2.俺、凡人。

「どうどう、どんな感じ? レベルは? スキルは? 固有スキルあった?」


 ピクシーのニアが、興味深そうに覗き込んでくる。


「うーん……レベルは1だね。スキルは、『テイム』とか……よく分からんのがいろいろ……」


「え、………。レベル1………死亡確定ね……」


 最後の呟きは、ギリギリ聞きとれた。


 なんか俺……すごい憐れんだような目で見られてる。


 オレの視線に気付いたニアが、引きつった笑顔をつくりながら話し出した。


「スキルは、そのスキルに焦点を当てて、『詳細』と念じれば、ある程度の内容はわかるはずよ」


 なるほど、そうやればいいわけね。


 確認してみようとしたところ、ニアが可哀想な子をみる感じで訊いてきた。


「『固有スキル』は無いわよね? まあ、普通は無いから、気にすることないけど……」


「……よくわからないのが、……幾つか……」


「え! あるの? 幾つかって、複数持ってるってこと? あー、いいわ、『固有スキル』のことは言わないで! それは、あんたの魂の願望が具現化したもので、切り札だから。 他人に言っちゃダメよ」


 ニアが、驚きながら、サラッと重要っぽいことを言った。


 『固有スキル』は、その人の魂の願望が具現化したもの……つまり、魂の力ってことか。


 てか、何それ?


『ポイントカード』とか、『怠惰』とか、俺の魂って何よ……。


 なんか情けなくて、絶対、人に言えないわ。


 それに、『不思議な魅力』って微妙すぎでしょ。

 どうせならもっと『カリスマ』とか、凄いやつにしてほしいわ!


  我ながら、情けなくなってくる。

 この残念感、ニアのこと言えないわ。

 頑張れよ、俺の魂!


 はあ……、考えたら負けだ。

 気をとりなおして、確認しておこう。


「『固有スキル』は、普通は何個ぐらい持ってるんだい? 」


「そうね、『固有スキル』は持ってない人の方が多いからね。持ってても、一つか二つ、三つ以上持ってる人はかなり少ないんじゃないかしら」


「君は持ってるの? 」


「私は無いわ。 でも妖精族には、強力な『種族固有スキル』があるから、それだけで結構なアドバンテージよ。まあ、今に見てなさい! いずれ私も自分だけの『固有スキル』を手に入れてみせるんだから!」


 最後の方は、左手を腰に当てて右手人差し指を突き上げるという古くさいポーズとともに、ドヤ顔になってしまった。


 やっぱり残念感が………。

 ここはスルーしてあげよう。――――やさしさスルー

 なんて遊んでると、そんなスキルが身につきそうで怖いわ。いかん、いかん。


 そんなことより素朴な疑問を一つ。


「『固有スキル』って、後からでも身につくの? 」


「確かに、生まれた時に持ってる先天的なものが多いわ。 でも、後天的に発現する『固有スキル』もあるのよ。 なにしろ魂の願望だから、魂の力、つまり気合いで身につくはずよ! 私は必ず超絶美少女スキルを手に入れてみせる! 気合だ、気合だ、気合だー!」


 途中から拳を突き上げて連呼しだした。


 やっぱ残念感が半端ない。

 ニア、半端ねー!

 おっと、突っ込んだら負けだ。無視。――――やさしさスルー発動。


 そういえば……


「名前は、どうもグリムらしい」


「どうもってなによ。しっくりこない感じなわけ?」


 怪訝そうにニアが訊いてくる。


「うーん、全くしっくりこないってわけじゃないけど、本当の名前じゃない気がするんだよね。あだ名とか、そんな感じかな。微妙な感じ………」


「ふーん、まぁいいじゃない。グリムって私はいい名前だと思うよ。 よろしくね、グリム。 私のことは、ニアって呼んでいいわ」


 微笑みながら手を差し出すニアに、俺も握手のために、人差し指を差し出す。


「ありがとう。 よろしく、ニア」



 ――――個体名 ニアと友達になりました。パーティーメンバーに入れますか?


