第14話 白い亜人達の島
僕達はついに島に接岸した。空船は真っ白な砂浜にズズンと乗り上げて動きを止める。すぐに中から師匠とイヴさんが出てきた。
砂浜のすぐ目の前には、あの白い木の森が広がっている。僕はそこから無数の視線のようなものを感じ取っていた。砂の目にも、僅かながらあちこちに魔力の反応が見られる。
「皆さん、気をつけてください」
「ええ、分かってる。でも絶対にこっちから手を出しちゃ駄目よ。私達は分かり合うために来たんだから」
そう言うとチヅさんは空船から飛び降りた。続いてアルさん達も物怖じせず、同じように空船から降りていく。
僕はちょっと困って師匠を見た。
「師匠、どうしましょう?」
「感じる限りでは敵意はなさそうだ。まずは彼らに任せてみようか」
そう言うと、師匠も空船からふわりと飛んで降りる。僕も覚悟を決め、師匠に続いて空船から降りた。
僕達は砂浜と森の境界線に立っていた。向こうから何か接触してくるのではないかと思ったけど、相変わらず視線だけしか感じない。でも敵意みたいなピリピリとしたものはない。
このままでは
「お願い、姿を現して! 私達はあなた達の敵じゃない!」
チヅさんの声に、最初は無反応だった。しかし、しばらくすると森の中から一匹の何かがおずおずと姿を現した。
それは不思議な亜人だった。真っ白な毛皮に真っ赤な目。頭から伸びた二本の耳のような器官は片方だけ折れ曲がっている。それが僕達と同じぐらいの背丈で、二足で地面に立っている。僕達の世界にも亜人はいるけど、こんなのは見た事も聞いた事もない。
白い亜人が口を開く。
「どなたかこちらの言葉を話せる者はいないスか? ワタシ達、アナタ達の事を知りたいス」
良かった、翻訳の魔法で白い亜人の言葉が分かる! それにどうやら向こうはこちらに友好的みたいだ。これなら事は荒立たなさそうだ。
しかし、矢面に立っているチヅさんが顔一面に困ったという文字が張り付いているかのような表情でこちらを振り向いた。
「……どうしよう、何か話しかけてきたけど全然言葉が分からない……」
……忘れてた。そういえばチヅさん達は翻訳の魔法をかけていないんだった。僕と師匠は常にかけてある状態を維持していて、チヅさん達とも普通に会話をしていたから完全に失念していた……。
僕と師匠は慌てて皆に翻訳の魔法をかけて回る。
「チヅさん。これで彼らと話せますから、もう一度お願いします」
「わ、分かったわ……」
チヅさんは仕切り直しという感じで大きく深呼吸する。そして白い亜人に向かって話しかけた。
「私達はあなた達の敵じゃない。だから安心して!」
チヅさんの声を聞いた白い亜人が目を輝かせたように見えた。
すると、森の中から同じような亜人が次から次へと現れた。それぞれに個性があって、茶色や黒等の毛並みや、斑点模様や両耳がピンっと立った者まで多種多様だった。
最初の白い亜人が前に出て話し始める。
「良かった! やっぱり銀星の勇者達ス! オイラはノイ。ようこそテンペランドへス!」
「銀星の……勇者?」
アルさんが首を傾げる。どうやらチヅさん達はその言葉に聞き覚えはないみたいだ。当然、僕も分からないし、師匠に顔を向けてもふるふると横に顔を振った。
「予言の勇者達じゃないス?」
「でも銀星が降ってから現れたスけど……」
しまった……。僕達の困惑がノイ達に伝わってしまったみたいだ。亜人達がにわかにざわめき始める。このままじゃ彼らに警戒されてしまう……。
けどその時、ジェフさんが前に出て高らかに宣言した。
「ああそうだ! 俺達が銀星の勇者さ!」
「ば、馬鹿! あんた何を……!」
チヅさんが慌ててジェフさんに詰め寄るが、当のジェフさんは全員に手招きをしている。どうやら作戦会議ということらしい。僕達もジェフさん達の輪の中に入る。
「どうすんのよ! 大体、銀星の勇者って何なのよ!」
