4.ガイコツ、迫る!

 音の方に振り向くと同時に、ニアが叫んだ!


「スケルトンよ、私の後ろに隠れなさい!」


 やばい、ほんとに出た! スケルトン!


 隠れろと言って両手を広げてくれるのはありがたいんだけど、どう考えてもニアが小さすぎて隠れられないんですけど……。


 おっと、そんなことよりスケルトンだ!

 三体のガイコツが、鉈と盾のようなものを持って向かってくる。


 単独行動が基本だったはずじゃないのか?

 一度に三体はやばいだろう……。


 そう思った瞬間――


 ――突風が巻き起こった!


 三体のスケルトンは空中に放り投げられ、そこから真っ逆さまに床に叩きつけられた。

 ガチャガチャと激しい音を立てて、骨がバラバラに転がる。


 どうやらニアが魔法を使ったようだ。


 魔法って凄い!


 初めて見た魔法は、突然襲いかかってきたスケルトンの恐怖を吹き飛ばすぐらい感動的だった!


 ニアは注意深く確認すると、振り向いてVサインをした。


「もう大丈夫よ。こんなやつら、私の魔法で一捻りよ!」


 ニアが満面のドヤ顔だ。


 でも確かに凄い!

 三体を一瞬で倒しちゃったんだから。


 ニアのお陰で命拾いだ。

 ここは素直に感謝だね。


「ニア、ありがとう!」


 礼を言う俺の横で、リンも嬉しそうに三回バウンドした。


 突然の恐怖が通り過ぎ、少しほっとしたその時だった。


 ガチャ、ガシ、ガチャ、ガシ――


 また乾いた嫌な音が、重なるように聞こえてきた。


 ………ニアは音のほうに振り向いた後、もう一度俺を見るとしばし固まった。

 スライムのリンは、身構えるように少し体を歪ませている。


 こ、これはやばいやつだ!………この足音かなりの数だ!


「逃げよう! 」


 俺は思わず叫んでいた!


「無理よ、出口は一つ。そっちの方からスケルトンが来てるんだもの!」


 ニアも取り乱しながら叫ぶ!


  ニアはむしろ前に出て、姿を現したスケルトンたちに向かって先程の突風を巻き起こした。


 先程と同じようにスケルトンたちを巻き上げ倒しているが、一度の突風で倒せるのは五、六体程度だ。


 後から更にスケルトンがどんどん出てくる。


 これはやばい……。


 そう思いながらも俺は何もすることができない………

 なんて無力なんだ……。


 ニアも、出口の方に切り開いていくことを諦めたようだ。

 あまりにも数が多すぎる。

 いったい、何十体出てきてるんだ?


「一旦後ろに下がって、態勢を立て直すしかないわ!」


 ニアの言葉に従い、俺とリンはスケルトンと逆方向に走りだした。


 振り向くと、尚もスケルトンがどんどん増えていっている。


 やばい、やばい……


 頭が真っ白になって何も考えられない。

 どうすれば?


 そうこうしてるうちに、壁のようなものの前に来てしまった。


 やはり出口のようなものはない。

 行き止まりだ……。


 ニアは、俺から少し距離をとって、迫ってくるスケルトンたちに突風をぶつけている。


 突風を掻い潜って向かってくるスケルトンに、リンが体当たりを食らわしている。

 リンも俺を守ろうと迎撃してくれているのだ。

 だが攻撃力が足りないらしく、スケルトンを後ろに弾き飛ばすことはできても、倒すには至っていないようだ。


  二人は、次から次へと迫りくるスケルトンに対して、怯まずにに戦い続けている。


 おれも何かしなきゃ!

 武器になりそうなものがないか周りを探すが何も見つからない……。

 棒でも、石でも、なんでもいいのにパニック状態で見つけられない。


「ダメ、もう魔力が…… 」


 消え入るような声を出すニアの方を見ると、空中でふらりとよろめいている。


 やばい、ニアが限界だ……。


 そう思った時、飛んできたスケルトンの盾がニアに直撃した!


 それほど大きくない丸盾だが、ニアにとっては大きな壁と一緒だ。


 爆発音のような衝撃音と同時に、ニアが弾き飛ばされる。

 その勢いのまま後ろの壁に激突しそうだ。


 助けなきゃやばい!

 そう思い足を踏み出した俺を、緑の丸い影が追い越す――


 ……リンだ。


 ジャンピングで加速したリンは、ニアに追いつきクッションのように変形すると、ギリギリのところでニアと壁の間に潜り込んだ!


 衝突の衝撃を吸収してくれたようだ。


 俺は急いで二人のところに駆け寄る。


 ……よかった、二人とも気を失ってるだけで生きてるようだ。


 だが……スケルトンたちが迫ってくる。


 俺がどうにかしなきゃ……俺が二人を守らなきゃ……


 少なくてもニア一人なら、飛んで逃げることもできたはずだ。

 それなのに俺のために戦ってくれた。


 リンだって、あのサイズならどこかに隠れてやり過ごすこともできたはずだ。

 俺のために果敢に立ち向かってくれた。


 そう……俺のために………二人とも俺のために……


 今度は俺の番だ!

 俺がどうにかしなきゃ!


 今の俺に何ができる……スキルは何か使えないか………そうだ、スケルトンを全て『テイム』すればいいんじゃないか!


「テイム!」


「テイム!」


「テイム、テイム、テイム!」


 ダメだ……全然テイムできない。

 スケルトンはアンデッドだから対象外なのか……


 『精霊使い』スキルは……


「精霊使い! 精霊使い……精霊……力を貸してくれ!」


 『言霊使い』スキルは……


「言霊使い! 言霊使い……言霊……言霊……何か力を!」


 他のは……


「一粒万倍!……万倍の攻撃とか何かないのか!」

「絆!……なんでもいい……何か役立ってくれ……助けてくれ!」


 ……波動、そうだ……もしやあの有名アニメの波動ビームとかでないか……


「波動! 波動ビーム出ろ! 出ろ! なんでもいいから力を! 」


 ダメだ、何も出ない……


 もうスケルトンがすぐそこだ!


 やばい! やばい! やばい!


 スケルトンの鉈が振り下ろされる……ああ……もう死ぬのか………

 死ねば元の世界に戻れるのだろうか…………いやダメだ!

 俺が死ねばニアもリンも死んでしまう! この子たちを守らなければ! なんとかしなければ!


「何か、何かないのか! 何か発動しろ! なんか出ろ! 頼む……何か起きろ! 俺の魂の力なんだろう! 俺はニアとリンを助けたいんだ! 何か出ろ! 何か出ろ! 何か出ろ! 何か出ろビーーーーーーーム!!!」


 俺の心からの願いは、魂の雄叫びとなっていた!


 ………俺の体を何かが包む……全身がピリピリする。

 視界がだんだん白くなっていく、頭の中まで真っ白に、意識が薄れていく………ああ、俺はやっぱり死ぬのか………


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