそうに三回バウンドした。
てか、そこなの……りんちゃん、違うでしょう……。
ニアは相変わらずジト目で、処置なしとばかりにお手上げのポーズだ。
みんな無言になったところで、再び立体映像が話し出す。
「実は、お願いしたいことの一つが、その魔物のことなのです」
立体映像のお願いとは……
俺が『テイム』した魔物を使って、この『テスター迷宮』及びその属する『マナテックス大森林』を守ってほしいとのことだった。
なんでも、迷宮とは、この世界において莫大な価値を生むものであり、誰かが迷宮が生きていることに気づけば、間違いなく支配するために襲ってくるらしい。
本来なら、迷宮を攻略するにはかなりの時間と労力を要することになるが、現在この迷宮は、二千年にも及ぶ休眠により、かなりの機能が損傷している状態で、本来の防衛力は発揮できないらしい。
迷宮自体の機能回復には、システム全体の再起動と復旧が必要であり、年単位で時間がかかる可能性があるそうだ。
迷宮は自然に発生するものでなく、誰かが作るものなのだろうか……
そんな疑問をぶつけてみると……
「迷宮は、神の手により作られたと伝えられる『
心なしか立体映像が誇らしそうだ。
「マシマグナ第四帝国って、聞いたことがあるような……ないような………」
ニアが、額に手を当てながら呟いた。
「マシマグナ第四帝国は、約三千年前に滅亡しました」
淡々と答える立体映像……
失われた古代文明ということなのだろうか……
「迷宮システムの再起動、復旧にあたり、もう一つお願いがあるのです……」
立体映像曰く、システム全体の再起動及び復旧にはダンジョンマスターと呼ばれる迷宮支配者のコマンド入力が必要であり、俺にダンジョンマスターになってほしいというのだ。
まったく……もうお腹いっぱいだっていうの……。
それより素朴な疑問がある。
「迷宮を再起動したら誰かに狙われるなら、そのまま休眠しとけば、いいんじゃないかな?」
俺が疑問をぶつけると、立体映像がめっちゃ悲しそうに見つめてくる……
すごいなこの表情……この立体映像技術すごいわ……。
「現在情報を基に考察すると、長い休眠の間に何らかの原因で魔素供給システムに不具合が生じ、システムが大きく損傷しています。今再起動しなければ、システム自体が崩壊する可能性が高いのです。貴重な人造迷宮保存のためにも、私の命のためにも……どうか助けてください! お願いします……」
わー、めっちゃ泣き出した!
立体映像なのに号泣してる……
泣き落としか……まじすげえ技術……。
はてさて……どうしたものか……
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