第2話 44日目にて
44日目、っと。
俺は普段、学校に来てはこのように生徒手帳に日数を記す。
なぜこんな事をしているのかと言うと、話しかけられる日を俺流の祝日にしたいからだ。
こんな理由で日数を記しているのは非常に死にたくなるくらい悲しい事ではあるが、案外日が増えて行く度に「今日も書いてくれてありがとう!」 的な感じでログインボーナス感覚に浸ることができるのだ。まぁ、ログインする度に何か失っているような気もするが‥。
しかし、手帳を振り返ってみると中々話しかけられないものなんだなと思った。なにせ、新学期からこれを始めて、今の五月中旬まで記録は更新され続けているのだから。
ほんと俺の身に何があったの‥。
とりあえず、悲しくなったので、カバンのポッケから無糖紅茶を取り出し、飲む干すことにした。
喉を潤している間、なにかふと目線を感じた。ゴルゴぐらいなら誰が目線を当てているのか特定できるが、生憎俺は一般人なので誰が視線を当てているのかはわからない。
まぁ、全く気にする必要はねぇんだけど、やっぱり気になる。
とりあえず、壁に置かれた時計を見ると授業時間までは後10分程間があるので、逃げる策として売店で飲み物を買いに行くことにした。
ここで一つ俺は失態を犯した。それに気づいたのは一階に降りきった時だった。そう、机に生徒手帳を見開きにして置いたまま教室を出てしまったのだ。
まぁ、別に愚痴とか書いてるわけではないから、見られてもあれだけど、書いてる意味が解読されたらなんか恥ずかしい。てか、見る奴はいないとは思うけど。
一旦取りに戻るべきかとも思ったが、わざわざここまで来て、取りに戻るのも面倒だったので、そのまま買いに行くことにした。
教室に戻ったのは授業開始の2分前だった。教室内は相変わらず騒がしく、いつもと変わらない光景だった。
それは、一つ除いて。
なんと、俺の机の上には手帳が乗っていなかったのだ。
えっ、まじかよ‥。誰だよ取ったの、何売るつもりなの? いつの間に俺のファンクラブできてたんだよ‥。
念のために机の中やカバンの中を探ってみたが、やっぱりなかった。そうだよな、机に置いていたのは俺もはっきりと覚えているんだから。
ぼ、僕の生徒手帳ちりませんか? とか言って、聞き回ろうかとも思ったが、それは嫌だったので、諦めることにした。まぁ、あれだ。引きも時には大事だって言うし。それに生徒手帳は普段つかうことはないしな。
そんなこんなで探すのを諦めると同時に担当教師の雲場先生が入って来た。
「ほら、君たち席につけ」
その一言で教室は80%ほど静まり返り、それを確認した先生は黒板に何かを書き始めた。
今日の1時間目は確か、総合か。あれ、そういや、この時期と言えば‥。
自分のスマホに入れてあるカレンダーを確認しようとしたが、そんなことをする必要はなく、しっかりと黒板にはこう書かれていた。
『校外学習の行き先と班決め』
ま、まずい。何がまずいって、何もかもがまずい。
一年の時なら余り組でもなんやかんや楽しくやれる自信はあったが、進級してからは何故か俺は余り組にもなれていない。てか、余り組にすらなれないとか、ほんと俺カテゴリー人間に属性してるのかよ、植物扱いされてない?
