ある貴族の令嬢が伝説の剣引っこ抜いて魔王を倒すまでの日記

ポチ吉

ある貴族の令嬢が伝説の剣引っこ抜いて魔王を倒すまでの日記

 ○月×日

 男が書く日記と言う物を、女の私も書いてみようと思う。

 お隣の皇国には要約するとこんな一文で始まる日記があるらしい。

 何と言う女性差別。

 そげぶ。

 と、言う分けで私も日記を書いてみようと思う。

 因みに私の前世は日本人なので『そげぶ』の意味は分かって使っている事を追記する。


 ○月×日

 私が住まう王国にて魔王的なアレがアレしたらしい。

 勇者求ム! のアレがアレされた。

 アレだと思った。


 ○月×日

 昨日の続報。

 勇者の選別には伝説の剣が使われるらしい。

 抜けばアレらしい。

 アレだと思った。


 ○月×日

 お母様の今日の一言。

「貴女の頭が一番アレです」

 この日記が読まれたらしい。

 うぎぎー。

 コノウラミハラサデオクベキカ――。

 兄様の女性ヌードフォト集をタイトル別に区分けし、机の上に並べる事で精神の安定を図る。

 机とは――食卓の事である。(キリッ


 ○月×日

 兄様が旅に出た。

 泣きながら旅に出た。

 何か辛い事でもあったのだろうか?


 ○月×日

 姉さん、事件です。

 じゃがいも育ててないのに、何故か男爵的な地位に居る我が家の秘密が今、明らかにっ!

 我が家は勇者的なアレの家系だった!

 嘘だと言ってよバーニィ!

 勇者選別の儀式に参加する為に王都へ行く事になった。


 ○月×日

 偉大なり、偉大なり、蒸気の王。

 蒸気王が造った王都は今日もヒトでいっぱいだ。


 観光しよう。

 観光しよう。

 そういうことになった。


 所詮は弟の付き添いなので気楽なモノだ。


 ○月×日

 ふて寝。

 どうしてこうなった。


 ○月×日

 昨日の詳細を書いておく。


 へぇーアレが伝説の剣かー。

 おぅ、ガチムチが血管浮かべてハッスルしとる。

 浅黒い肌の、ガチムチが血管浮かべてハッスルしとる。

 汗でテカテカしだした、浅黒い肌のガチムチが血管浮かべてハッスルしとる。


 黒光りして、硬いモノが、血管を浮かべてハッスルしとる。


 セクハラやわぁー。

 そんなセクハラしても抜けないとは……シスコン気味な我が弟に抜けるのだろうか?

 お? 何か勇者っぽいの来た! 爽やかマン来た! 弟の次にチャレンジするのか……あ、ども。丁寧にども。

 菓子折り貰ったよ、やったねお母様!

 え? 何ですか? はぁ、私が弟に手渡すんですか?

 まぁ、良いですよ。実質弟と爽やかマンがこのイベントの目玉ですからね。それなり程度には美少女の私が手渡す。それ位の演出はしますよ。

 へぇーこれが伝説の剣かぁー。

 あ、ほんとだ硬い。これ硬っ――

 抜けた。

「「「「「……」」」」」

 と、部屋中のヒトビトが人類ポカン計画に陥る中、勇者が誕生した。

 そう――


 新たな勇者の誕生だッ!


 ○月×日

 少し落ち着いたので、魔王的なアレに対して真面目に情報収集してみる。

 魔王的なアレは定期的に復活する《竜》らしい。

 真竜とか呼ばれる区分の強力な《竜》らしい。

 条件型と言って、条件を満たした武器なら掠るだけで死ぬが、その他の武器では絶対に死なないらしい。

 そんなのチートや! チーターや!

 敬意を評してキリト三角形と呼ぼう。

 怒られそうだからやっぱやめる。


 ○月×日

 ここで問題が一つ。

 魔王的なアレは伝説の剣を掠らせるだけで死ぬが、その部下や、道中の脅威はそうは行かない。

 私は箸より重いモノはロードローラー位しか持ったことが無い深淵の令嬢だ。

 即ちピンチだ。

 どうしよう?

 と、思っていたら、お父様がコネで護衛を用意するらしい。

 しかも、お隣の皇国の伝説の武器持ちらしい。

 私のピンポイントでしか使えない奴とは違って、ちゃんとした伝説の武器らしい。

 ちゃんとした伝説の武器ってなんだ。私のがちゃんとしてないみたいに言うな。


 ○月×日

 護衛の一人が到着した。

 皇国歌劇団に所属するエルフの舞闘師だ。

 舞う様に《竜》を殺すらしい。

 当然イケメンだ。間違いなくイケメンだ。

 十年後なら。

 今はハンサムなお子様、お子サムだ。

 八歳ってー。


 ○月×日

 二人目が来た。

 眼が見えないにも関わらず、凄腕の剣士らしい。

 三角形の耳とゆらゆら揺れる尻尾が可愛らしい猫人種、マオの剣士だ。

 ……七歳ってー。


 ○月×日

 三人目と四人目が来た。

 最早期待していなかった私だが、そんな心配は無用だったゼ!