「今否定してあいつらを警戒させてもしょうがねえだろ。ここは一旦話に乗っといて、色々とじっくり聞き出せばいいんじゃねえか?」
ジェフさんの提案に全員が黙った。確かにその方が状況的に良いのかもしれない。彼らを騙してしまうみたいでちょっと気は引けてしまうけど……。
「確かにジェフの言う通りかもしれん。俺はジェフに一票だ」
「うーん、チヅには悪いけど僕も」
「私もあの子達と仲良くなりたい!」
アルさん、イヴさん、スーさんが手を上げた。そこに僕と師匠の手も加わる。
残るチヅさんは額に深くシワを寄せた難しい顔をして腕を組んでしばらく悩んでたけど、ついに覚悟を決めたように顔を上げた。
「ああもう! 分かったわよ! どうなっても知らないからね!」
そう言うとチヅさんはノイの方に向き直り、さっきのジェフさんみたいに高らかに宣言する。
「そうよ、私達こそ銀星の勇者! 私達はあなた達を救いにやってきたの!」
それを聞いて亜人達のざわめきはピタリと止んだ。僕達に緊張が走る。もしかして嘘がバレてしまったのかもしれない。
しかしそれはすぐに杞憂に終わった。亜人達が歓喜の大騒ぎを起こしたからだ。
「やった! やっぱり銀星の勇者達だス!」
「これで星
どうやら彼らは完全に僕達の事を信用してくれたらしい。ただ、何やら星
亜人達はひとしきり騒ぐと、次々に僕達の左右に並んで道を作り始めた。そしてノイがチヅさんの手を引く。
「さあ勇者達! 紹介したい人がいるス! こっちへ来てほしいス!」
「ちょ、ちょっと……」
チヅさんがノイに連れて行かれてしまうので、僕達も慌ててチヅさんの後を追った。
僕達は白い木の森の中を抜けていく。木と言っても僕達が知っている木とは程遠い。白く透き通っていて、光が木の中で乱反射を起こして森全体がキラキラと輝いていた。枝の先には果物らしいものも見える。あれが彼らの主食だろうか。
しばらく歩くと、突然視界が開けた。そこには黒い巨大な石碑と、みるからにヨボヨボな黒い毛皮で両耳が垂れた亜人が立っていた。ノイがその亜人に駆け寄っていく。
「ルーア婆! 銀星の勇者達をお連れしたス!」
「おお、待っとったス。勇者達、近くへ来てくだされス」
ルーア婆と呼ばれた亜人はそう言って、手に持っていた杖の先を地面に二回叩いた。僕達はルーア婆に近づき、チヅさんがルーア婆に向かって挨拶する。
「初めまして。あなたが彼らの長かしら?」
「いやいや、儂はただの老いぼれス。さて、銀星の勇者達よ。実はお主達は困っているス? なぜ儂達から銀星の勇者と呼ばれておるのか分からずにス」
ルーア婆から思いもよらない言葉が出てきて僕は驚いてしまった。それは皆も同じで、一様にびっくりした表情をしている。ルーア婆はまさか全部お見通しということなんだろうか?
その時、スーさんが大声を上げた。
「すごーい! お婆ちゃん、なんで分かっちゃったの⁉」
「ちょ、ちょっとスー!」
慌ててチヅさんが止めに入るけどもう遅い。けど、ルーア婆はそれを聞いてもニコニコとした表情をしてこちらを見ていた。
「隠さなくてもいいス。銀星の勇者というのは儂達が勝手に呼んでいる事。アナタ達が知らなくても当然ス」
それを聞いて僕達は胸を撫で下ろした。どうやらこれ以上隠す必要はないみたいだ。良心の呵責から開放されて幾分か気が楽になる。
するとイヴさんが口を開いた。
「ルーアお婆さん。僕達、本当に何も知らないんだ。だから教えてくれないかな。僕達がなぜ銀星の勇者と呼ばれているのか」
「そして星
アルさんの補足にイヴさんは頷いた。
そう、一番の問題は多分その星
ルーア婆はゆっくりと頷くと後ろを向き、石碑に向かって杖を振った。杖は石碑に当たり、カンッと乾いた音を響かせる。
「では語らせていただくス。このテンペランドに伝わる予言をス」
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