第32話 この想い、一矢に乗せて

 皆が、ウチらのために命がけでライアースに立ち向かってくれとる。ウチはそれに応えんとあかん!

 ウチは手に持ったステッキを掲げて叫ぶ。


「姿を変えろ、ほむらの弓!」


 ステッキはウチの呼びかけに応えて光り輝く。その光が収まると、燃え上がる茜色に染まった長弓が姿を現した。

 ウチの武器はいくつもの姿に形を変えることができる。けど、これだけは使ったことがない。放つまでの準備に時間がかかりすぎてまともに使えないからや。でも、今は仲間がいる! これならきっとライアースを一泡吹かせられるはずや!


 ウチは自分の全ての魔力で作った炎の矢をほむらの弓をつがえて弓を引こうとする。でも張り詰めた弓のつるは硬すぎてウチには引けんかった。


「く!」


「茜ちゃん」


 その時、ウチの体に重なるように宮子がくっつき、宮子も一緒に弓の弦に触れた。ウチ達はお互い頷くと、もう一度ぐっと力を込めた。

 固くて指がはち切れそうや。それでも、宮子のおかげでほむらの弓がゆっくりと少しずつ引かれていく。そしてついに、ほむらの弓を完全に引くことができた!


「……なあ宮子、ありがとな。ウチ、ここに戻ってこなかったらきっと一生後悔してたと思う」


「どういたしまして。さあ、茜ちゃん! いくよ!」


「ああ!」


 ほむらの弓をライアースに向ける。すると射線に道のように真っ赤な魔法陣が描かれた。ほむらの弓から放たれた矢は、この魔方陣を通って加速していくんや。

 射線の先では皆が一生懸命戦ってくれとる。誰にも当てないよう、ライアースだけに狙いをつける。はやる心を抑え、じっとタイミングを待つ。


「………………ここや! 放て、屠龍とりゅう!」


 皆の攻撃でライアースが体勢を崩した一瞬のタイミング。それを狙ってウチは弓の弦を放した。宮子もウチの声と同時に手を離す。

 ほむらの弓から放たれた矢は魔法陣を貫きながら飛んでいく。一つ魔法陣を貫くたびに速度は増し、炎の龍となってライアースに迫る。


 全身全霊を込めたウチの全力攻撃。これが最後の切り札や!



 時間を稼がれている。それは明白だった。だが、あえて俺はその誘いに乗る。矮小わいしょうな者達があがいた際に一体何をするつもりなのか。俺はその答えに興味を覚えていた。


 そんな事を考えていたその時、黒曜のひづめが空を切って俺に迫る。俺は右手でそれを受け止めると、ひづめの主を見据えた。


「ジョージ、お前では俺の相手にはならん」


「は! そんなことは分かってるんだよ。だがな、ここで今やらなけりゃ男がすたるってもんだ!」


「くだらん矜持きょうじだ」


「ぐぅ!」


 ジョージの腹に俺の左腕が食い込む。左腕の竜はジョージの腹に食らいつくが、引き締められた筋肉は固く、その肉を食いちぎることはできなかった。代わりに衝撃で吹き飛ばし、地面に叩きつける。まず一人。

 その時、上空から猛烈な炎が降ってきた。俺は右腕の竜から炎のブレスを吐き出し、炎とぶつけ合わせて相殺する。


「ふむ。俺も竜の腕を持つが、本物の竜というのは初めて見たぞ。だが、その程度では力不足だな」


「ぬかせ、今のは不意打ちだったので加減をしたまでだ! ドラゴン族の誇りにかけて貴様はここで倒す!」


「グルタ君やっちゃえス!」


 ウサギを乗り手にした奇妙なドラゴンライダーは口先に魔法陣を展開し、もう一度俺に向かってブレスを吐き出した。この威力、先程のよりさらに上がっている。小さくともドラゴンということか。

 俺は両腕を前に出し、炎と氷のブレスを同時に吐き出した。お互いのブレスは正面からぶつかり合い、完全に消滅する。あれを相殺するとは、なかなかやるものだ。


 その時、俺は背後から強い魔力の波動を感じ取って振り向いた。そこには新しい魔法少女達が力を合わせて魔法を行使しようとしていた。


『マジカル……ツインシュート!』


 二人が放った魔法は完璧なタイミングだった。先程のドラゴンとのやりとりで体勢の崩れていた俺は、その魔法を避けることも防ぐこともできなかった。しかしこの程度であれば耐えるのは造作もない。俺は両腕を盾にして二人の魔法をしのぎ切る。

 狙い通り、それほどのダメージはない。奴らに反撃しようと腕を下ろそうとしたその時、俺の背筋に怖気が走った。何かが俺に向かって迫ってくる!


「そうか、こいつが本命か!」


 見れば、凄まじい勢いで炎の龍が俺に向かって迫ってきていた。もうこの状況では避けきれまい。そう判断した俺は即座に両腕を巻いて必殺技の構えに入る。


「喰らえ、裂波氷炎撃!!!」


 炎と氷の入り混じったブレスが炎の龍にぶつかる。



 タイミングは完璧やったはず。それでもライアースは反応して技で相殺してきよった。


「そんな、防がれた!」


「――まだや! 宮子、魔力をウチに!」


 そう言ってウチは宮子の右手をギュッと握る。宮子の熱が、そして魔力がウチに流れ込んでくるのが分かる。


「うん! 頑張って、茜ちゃん!」


 宮子から受け取った魔力を余すとこなく屠龍とりゅうに注ぎ込む。屠龍とりゅうの勢いはさらに増し、ライアースを喰らい尽くさんと雄叫びを上げた。

 届け! ウチと宮子の想いを乗せたこの一矢!



「ぬううううぅぅぅぅ!」


 何という凄まじい威力! そうだ、俺はこれが見たかったのだ。だが、負ける訳にはいかぬ。このライアースは絶対に負けぬ! ディクテーターの上に立つ者として、俺は必ず勝利する!



『い……っっっけええええぇぇぇぇ!!!』


「うおおおおおぉぉぉぉおおぉぉぉ!!!」



 その時ついにせめぎ合いの均衡は崩れた。炎の龍は氷炎のブレスを食い破り、そしてそのままライアースをその口の中に飲み込んだ。ライアースを飲み込んだ龍は空に昇り弾けて消える。飲まれたライアースは重力に引かれて地面へと落下し、ずしゃりと鈍い音を立てて叩きつけられた。その瞬間に勝敗は決した。魔法少女達はついにライアースに勝利したのだ。

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