 私の初恋のヒト、藍色の鱗が眩しいカジキマグロ型の鱗種、ツクモおじさまだ!

 役立たずのお父様で無く、古い友人であるお爺様の願いでツクモおじさまが来てくれた!

 皇国最高戦力と呼んでも過言でないツクモおじさまが来てくれればもう怖いモノは無い!

 そう、もう何も怖くない。

 この戦いが終わったらあの子に告白して、願い事でケーキ出してお茶会して、パインサラダを食べよう!

 ツクモおじさまはお孫さんと、その友人を置いて帰って行った。

 二人とも七歳らしい。

 お孫さんが鬼種で槍使い、ご友人はエルフで弓使いらしい。

 ……。

 …………え?

 ねぇ待って。おじさま待って。


 ○月×日

 どういうことだってばよ!

 叫んでふて寝した私は悪くない。


 ○月×日

 ふて寝続行中。

 暇なので我がパーティのの特徴を記しておく。

 私……人間種 十七歳。装備は聖剣的なアレ。金髪碧眼の美少女。

 クオンくん……エルフ 八歳。装備は布。布? 将来イケメン間違い無しのお子サム。一番お兄さんなので張り切っている。

 コウヘイくん……マオ 七歳。装備は刀。良く寝てる。たまに起きてる。起きてる時は大体クオンくんの裾を掴んでいる。可愛い。

 ヤチくん……鬼種 七歳。装備は槍。おじさまの孫。あまりしゃべらない。目付きが悪い。大体テッカくんと一緒にいる。

 テッカくん……エルフ 七歳。装備は弓。ヤチくんの友人。自己紹介の時、ヤチくんにす巻きにされて「テッカを巻いて、テッカ巻きー」とやられてた。


 剣、布、刀、槍、弓と書くだけでバランス悪いのに、十七、八、七、七、七と書くと……おかわりいただけただろうか?


 ○月×日

 今日のお母様の一言

「あら、貴女のせいで平均年齢が……」

 ぜったいゆるさない。


 ○月×日

 落ち着いたので、お父様とお爺様の言い訳を聞く。

 何でも皇国の伝説の武器が世代交代期らしい。

 経験詰むのに調度良いから来たらしい。

 その証拠に全員ちゃんと伝説の武器は持っているらしい。

「そうなの?」

「「「「んっ!」」」」

 四人そろってソレを掲げる幼子、激ラブリー。

「使えるの?」

 と訊いた所、素敵な回答が返って来た。

 大きいから使い難いが、三人。

 大きいし、硬いから上手く引けないが一人。

 ……素敵過ぎる。


 ○月×日

 今日のお母様の一言、

「いいからさっさと行け」


 ○月×日

 近辺の村で勇者っぽい爽やかマンと合流。

 付いて来てくれるらしい。

「貴女の様な可憐な女性を一人で行かせるわけには行きません!」

 惚れそうになった。

 クオンくんの一言

「ぼくがおねぇさんをまもるよ?」

 惚れた。


 ○月×日

 コウヘイくんがクオンくんで無く、私の裾を掴む様になった。

「どうしたの?」

「おねえちゃ、まもる」

 鼻血が出た。


 ○月×日

 馬車を捕まえたので馬車で移動。

 楽ちん楽ちん。

 と、ヤチくんとテッカくんが勇者に昇って遊んでいた。

「二人からは未だかっこいい台詞聞いてないなぁー」

「「……」」

 ヤチくん。

「――ざんぞうだ」

 テッカくん。

「えたーなるふぉーすぶりざーど」

 ちゃうねん。そっちじゃないねん。


 ○月×日

 勇者、対野犬戦にて今日の一言。

「クロノ・クルス・クロスブレイド――ッ!」

 だから、ちゃうねん。そっちじゃないねん。


 ○月×日

 旅の必需品・勇者

 居てくれてよかった、勇者。

 道中の山賊に《竜》などと襲い来る敵を一人でばったばったと薙ぎ倒す勇者さんまじかっけー。

 貴方が居なければ我々はとっくの昔に全滅です。

 ……だから。

 だから、もう立たないでくれ。

 傷だらけで立たないでくれ。もう良い。もう良いから。

 左腕の骨が折れていた。ただぶらりとぶら下がっているだけだった。

 頭からの出血が凄まじい。どうして意識を保てるのだろう?

