9.スライムの、その先へ。

 リンのステータスはどうなってるかな……


 リンの方に向きを変え、念話で話しかけようと思っていると……


 リンが、グニュグニュ、プルプル、震えだした。


 みるみるうちに、かわいい口が現れた。


 次の瞬間、俺とニアに衝撃が走る――


「あるじ、リン……お話しできる……なった。お話ししたい……」


 念話ではなく、リンが突然、話し出したのだ。


 ニアは隣で、口をあんぐりさせている。


「リ、リン、君話しぇたの? 」


 思わず噛んでしまった。


「レベルアップで、口作れた。……あるじとニアと話したかった」


「ひゃー、話せるスライムなんて見たことないわ………でも、これでリンと話せる。よかったね、リン!」


 ニアは驚きつつも、リンと話せることが嬉しいようだ。


「リンも嬉しい。ニアといっぱいお話しする。ニアもポカポカ」


 リンは嬉しそうに三回バウンドした。


「リン、よかったね。俺もリンと直接話せて嬉しいよ。ところで、リンはレベルが38になってたけど、スキルも増えてるのかい?」


「うん、増えた! リン、強い! がんばる!」


 レベルの爆上げに伴い、スキルも増えたようだ。


 その内容は……


<通常スキル> 『物理耐性LV.10』『魔法耐性LV.10』『状態異常耐性LV.10』『隠密LV.10』『聴力強化LV.10』『体当たりLV.10』『衝撃吸収LV.10』『立体機動LV.10』


<種族固有スキル> 『分解LV.10』『吸収LV.10』『種族通信LV.10』『体内保存LV.10』『変形LV.10』『増殖LV.10』


 いやー、これ結構すごいんじゃないかなぁ。


 スライムって、こんなにスキルを持ってるものなんだろうか?

 それともリンが特別なのかなぁ……


 攻撃というよりは、防御特化型みたいだけど……

 耐性系が一通りあるから、壁役ができそうだよね。

 まぁ壁といっても、ビーチボールサイズだけど……


 『隠密』や『聴力強化』なんかも情報収集に良さそうだ。

 人気ドラマの「家政婦は聞いた!」みたいに、身を潜めて情報を集めるとかやってくれそう。


 『体当たり』『衝撃吸収』『立体機動』は、もともと持っていなかったらしいから、あの戦闘で身に付いたんだよね……多分。


 取得効率がすごくいい気がするが……俺を助けようと頑張ってくれたお陰だね。


 『種族固有スキル』の『分解』は、ゴミなどいろんなものを分解できるそうだ。

 水を浄化したり、サビを落としたりもできるらしい。


 『吸収』というスキルは、分解したものを体内に吸収できる能力だが、スキルレベルが10になったことにより、スキル内で新しい技が発生したらしい。

 俺の固有スキルにあったスキル内コマンドのようなものだろう。


 その内容は、毒の治療に使える『毒吸収』、敵のHPを奪う『HPドレイン』、敵のMPを奪う『MPドレイン』という状態異常回復と攻撃に使える技だ。

 極めつけは、敵の経験値、ステータス数値、スキルをランダムで一つ以上奪う『ランダムドレイン』というびっくり技まで増えたようだ。

 どのぐらいの確率で成功するのかわからないが、もし敵のスキルや経験値がある程度の確率で奪えるなら、チートスライムになるんじゃないだろうか。凄過ぎる……


 『種族通信』は、スライム同士で念話ができたり、近くにいる複数のスライムに呼びかけることができるらしい。


 『体内保存』は、俺の『波動収納』と同じように、物を収納できるそうだ。

 おそらく、ゲームでよくある『アイテムボックス』のように、かなりの収納容量があるだろう。

 これも実際かなり便利なスキルだよね。


 『変形』は、体の一部を、様々な形状に変化させることができるらしい。

 リンによると、直接話せるようになったのは、この『変形』のスキルのレベルが上がったことにより、人間の口というか声帯を作れるようになったためらしい。

 直接話したいという気持ちから、自分で考えてやってみたそうだ。

 健気な奴……かわいいヤツめ。


 これからは、ニアも含めて三人で話せるから、より楽しくなるよね。グッジョブ! リン!


