第3話 私の名前は音田美由

「私の名前は音田おとだ美由みゆ、二十八歳で、OLをしているよ。恋人はいないから、いつでも出てきて良いよ」


「美由、宜しくね。音田美由って、漢字で書くと左右対称だね。」

「そう、私もそこは気に入っているの。ロメリアの名前の由来はあるの?」


 ロメリアの名前は、アルストロメリアという、花の名前から来ているらしい。花言葉は『未来への憧れ』だそうだ。ロメリアは、百年前の世界に生きていたらしい。

 生きていたって事は、一度は死んじゃったって事かな? そんな事を聞く雰囲気ではなかったので、触れないでおいた。

 私が以前飼っていた猫の名前も、花言葉にちなんで付けていた。やっぱり縁を感じる。


 ロメリアが現代の話を聞きたいというので、私は西暦二千百年の話をした。バーチャルアイドルと、人間のアイドルがいるという話をした。どちらも凄い人気で、現代人の心の癒しと支えになっている。アイドルは、百年以上前から、人々に笑顔を届けていたらしい。


「音楽は、どうやって聴いているの?」ロメリアのこの質問の意図はすぐに理解した。

 私の家族は歴代、音楽好きが多い。母親やおばあちゃんとも、音楽の話をよくしていた。苗字も音田だし。私は昔の曲を聴くし、おばあちゃんは現代の音楽を聴く。世代で特徴があって、面白い。


 現在の音楽の聴き方はCDとデータ、二つが主流だ。百年前にデータが主流になり、CDの販売数が伸び悩んだと聞いた事がある。


 けれどもここ数十年、音楽家たちが『歌詞を読んでほしい』『ジャケットのアートワークも見てほしい』など、叫び続けていた。その想いが通じたのか、CDを買う人が増えてきた。

 あとは、レトロブームも後押しされたのかも。今は何でもタッチパネルで済ませる世の中。その中で、CDをデッキやパソコンに入れる、といった作業が珍しく感じたのかも。けれども作業が発生した方が『音楽を聴いている』って感じがして、私は好きだな。


 もう一つ、新しい音楽の聴き方が生まれた。特殊加工された紙で発売される曲だ。

 その特殊な紙を指でこすると、音楽家のメッセージが再生される。そして、専用の読み取りペンでスキャンすると曲が流れる仕組みだ。

 紙で発売されるので、ジャケットの質も注目されている。写真家やイラストレーターの活動の場にもなっている。勿論、歌詞も掲載されている。

 そしてその紙を、そのまま壁に飾る事も出来る。インテリアとして欲しがる人もいるので、家具屋にも置いてある。

 アルバムだと本の様になるので、本屋にも置いてある。


「それは凄いね、お洒落だなぁ」ロメリアは嬉しそうに云った。

 ロメリアが生きていた百年前は、データが主流だったけれども、カセットテープやレコードが復活したと云っていた。それならば、今、CDが復活した事も不思議じゃないなぁと思った。


「美由、話が盛り上がってきたけれど、出勤時間は大丈夫?」

 私は急いで支度を始めた。何なのこれ、妖精って、こういうのを助けてくれるんじゃないの? 心の中で叫んでいた。


            


 

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