友達になってよ




 少年は淡々と話した。

 人を識別できない病気であること。そのせいで母親から虐待を受けていたこと。自分を殺そうとした母親は、家に火をつけていなくなってしまったこと。

 あまりにも淡々と語られるため、メリーは戸惑ってしまった。まるで、誰か別の人の話をしているような口ぶり。


「あ、そうだ。ここがなんでE病棟って呼ばれてるか知ってる?」


 問い掛けにメリーは首を振った。答えを予想していたのか、だろうねと言いながら少年は立ち上がった。

 メリーを抱き上げ、そっとベッドへと降ろした後そこへ少年も腰掛ける。


「エンドのE。ボク達みたいに医者が手に負えなくなった人間が最終的に行き着く場所さ」


 話終えると、またメリーを見つめる。


「今度はそっちの番。その傷の感じ、最近だよね」

「……遊園地に、行ったの。そこで、メリーゴーラウンドに、乗って」


 そこまで言ったところで少年がああ、と声をあげる。そして、言葉を続けようとするのを「もういいよ」と制した。

 不思議そうに首を傾げるメリー。


「その事故なら知ってる。新聞で読んだから。それなら、パニックか何か?」


 メリーは首を振る。何も言われていないので、自分でも何故ここに連れてこられたのかわからないのだ。

 だが、心当たりは、あった。


「……赤色」

「赤色?」

「うん。赤色のボードを見てからの記憶がない、の。気付いたら女の人に叩かれてて……その人に、あなたは病気だから、ふさわしい場所でなおしてもらうのよって言われて……」


 少年の顔が曇った。しばらく黙り込んでしまった彼に、メリーは不安そうに視線を泳がせる。

 そんな彼女をちらりと見て、そっと頬を撫でた。


「叩かれたのは、1回だけ?」

「え、ええ……そうよ……」

「うん、そうか。痛かったろうね」


 頬を撫でられ、優しい言葉をかけられ戸惑う。

 この少年の考えてることは、よくわからない。


「君は赤色が怖いんだね。……ねぇ、ボクの目は平気?」


 赤みがかっている右目を示し、少年が問う。じっと見つめた後頷くメリーを確認すると、少年は微笑んで「ならいいや」とベッドを立った。


「どうしてそんなこと……」

「君を怖がらせたくないからさ。聞いておかないと。……ああ、それと」


 メリーの前で膝をついた少年は目を細め、手を差し出した。

 

「ボクと友達になってよ、メリー」





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