 『増殖』スキルは、分裂増殖するスキルで、リンとニアによると、スライムはこの方法で個体数を増やすらしい。


 通常、スライムはレベル6になると『増殖』スキルが発生して、特別なことがない限り分裂し増殖するため、高レベルのスライムは発生しづらいのだそうだ。


 分裂すると、レベルは分裂個体に分散されるので、二体ならレベル3、六体ならレベル1になるとのことだ。


 つまりレベル38のスライムであるリンは、かなり特別な、珍しい存在ということになる。


 スキルの話が終わると、リンは二回大きくバウンドして、力強く言った。


「リン強くなる! クラスチェンジする! ハイスライムなる! 役に立つ!」


 なんと、リンもレベル20を超えたことによりクラスチェンジができるらしい。


 しかも『ハイスライム』に……

 ここはメタルチックなスライムじゃないのか……と個人的には思うが……そんなことはどうでもいい。


 リンはやる気だ。


 ピクシー同様、レベルもスキルも全て持ち越しということだし問題も特にない。

 ここはマスターとして、リンのやる気に応える以外の道は無い。


「リン、クラスチェンジを許可するよ」


 俺が許可すると、リンはニアのときと同様に光の繭に包まれ、数秒後、繭の拡散とともにまた姿を現した。


 緑色が若干濃くなっていて、体も一回り小さくなっているみたいだ。

 逆に小さくなるパターンなのか、とツッコミたい気になったが、リンによると、大きさはある程度の範囲で自由に変えられるらしい。


 『ハイスライム』になったリンは、レベルは38で持ち越しているが、ハイスライムとしても実質18レベルまで上がっている状態だ。

 このことから、ニアの時と同様に、スキルレベルが上がった状態で各種の新スキルが追加されている。

 もちろん、ステータス数値も上がったらしい。


 新しく手に入れたスキルは………


<通常スキル> 『物理吸収LV.9』『魔法吸収LV.9』『状態異常付与LV.9』


<種族固有スキル> 『膨張LV.9』『融合LV.7』


 いやー、さらに強化されちゃったね。


 『物理吸収』は、受けた物理攻撃を HP として吸収してしまうらしい。

 同様に『魔法吸収』は、受けた魔法攻撃を MP として吸収するらしい。


 これはかなりすごいスキルだよね。

 戦いながらHPとMPの補充ができるんだから。

 もう守護神って感じだね。


 『状態異常付与』は、毒、麻痺、催眠、魅了、混乱などの状態異常を選んで付与できるらしい。

 ただし、相手に直接触れる必要があり、遠距離からの攻撃はできないようだが。


 これかなりお得なスキルだよね。

 ニアは魅了攻撃と眠り攻撃は別々だったのに、このスキルにはほとんどの状態異常が含まれている。

 まるでパック商品みたいな感じだ。


 種族固有スキルの『膨張』は、体積を増やし巨大化できるらしい。

 どのくらい大きくなれるかは、リンにもやってみないとわからないみたいだが……。


 このスキルがあれば、本当にリンは壁役ができそうだ。

 無敵の壁役に………ほんとに守護神だよこの人。


 『融合』は、体に取り込んだ物質を融合し、体表面にまとうことができるようだ。

 いまいち使い方がよくわからないが、多分……鉄とかを体に取り込んで、それを融合し体表面にまとえば鉄のように硬くなるとかではないだろうか……

 もしかして、このスキルを使えば、あのメタルチックなスライムになれるのでは……ムフフ……。


 まぁ、いずれにしても、リンはかなり強いはずだ。

 テイマーよりはるかに強い使役生物ってありなんだろうか……と少し卑屈になりそうだ……。


 もう、リンの壁役とニアの風と雷の魔法攻撃で、普通の魔物ならほぼ無双なのではないだろうか。

 ほんとありがたい。

 守ってもらうばかりの自分が少し心苦しいが……

 焦ってもしょうがない……適材適所もあるし……。

 いずれ二人に追いつけるように、気長に頑張ろう。


 一緒にリンのステータスを聞いていたニアに、話を振ってみた。


「ニアとリンのコンビで、ほぼ無双じゃない?」


「あったり前よー! リンと一緒に私の最強伝説が幕を開けるのよ!」


 満面のドヤ顔で、ニアが胸を張った。


 俺が全く入っていないことに少し寂しさを感じたが……

 まぁ二人が楽しそうだし……いいか。


 二人ともすっかり仲良くなって、いいコンビになってくれそうだ。

 一緒に飛び跳ねているうちに、ニアがリンに乗っかってしまったようだ。

 面白かったようで、そのまま騎乗状態で二人で一緒にバウンドしている。

 とても楽しそうだ。


 おお……そしてこれは……まるでバランスボール!

 ……体幹を鍛えるのにすごく良さそう……。

 見ようによってはスライムに乗った騎士にも見える……ムフフフフ……。


 後からニアに訊いたところによると、種族自体の能力差があるので、レベルだけでは一概に強さは測れないらしいが、それでも魔物の場合だと、レベル30超えるとかなり強力になるらしい。


 確かに、さっきのニアの話でも、人族の場合でレベル40超えると騎士団の団長クラスの実力になるらしいから、ニアもリンも相当の実力であることは間違いないはずだ。


 この二人と一緒なら、魔物のいる恐ろしい世界でもなんとかやっていけそうだ。


 そう思いながら、バウンドする二人に近づいた時だ――


 ――突然、世界が歪んだ………


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