第31話 ついに揃った魔法少女たち

「ふん!」


 ライアースが両腕を振ってしならせた。すると両腕はまるで意思を持っているかのように動き、僕達を翻弄する。二匹の竜の首が連携して僕達の死角から的確に攻撃を放ってくる。この動きは本当に厄介だ……!


 ライアースの右腕の竜から炎のブレスが吐き出される。僕はそれを相殺するために魔法を行使した。


「マジカルムーンブラスター!」


 ステッキから放たれた白銀の光線が炎のブレスとぶつかり合う。向こうの威力が高すぎて、ギリギリ相殺まで持っていくのが精一杯だ……。

 全力でステッキに魔力を込めて相殺状態を維持していると、僕の首筋にひやりと嫌な冷気が触れた。


「やば……!」


 もう片方の竜が冷気のブレスで僕に狙いをつけていたのだ。しかし、炎のブレスで手一杯の僕じゃこの冷気のブレスには対応できない。僕は、冷気のブレスが僕に目掛けて吐き出されるのを見ているしかなかった。

 これはやられる、と覚悟したその時、


「マジカルスターシールド!」


 間一髪、僕と冷気のブレスに割り込んだ師匠がシールドを張ってくれた。師匠のシールドに冷気のブレスがぶつかり、僕達は何とか敵の攻撃を耐え凌ぐ。


「うおおおおぉぉぉぉ!」


 しかし、それは甘い考えだった。僕と師匠、両方の手が塞がった状況にライアースが飛んできたのだ。ライアースは僕達に向かって強烈な回し蹴りを繰り出す。僕達にそれを防ぐ手段はなく、僕と師匠は二人まとめてライアースの足に薙ぎ倒され、凄まじいスピードで地面を滑空する。そして僕達は後方にあった硬い壁に激突した。


「ぐ、は……!」


 まともに受け身が取れず、僕は激痛と共に息ができなくなる。地面に四つん這いになったまま、僕は何とか肺に空気を入れようと喘いでいた。そこに、師匠の手が僕の背中を優しく撫でる。


「おちついて、ゆっくりと息を吸うんだ」


 師匠の指示通りに僕はゆっくりと呼吸をし、何とか息をすることができた。そのまま何度か深呼吸して、ようやく僕は落ち着きを取り戻す。

 師匠が僕の腕を自分の肩に回して僕を立たせた。霞む視界には、ライアースが僕達をまるで見守るように立っていた。


「はあ、はあ。どうします、無茶苦茶強いんですけど……」


 しかも間違いなく相手は手を抜いている。戦っていれば否応なしにそれが分かるし、でなければさっきみたいな絶好の機会に追撃してこないはずがない。ようするに、僕達はもて遊ばれているのだ。


「そうだなあ、本気を出されたら多分大人のドラゴン並みの実力はあるだろうね」


「な、勝てるわけないじゃないですか! 黒の軍団を使うなりなんなりして本気出してくださいよ!?」


「嫌だよ。あんなもん出したら魔法少女の世界観が滅茶苦茶じゃないか」


「そんなのどうでもいいです!」


「何をごちゃごちゃと話している」


 不機嫌そうにライアースが吐き捨てる。どうやら今の僕達の会話が気に入らなかったらしい。突き刺さるような視線を僕達に向ける。


「お前達の実力は大体分かった。驚異、という訳ではないが、あの二人と組まれたら面倒な事には違いない」


 そう言いながらライアースは自分の両腕を螺旋状に絡ませる。


「ここで消えろ。裂波氷炎撃!」


 捻られた双頭の竜の頭からそれぞれ炎のブレスと氷のブレスが螺旋を描いて僕達に迫る。


「マジカルスターシールド!」


「マジカルムーンシールド!」


 僕達は防御魔法を唱えて相手の攻撃を受け止めた。でもその威力は凄まじく、シールドの端からバリバリと音を立ててシールドが崩れていく。


「師匠!」


「うむ、こいつは……どうするかなあ」


 師匠の表情から余裕が消えている。今きっと師匠の中では、このまま魔法少女としての自分を貫き通すか、アイデンティティを捨てて本気を出すかという凄まじくどうでもいい葛藤と戦っているんだろう。この期に及んでこの人は……!


 そうやって師匠が悩んでいる間にもシールドの限界は刻一刻と迫っている。

 もう破られる。そう覚悟して目を瞑ったその時、


「でええええええええい!!!」


 どこからか気合の入った叫び声が聞こえる。見れば、僕達と同じような魔法少女の格好をした茜がライアースに向かって特攻を仕掛けていた。茜は赤いロッドを振りかぶり、ライアースの頭上から振り下ろす。


「ち!」


 ライアースは裂波氷炎撃を止め、後ろに飛んで茜の攻撃を避けた。茜の攻撃は空を切って地面に叩きつけられ、そこから爆発のような地響きがして吹雪みたいな砂埃が舞い散った。僕は砂埃が目に入らないように右袖でガードする。

 砂埃が収まり恐る恐る腕を下げる僕の目の前に、赤い魔法少女の服を身にまとった茜が立っていた。隣には、青い魔法少女の服を来た宮子の姿。そして傍らにはジョージが浮いている。


「大丈夫かパチモン! 助けに来てやったで!」


「パチモンって言うな! もう……大丈夫なのか?」


「その話は後や! 今はアイツに集中せぇ!」


 それを言われて僕はライアースに視線を移した。ライアースは今まで以上の覇気をまとってこちらを見ていた。


「ガーネットにアクアマリンが揃ったか。ならば、こちらも少しは力を出さねばなるまい」


 その言葉を皮切りに、ライアースの魔力がさらに膨れ上がった。こいつ、どこまで強くなるんだ……!


 その時、茜が僕達に語りかける。


「頼む、しばらく時間を稼いでほしい。きっとウチらが何とかしたる!」


「茜ちゃん……そっか。皆さん、お願いします!」


 そう言って宮子も僕達に頭を下げた。きっと何か策があるんだろう。非力な僕と本気を出さない師匠ではあの状態のライアースに対して決定打がない。なら、ここは茜達に頼るしかない。


「分かった。その代わり君達の事、信じてるから」


「へへ、サンキュな」


「ふむ、ならばここは俺も一肌脱ぐとするか。ぬうううん!」


 そう言うと、突然ジョージの体が膨れ上がり始めた。あのちっちゃかった可愛らしい姿が、見る見る間に僕達の倍は大きく筋骨隆々に変貌する。

 どうやらそれは茜達も知らなかったようで二人は口を開けて唖然としていた。


「な、何やジョージ! お前そんな事ができたんか! っていうかキモッ!」


「マスコットだ何だと言ってられない状況なんでな。ここは本気を出させてもらう。ふふふ、久しぶりでひづめうずくぜ……」


 そう言いながらジョージが両手のひづめを合わせてカチカチと鳴らす。


「ふむ、そういうのもありなのか。ならばこちらも。グルタ! ノイ!」


 師匠がグルタ達の声を呼ぶと、遠巻きに見ていたグルタ達が僕達の元に飛んでくる。そして師匠がグルタ達にかけた魔法を解いてやると、二人とも元の大きさに戻る。


「最後の大仕事だ。一緒にやろうじゃないか」


「うむ、ちょうどマスコットというのにも飽き飽きしていたところだ。全力で暴れさせてもらおう!」


「やってやるス!」


 小さなドラゴンライダーが頼もしく答える。

 師匠は満足したように周りを見渡すと、ときの声を上げる。


「さあ皆、行くぞ!」


『おう!』


 僕達はライアースに向かって突撃する。茜達に少しでも時間を作ってあげるために。

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