シャドウ・ハーフ

今村広樹

本編

「よう、ようやく起きたか?」

「ああ、寝覚めに聞きたくもない声が聞こえると言うことは、起きたってことだね」

「そんな、ツンケンしなくても、いいじゃねえか、俺とお前の仲だし」

「だからだよ、なんでよりによって、あんたと仲良くしなきゃいけないんだか」

「そりゃ、そうだ。でもまあ『一心同体』ってやつなんだから、仕方ないだろ?」

「だから、いやなんだよ」

「いやもいやも、すきの内ってね」

「それはない」

「まあ、それはともかく」

「あ、ごまかした」

「目を開けろ。まずはそれからだ」


 少女が、暴漢に追われている。

「いやあ!!」

「へへへ、待てよ」

 行き止まりに追い詰められて、怯えた表情を浮かべる少女に、暴漢は軍用アーミーナイフをなめながら近づいていく。

 と、その時、男の背後に黒い影がいきなりあらわれた。

 男が気づいた時には、彼は黒い影に取り込まれていた。

 そして、影は何事が起こったのか理解出来ない少女を残して、そのまま消えた。


 そのシャドウがいつ、どのように来たのかはわからない。それが発見されたのは、たまたま資源を採掘している時、偶然にである。持ち込まれた『』に作られた専用ラボでの研究の結果、それには他人に寄生する性質があるということがわかった。

 ところが……

 ウワァーンとラボにサイレンの音が響く。

「どうしたのかね?」

「博士、大変です!

例の研究材料が脱走したようです!」

「なんだって!

アレが外に出たら大変なことになるぞ!

捜すんだ!」

「了解!」

 という訳で、ラボの職員によって方々を捜すのだが、結局発見されなかった。何故ならば……。


 結局少女は、その出来事を誰にも話すことはなかった。言ったところで、信じてもらえないだろうから。

「ちょっと、話聞いてる?」

「ああ、うん、泣ける映画を彼氏と観に行って、映画も彼氏もつまんなくて、そのまま直帰したって話だっけ」

「……、あんだけぼけっとしてたのに、キチンと話聞いてるの、才能だと思うわ」

と、彼女と友人が話していると、いきなりプリントの束がはさりと降ってきた。

「ちょっと、なによ」

「ご、ごめんなさい」

と、少女はふとその謝る少年に既視感を覚える。

「あなた、どこかで会わなかったかしら?」

「さあ、どこかで会ったらのかも……」

と、少年は穏やかな、しかし笑みを浮かべながら言った。

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シャドウ・ハーフ 今村広樹 @yono

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