 頭の中に突然声が響いた。


 ナニコレ………。


「どうしたの?」


 俺は、突然固まったらしく、ニアが心配そうに訊いてくる。


 どう答えようか迷ったが、そのまま伝えることにした。


「ふーん、頭に声がね……。 それは、たぶん、『天声』ね。 気まぐれに聴こえるときがあるのよ。神の声という人もいて、何か導くもののようなときは従う人が多いわ。 グリムが持ってる『固有スキル』の何かが影響してる可能性もあるかもだけど……」


 ニアに詳しく訊いてみると、『天声』の正体には諸説あり、解明されていないので、どんな条件で聴こえるのかもわからないそうだ。

 ただ、一部では、極めて神聖視されているとのこと。まさに神の声なのだろう。


 あくまで気まぐれであり、今回のように、友達になったからといって必ず聴こえるわけではないそうだ。


 パーティーというのは、行動を共にする仲間のことで、主に、戦闘などでの経験値の入手などに影響するそうだ。


 『天声』がしなくても、一緒に行動し戦闘すれば、不思議とパーティーメンバーと認識されて、経験値が共有されるらしい。

 このシステムのお陰で、直接戦闘しない回復役なども、経験値を入手できるそうだ。


「天声が聴こえたってのも、運命的な感じだし………いずれにしてもパーティー組んであげるわ。 私が守ってやらないと、グリム死んじゃうし……」


 ニアがパーティーメンバーになることを承諾してくれた。

 最後の方は、また、ひどく憐れんだ目で見られてしまった。 せつない………


 気をとりなおしつつ、本人の了承も得られたことだし、頭の中で——ニアをパーティーメンバーに入れる——と念じる。


 ――――個体名 ニアがパーティーメンバーになりました。


 完了の『天声』が流れた。


 ニアに告げて、改めて握手を交わした。


 どこかもわからない世界で、最初に出会ったニア。

 この少し残念だけど可愛いらしい妖精さんと仲間になれて、本当に嬉しい。

  混乱の中で、はじめて晴れやかな気持ちになった。


 どこの誰ともわからないオッサンの仲間になってくれたニアに、心から感謝だ。

 ありがとう、ニア。 そしてよろしく。


 それと、どうしても確認しておかなければならないことがある。


 この世界には、パーティーを組んで臨まなければならない戦いがあるのか。

 魔物のような生き物がいるのか。


「そりゃそうよ。 魔物は問答無用で襲ってくるから、戦わなかったら死んじゃうわ。 ……それにここ……一応、迷宮遺跡みたいだし。 魔物もいるはずよ」


 サラッとまた、すごーく重要なこと言ったよ。この人………。


 迷宮遺跡って……。


 魔物いるって……。


 それマズイだろ、ここにいちゃ!


 改めて周囲を見回すと、草むらの所々が草が薄くなって、石畳みたいなものが露出している。


 やはり、迷宮遺跡なのか?

 所謂、ダンジョンというやつか……。


 ヤバイ予感しかいない……。


 ニアに恐る恐る訊いてみた。


「ダンジョンつまり迷宮そのものではないわ。 たぶんだけど……昔の迷宮が死んだ遺跡ね。 迷宮そのものは生きてないから、大量の魔物がいることはないはずよ。 ただ、 野生の魔物は住み着いてると思うけどね」


 あくまで冷静に答えるニア。


「ここから、早く逃げないとまずいよね!?」


 慌てる俺に、チッチッチッと指をふるニア。

 なんかちょっとムカつく感じ……。


「大丈夫。 ここは地上部分の二階で、天井が崩落して太陽光が降り注いでいるから。昼は、アンデッド系は襲ってこないわ」


 アンデッド?………はて?


 ニアに詳しく訊いてみると、自分の安全確認のために、周囲を調べたらしい。

 近くに魔物がいる様子はなく、夜に活動するアンデッドのナワバリと考えられるとのことだ。


 アンデッドとは、不死のものや、死んでもなお動くものの総称で、怨霊や幽霊、ゾンビ、スケルトン、吸血鬼など全てを含むそうだが、日の光の下でも普通に活動するのは、ゾンビやスケルトンぐらいらしい。


「この時点で何も動きがないから、たぶん大丈夫よ。まぁ、出てきたとしてもスケルトンが数体でしょ」


 胸を張るニア。


 スケルトンは、確かにRPGなんかでは雑魚キャラだし、なんとかなるのだろうか……。


「大丈夫よ。 スケルトンは通常、レベル3〜10。 私は、レベル15だから、大軍にでも襲われない限り楽勝よ」


 もしもし、ニアさん、なんとなくフラグっぽいこと言ってる気がするけど………。 気にしたら負けだな……無視!


 ニアのレベルが15ということは、俺より14も高い。

  レベルシステムのこの世界では、おそらくレベル差が大きなアドバンテージになるのだろう。


 ニアの感じからしても、そんなに心配しなくても良さそうだが、念のために、大軍が来る可能性がないか確認する。


「大丈夫よ、スケルトンは基本単独行動で、群れても二体か三体だから。 グリムは、私が守ってあげるから、心配しなくていいわよ」


 一抹の不安を覚えるが………まぁ大丈夫だろう。


 そう思った矢先、前方からそれは現れた!


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