第3話 今後の身の振り方についての会議 in脳内

 午後一時。居間へと移動した大座葉おおざはは、網戸の側に置かれたソファーの上であぐらをかいて座り、テレビを眺めていた。網戸から射し込んだ五月の柔らかな日差しが、大座葉の白く瑞々しい左頰を照らしている。

 居間といっても家具は多くなく、大型の薄型テレビが一台ある以外は、木製の白い座卓を挟んで二人がけの赤いソファーが二脚あるだけだ。

「……暇だな」

 原因不明の男の娘化という、未知の衝撃からなんとか気力を持ち直した大座葉は、そのあとすぐに学校への連絡を終えていた。身体も大座葉成人おおざはなひとであった頃の声質に近付けようと必死に低い声を出していたら、電話口の受付職員に若干不審がられたが。

 そして、現在。

 学校への連絡というタスクを一つ消化した大座葉は、それ以外のタスクが思い付かないということに気付き、暇を持て余していた。

 なにしろ、女体化……もとい、男の娘化だ。非常事態メーターが振り切れるようなぶっ飛んだ出来事であるだけに、気力を持ち直したといえども、暇潰しすらも身が入らなかった。

「……はあ。じゃあ、まあ、とりあえず、この姿をどう家族に説明するか……でも考えておくか」

 むに、と。あぐらの上についた頬杖の中に柔らかな頰を沈めて、大座葉は目を閉じた。そのままうんうんと唸りながら思考すること約五分。

「……うん。いや、どう説明しても無理だろコレ」

 結論は、思考の放棄だった。

「あー……。せめて俺だと一発で証明できるものがあれば手っ取り早くて楽なんだけどなあ。……ま、直接話せばなんとかなる、か?」

 深く考えることが苦手な大座葉であったが、ポジティブシンキングは得意なのだった。

 思考だけではなく、身体もソファーに投げ出すと、全身がすっぽりと収まってしまった。

 前なら身体の半分くらいしか入らなかったのに。と、改めて自分の身体の小柄さを実感しつつ、自らの身体が沈む僅かな軋みを聞きながら、ぼんやりと天井を眺めていた時だった。

 ──がちゃり、と。玄関の鍵が開く音がしたのは。

「……!」

 反射的に飛び起きた大座葉であったが、予想外の展開に動揺して、頭が真っ白になるのを感じていた。

「だ、誰だ。こんな時間に帰ってくるなんて……」


 大座葉が知る限り、この時間に帰ってくる家族は誰もいない。

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丁寧の分離別人化現象 クロタ @kurotaline

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