第2話 私と猫

 日本は四季の変化が美しいと云われていたらしい。古典に書いてある。けれども近頃の四季の雰囲気は、本の中とは違う。


 春は少し暑くて、扇子が必需品だ。

 夏は灼熱なので、建物は風通しの良い造りになっている。

 秋は一気に風が冷たくなる。住宅や建物は、【夏】と【秋冬】用として二重扉が主流になっている。

 冬は中々極寒な上に大雪になる。なので冬は鍋物を食べて部屋も人も温まろうというCMがよく流れている。政府でも推進しているようだ。

 四季の移り変わりや美しさより、四季の辛い所にどう対応するか、が先行している。皆で毎年新しい工夫を生み出している。


                 〇


 私は一人暮らしをしている。一人暮らしで心配なのは、朝の寝坊だ。対策として、目覚まし時計を遠くに置いてある。もう一つ、セットした時間までにテレビや目覚まし時計のスイッチに触れなければ実家に連絡が行くシステムになっている。

 それ以外にも、一日中部屋のセンサーが作動しなければ大家さんに連絡が入る。その時は家族か、必要に応じて警察と一緒に、私の部屋を確認しに来るシステムがある。


 生涯独身や一人暮らしの人が多いので、このようなシステムが生まれたと聞いた。

 色々なシステムがあるので、一人暮らしに関しての悩みは寝坊位だ。その分時代や四季への対応を考える時間がある。


 私の愉しみは、朝の珈琲とプチお菓子だ。お菓子作りが趣味なので、休日は多めにお菓子を作る。今回はクッキーを作った。プレーンやチョコチップなど、変化もある。

 今日は午後から出勤なので、朝の珈琲タイムをゆっくりと過ごせる。私は、先日おばあちゃんに聞いた昔の話を思い出していた。話の中の昔と比べると、便利な事が増えたなぁと感じた。

 

 現代の学校の授業は、タブレットやパソコンが主流だ。自宅での学習もそうだ。

 けれども中には、ノートや鉛筆を使っている子もいる。タブレットのタッチペンだと書いた気がしない、という子がいる。

 紙に鉛筆で書いた時の音や滑り具合が好きだという子なんかもいる。どちらを使うかは本人の自由だ。紙に書いてもすぐにスキャンをしてデータ化が出来るので、特に不便は無い。


 私は、会社ではタブレットを使うけれども、自宅で日記やメモをとる時は紙に書く派だ。なので、可愛いノートや筆入れを、使っている。

 デジタル化が進み、紙の業界は悲鳴を上げた。そこで、デザイン性の高いノート類が生まれた。レトロブームも相まって、ノートの売り上げは中々回復しているらしい。筆入れや鉛筆もそうだ。握っていても痛くならない鉛筆や目覚まし効果のある香り付きのキャップ・筆入れなど、工夫が溢れている。文房具は、密かなブームにさえなっている。


 人々の想い、技術の発達、飛びぬけた発想は物理を超えた。


 私の筆入れから、何かが飛び出してきた。二十センチ位の……ぬいぐるみ?

 そのぬいぐるみが、浮いている。昔飼っていた猫の顔をしている。背中には、天使の羽が生えていた。これは……筆入れ妖精? 都市伝説かと思っていた。


 数少ない筆入れ組の前に、妖精が突如現れるという都市伝説は何処かで聞いた事がある。明らかに作り話だろうと、誰もが思っていた。


「こんにちは」ぬいぐるみが云った。

「こんにちは」私はすぐに応答した。誰かが投影しているのかな? とか部屋に設置されたセンサーのオプションかな? などと考えていた。


「私の名前はロメリア、見ての通り妖精です。センサーのオプションでは無いし、映像でもありません」ぬいぐるみは云った。


「都市伝説の、筆入れ妖精?」私は尋ねた。

「まぁ、そんなところ」ぬいぐるみ……もとい妖精ロメリアは、云った。


 都市伝説は、本当だったのか。いや、本当なら、都市伝説ではないのか。まぁいいや。昔飼っていた猫に似ているだけで、何だか癒される。

 ロボットが当たり前に動いているこの世界。月へ旅行に行く人も増えてきた。もう少ししたら宇宙人だって出てくるかもしれない、と思えば妖精も、そこまで珍しくはないようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る