だが、ありがたい事にこの時間では行き先の協議のみで終わることになったので、班決めは来週に行われることになった。いやー、ほんと助かった。来週まで生き延びれるわ。てか、来週死ぬのかよ。
結果、行先は片野山に決まったらしく、休み時間はその話題で満ちていた。
片野山か、懐かしいな。たしか、小学生の時に林間学習で行ったんだよな。まぁ、あそこは川もあるし、虫も取れるし、登山コースも結構ある。このクラスが何目的でそこに行くのかは知らんが、楽しめることだろうよ。俺と一部を除いてな。
しかし、班決めどうするかな。
あたりは片野山の話題に兼ねて班決めもしていていたので、俺も何か策をしなければと考えることにした。
まず、一つめ。土下座で懇願。
これは却下だな。なによりこれ人間としてどうなんだ...。
二つめ、担当教諭にくじ引きを提案する。
これも、多分ダメだな。なにせ、あの教師絶対俺の名前出して「白世君が、くじ引きを提案しているそうですが、どうでしょう?」っていうもん。さすがに二年連続同じ教師ならもう特徴はある程度わかる。一年の時はあれで痛い目にあったもんな...。
三つめ、行かない。
これは俺的には大いに賛同だが。この学校、よほどことがない限り休むことはできない。まず、体調面に関しては絶対診断書いるし、学校に行きたくないから... なんて理由で休めば次の日にはクラス会議で○○君のための対策の会なんてやるだろう。まぁ、その理由はある程度しかたないようにも感じる。なにせ、何年か前にこの学校で自殺した人がいるらしいしな。ニュースで見た程度だからあんまり覚えてはいなけど、当時は結構大きな問題になっていたらしい。
そうして、今ではそんなことを繰り返さないようということで結構いじめとかそういった類のものが厳しくみられることになったらしい。
それで、俺はどうなの...? まぁ、これはいじめではないよな。ないよな?
ということで、三つめもなしか。
しかし、これ以上策なくね、もうチェックメイト。負けました。
よって、結果は... 妥協に決定しました! やったね、いつも通りだよ。
まぁ、これ以上はどうしようもできないしな。俺一人が地球温暖化対策してるのと同じだ。
と言うことで答えが出たので、いつものように開いた窓から渡り廊下を眺めていることにした。
移動教室する生徒、俺を見る女生徒、お手洗いに向かう生徒。うむ、いつもと変わらない光景だ。...ん? 俺を見る? 何かがおかしかった、わからんけど何かがおかしかった。どこかに間違いがあった。
が、実際間違いはなかったらしく、俺を見ている生徒がいた。髪はミディアムヘアーで、顔立ちはすげぇ綺麗だった。なんというか、黄金比というべきバランスというか、なんかよくわからんが完璧に美少女と呼べるだろうと思った。
が、俺はもうわかっている。これはあれだろ、俺の後ろにいる奴を見ているとかいうパターンだろ、この手の詐欺には実際かかったことはないが、俺には大体はわかる。
よって、このまま窓側を見ているのは彼女に対して誤解を招くことになるので本でも読むことにした。いや、窓閉めるという手もあるんだけどね、これやっちゃうとさらに孤立しそうだからさ、やめておくよ。
「あ、あの」
どこかで小さな声が聞こえる。と言っても、窓側も教室側もかなり騒がしいのでただの環境音だろう。
「あの、白世君」
間違いない。今俺の名前が呼ばれた。
つい早押しクイズばりの速さで反応してしまった。名前を呼ばれるってこんな素晴らしいことなのか。まぁ、ゴダイゴもそれをテーマに歌うぐらいだからな、そりゃ素晴らしんだろうよ。
俺はいったん本を置いて、あたりを見渡した。
多分、右耳から聞こえたはず。
俺はその声がした方向。つまり、渡り廊下側を見た。
そこにはさきほど誤解を生じさせていた彼女がいた。
とりあえず、目が合ったので、確認のため「俺っ?」というサインとして、自分の人差し指を胸にあてた。
俺がそうサインをすると彼女は満足そうに笑顔で頷いた。
えー、まじかよ、ほんとに俺なの? これ夢? 目覚めないでマジで...。
俺は普通に声に出そうとしたが、今この状況を見たところなんか秘話的な感覚があったので、俺もそれに乗じて耳打ち感覚で声を出した。
「えっと、なにかな?」
えっと、話し方これであってるかな? まぁ、多分女子との会話は大丈夫だろう、なにせ俺には姉と妹がいるからな。さらに言うと、俺の姉妹両方は中々性格が腐りきっているので一般の姉妹よりも難儀的な会話ができる。すなわち、どんな会話でも大丈夫ということだ。
「えっとね、これ白世君のだよね?」
彼女はそう言って、恥ずかしそうに生徒手帳を見せた。
間違いない、これは俺の手帳だ。なにせ、表面の右角に修正ペンの白インクが付いているからだ。
うん? 待て。突っ込みたいところは山ほどあるが、なぜこれが俺の手帳だとわかった? ていうか、なぜ、彼女が持っている? てか、中は見てないよな?
