第30話 素直になれなくて
「……これはこれは。ディクテーターのライアースが直々にお出迎えとはな。随分と剣呑じゃないか」
ジョージが空を見上げて話しかける。軽快な話口だけどその表情は真剣だ。どうやらあれらはこっちの味方というわけじゃなさそうだ。
ライアースと呼ばれた
「それはそうだろう。新たな魔法少女が現れたとなれば、こちらもそれなりの歓迎をせねばなるまいよ。なあ、ジョージ」
「ああどうも。そいつはありがたくて涙が出るぜ」
そう話しながらジョージは僕達に手に向かって手招きした。僕達に近くに来いという様子だったので僕達はジョージに近づいた。
小声でジョージが僕達に語りかける。
「まずいことになった。あいつは俺達の敵組織、ディクテーターの最高幹部だ。どうやらここでおっぱじめるつもりらしい」
「強いんですか?」
僕が尋ねると、ジョージは喉の奥で唸った。
「茜と宮子が全力で戦って
「ふむ、ではこうしよう。お前さん達は茜君を迎えに行く。それまでの間はワシ達が奴らの相手をしよう」
「ば、馬鹿! 話を聞いてなかったのか! あいつはそんな生ぬるい相手じゃ……」
「なに、勝てなくてもお前さん達が帰ってくるまで保たせるならやりようはあるさ。それに、他に手はあるまい?」
「……分かった。戻ってくるまで絶対に死ぬんじゃねえぞ。行くぞ、宮子!」
「う、うん。二人とも、頑張って!」
踵を返して、ジョージと宮子が広場の出口に向かって走る。
「逃がすか!」
ライアースがジョージ達を追おうとする。そこにすかさず僕達が間に入り、進路を妨害した。
ライアースは止まると、僕達を見透かすように見つめる。
「貴様らが新しい魔法少女か。残ってあいつらを逃がすとは良い度胸だが、それは勇気ではなく無謀というものだぞ?」
身を切り裂くような視線が僕達を襲う。たったそれだけで僕の全身が痺れる。ジョージの言う通り、こいつはかなりヤバい……。
その時、師匠が僕のローブを掴み、力いっぱい引っ張って剥いだ。僕は慌てて両手で格好を隠そうとする。
「な、何するんですか!」
「これから戦いが始まるというのにそんなものを着ていてどうする。さて、とっておきの前口上と決めポーズ、ちゃんと頭の中に入っているね?」
うっ、さっき僕に知識を与えた時に一緒に入ってきたあの恥ずかしい台詞か。あんなの絶対にやりたくないけど、師匠の言いつけは絶対だし……。
「貴様ら、何をごちゃごちゃと……」
「あーもう! 分かりました! 分かりましたよ! やればいいんでしょう!」
「そうそう、それでいい。いくぞ!」
「星の輝きは正義の光! 人々を脅かす悪は許さない!」
「月の光は優しき光! 悪から全てを包み人々を守る!」
『マジカルムーンとマジカルスター! 星に代わって悪を討つよ!』
やった。やってしまった……。恥ずかしい台詞を叫んだ後にさらに恥ずかしいこの決めポーズ。全身から火が吹き出しそうだ。これで周りに人がいたら、僕は恥ずかしさのあまりここで悶え死んでしまうかもしれない……。
僕達の口上を聞いていたライアースは目を瞑ってその場で佇んでいたけど、突然くわっと両目を開き、それと同時に凄まじい魔力の圧が僕達に向かって襲いかかった。あまりの凄さに僕は思わず仰け反りそうになった。底が全然見えない。本当に強いぞ、こいつ……。
「……いいだろう。お前達の力、確かめさせてもらう。行くぞ!」
ライアースが両腕を振るう。するとその両腕が長々と伸びてドラゴンのような頭へと変化し、僕達に牙を向ける。
茶番はこれで終わり。これからが本当の戦いだ!
◇
「ジョージと宮子のアホ……」
ウチはあの場から飛び出した後、三ケ沢公園の展望台に来ていた。ここはウチのお気に入りの場所で、ウチの町が一望できる。暇な時やなにか嫌なことがあった時はいつもここで町を見下ろすのが好きやった。
あの場であったことを思い出して目に涙が滲む。ウチはそれを乱暴に袖で拭いた。
ウチかて分かっとる。別にパチモン達は何にも悪くない。人を守りたいという志しはウチ達ときっと変わらん。
せやかて、それなら前からこの町を守ってたウチ達の立場はどないなるん? ウチ達がこの町をずっと守ってきたんや! それをぽっと出のパチモン達が首突っ込んできて、ハイそうですかって仲良くできる訳ないやん!
「なんでそれが二人には分からんのや。ほんまにええんか、それで……」
「茜ちゃん!」
その時、ウチの背後から宮子の声がした。振り返ると息を切らせた宮子とジョージがいた。
ウチを追ってきてくれたことは嬉しかった。でも、胸に残ったわだかまりから素直にはなれへん。
「何しに来たん? あのパチモンは放っといてええんか?」
「大変なの、茜ちゃん! あの後ライアースが現れて、あの二人が残って戦ってるの!」
それを聞いてウチは恐ろしくなった。ウチと宮子かて本気のライアース相手には手も足も出ん。それをあのパチモン達は宮子達を逃がすために戦っとるんか?
「は、それがどないしたん? あのパチモンがライアースに負けたらそこまでや。またウチらが今まで通りこの町を守ったらええ」
違う、そんなんが言いたいんやない! でも勝手に口が滑るんや!
その時、宮子がまっすぐウチの目を見つめたままつかつかと距離を詰めてきた。いつもの態度とは違う宮子にウチは怯んで一歩
宮子の顔が息が届くぐらいウチの目の前に近づく。その時、ウチの両頬に激痛が走った。宮子が両手でウチの両頬を叩いたんや。
「宮子……」
「私ね、知ってるよ。今の茜ちゃんの気持ち。本当は今すぐにでも駆け出して助けに行きたいんでしょ? 顔に全部書いてある」
「う、嘘や嘘や嘘や! ウチはパチモンのことなんてこれっぽっちも気にしてへん! パチモンがライアースにやられたって、ウチは何とも思わへん!」
「嘘」
「嘘やあらへん! せやかて……!」
「嘘よ! 茜ちゃん言ったじゃない! この町全部ウチ達が守ったるって! ならあの人達も同じだよ! ここにいる以上、私達の仲間だよ!」
「なか、ま……?」
――そうや、ウチは一体何を守りたかったんや? この町? ……いや、違う。ウチは苦しんでる人を助けたかったんや。それが今はなんや、変な意地張って救える人を見殺しにしようとしとる。そんな事、ウチは絶対にしたくないことだったはずや!
「……ごめん、宮子。ウチが間違っとった」
「茜ちゃん!」
「あーーーーーーーー!!!」
ウチは自分の両頬を思いっきり三回ピシャっと叩く。ようやく目が覚めた。もうあいつらがナニモンかなんてどうでもええ! 絶対にウチらが助けたる!
「行くで! 宮子、ジョージ!」
「うん!」
「ったく、へそ曲げたり素直になったりと忙しいやつだ」
「うっさいアホ!」
ウチ達は手を取って走り出す。ウチ達の仲間が必死に戦っとるあの広場へ!
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