「えっと、そうだけど、なんで君が?」
俺がそういうと、彼女は焦ったように口を動かした。
「えっとね、違うの。朝のホームルームの前に白世君が立ち上がった後、ほかの子が白世君の机に当たったの。それで机に乗っていた手帳が落ちて。けど、白世君いつも生徒手帳に何か書いてたり、丁重に扱っていたから大事なのかなと思って、ほかの人に拾われたらだめだと思って私が拾ったの...。け、けど中身は見てないよ! ほんと、1日から44日まで書かれたページは見てないから! 一回も考察なんかしてないから!」
うん、なんかこう、俺を貶してるのか、それとも嘘をつくのが下手なのか、天然なのか。もう、これわからんな。
まぁ、なんにせよ、しゃべってる時のジェスチャーとか表情が可愛すぎたのでもう何でもいいや。どうせ、マイナスからマイナスに下がんないしな。それに久々に生徒話せた気がするし。
「あぁ、いや。色々とよくわかった。とりあえず、拾ってくれてありがとな」
俺は一度頭を下げた。
「あ、頭なんか下げないでよぉ。私が勝手に拾っちゃったんだし‥」
彼女はそう言ってオロオロし始めた。
なにこれ、天使? 死んだのか俺、さっき夢じゃね? とか言ってたけど実は死んでたんじゃねぇのか。
「いや、ほら君が拾ってくれてなかったら、ほらなんかこう、うまく言えないけどやばいことになってたかもしれないしな」
「そ、そうかなぁ」
次に彼女は笑顔になった。やばい、この変化が楽しすぎるっ!
「まぁ、と言うことだからさ、ほんとマジで感謝してるよ」
俺がそう言い終えると、彼女は「よかったー」と息をついて胸を下ろした。
「じゃあ、これ返すね」
彼女は手帳を差し伸べてくれので、俺も対応すべく受け取った。
ふむ、いい体験だった。ありがとよ、俺の生徒手帳。
もちろん返事をするわけがないが、なんとなく返答してくれているよな気がした。ほんと家帰ったら、お前にも名前つけてやるよ。そして、こいつを彼女にするんだぁ。
さてと、これで終わりかと思っていたが、まだ彼女はそこにいた。なに、まだ確変中なの?
「えっと、まだなにか?」
「あっ、いや、その何かあるわけじゃないんだけど、白世君ってもしかしてオカルト好き?」
オカルト好き? いつから俺がそんなキャラに見えたんだ。まぁ、クラスではオカルト的扱いを受けているがな。けど、当の本人は大して興味がないんだな、これが。
けど、中学の時はよくよくオカルトのことに関して調べてたりして怖くて眠れない夜とかあったなー。
まぁ、とりあえず今は興味がない、と言うよりは興味があるとか言ったら余計変人扱いされるだろ。なので答えはノーだ。
ということで、返答するために彼女の方を向いてから、口を動かそうとした。
が、どうも様子がおかしい。
なんと言うことか、彼女の目が、目がとても輝いてらっしゃる。俺はこの目をよく知っている。これは、よくよく妹が求めてくる同志の目ってやつだ。妹とは十何年も暮らしているのだ、もうそれぐらいわかる。
つまり、彼女はオカルト好きで俺もそうなのではないかと期待の眼差しかけていると言うことだ。
まじかよ、どうしよか、これノーって言ったら絶対にこれまでもないぐらいの絶望的な顔するだろ。
しかし、この俺、白世 影成には誰よりも貴きプライドがある。それは人によって変形させられず、染まらず、何より誇らしく強きものである。だから、そんなオカルトなんて、人から痛い眼差しを浴びるものなんて、一切好まない! よって答えは決まっている。
「もちろん」
この言葉だけで俺という人間の器量が知れる瞬間だった。
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