 ――守る為だッ!

 吐く様にそう言った彼の姿を私は忘れない。

 忘れない為に書いておく。

 追記・才能の残酷さを見せられた。助かったのは嬉しいが、少し辛い。


 ○月×日

 街に着いたので武器屋に行く。

 昨日の戦闘で使ったヤチくんの槍を点検する為だ。

 勇者が満身創痍になる相手に単身向かったヤチくんは体力を使い果たし、勇者の背中で寝ていた。

 幼い寝顔は可愛らしい。

 でも涎を垂らすのはやめてあげて欲しい。

 君を背負ってるそのヒトは準MVPです。


 ○月×日

 回復魔導使っても勇者の骨がつながるのに三日かかると言う事で、休憩も兼ねて街に滞在。幼子がはしゃいでいる。転んでも泣く子は居ないので、管理が楽だ。

 と、急に静かになったと思ったら四人が並んで一方向を見ていた。

 視線の先には――アイスクリームの屋台があった。

 勇者と私が見つめ合う。嫌な予感がしたのだ。

 四人が一斉に振り向き、屋台を指差した。眼で何かを訴えている。

 駄目。可愛い顔しても駄目。ごはん入らなくなるから駄目!

 と、私は視線を逸らすが、勇者が諦めた様に屋台に向かった。

 待て。

 蹴り。

「何をするんだ!」

「ごはんが入らなくなるから駄目!」

「す、少し位なら、いいじゃないか!」

「だ・め!」

 と、周りを気にせず騒いだのが拙かった。

 屋台の親父に――

「おいおい、子供の前で夫婦喧嘩はいけねぇな!」

 その言葉に思わず頭が沸騰したのが拙かった。

 止まった思考の隙を突く様に小悪魔どもが動き出した。

「「パパ―」」「「ママー」」

 混乱している内にアイスを買わされた。


 ○月×日

「おなかがいたい」

 調子に乗って三段アイスを食べて居たテッカくんが体調を崩した。

 駄目な子や。

 ヤチくんがお見舞いにすりリンゴを持って来た。

 えぇ子や。


 ○月×日

 良い日、旅立ち。

 勇者の腕が直ったので、再出発。

 道中の襲い来る脅威に対して、ヤチくんのことが有ったので、お子様解禁。


 クオンくんの場合

「――ッ! ブレスの上を歩いた……だと……!?」

「あ、あれはまさかッ!」

「知っているのか、雷電!?」

 誰が雷電だ。

 だが、アレは知っている。八咫式対竜歩法(やたしきたいりゅうほほう)。一足、二足、三足からなる独自の歩法により《竜》に向かう業だ。

 その体得の難しさから使い手が少ない幻の歩法なのに――

 何故、使える?


 コウヘイくんの場合

 爪を弾き、内側に潜り一太刀で首を落とす。

「あ、あれはまさかッ!」

「知っているのか、雷電!?」

 だから誰が雷電だ。

 だがアレは知って(ry

 その体得の(ry

 何故(ry


 ヤチくん、テッカくんの場合

 (ry


 追記・何故かヤチくんとテッカくんに蹴られた。解せぬ。


 ○月×日

 そんなこんなで魔王的なアレが復活した地点まで到着。

 今回のアレは知能があるらしく、城を建てて居た。

 これまで、私はこの旅で何もしてこなかった。

 勇者に助けられ、子供達に助けられてきた。

 だが、この先はそうは行かない。

 私が戦わなければいけない。

 不安は、ある。

 でも、知っている。

 強いヒトを知っている。

 血塗れで、負けていて、それでも吠えたヒトを知っている。

 だから、大丈夫。私は勝つ。勝って、見せる。


 ――と、


 悲壮な決意をしている私の前に魔王的なアレが跪いている。

 手足が無い。

 達磨だ。

 グロイ。

 クオンくんを見る。

「おもいっきり絞めたら腕がとれた」

 ちゃうねん。それが聞きたいんじゃないねん。

 コウヘイくんを見る。

「あし、斬った」

 褒めて、褒めてー。ネコミミがぴっぴこして激ラブリーですね。

 ヤチくんを見る。

「みぎうできった」

 そっちは左腕ねー。

 最後の希望を込めてテッカくんみる。

「うでもあしもきってない。眼、撃った!」

 ふんす。得意気。そうだねー。君の初撃で魔王的なアレはもう大混乱だったねぇー。MVPはテッカくんかなぁ~。あははー。

 ……何で私の剣以外でダメージ通ってんねん。


 ○月×日

 オチ。

 殺せるのは私の剣だけだが、傷は普通に付く。

 なんぞそれ。


 ○月×日

 茶番だと思う。

 私と勇者だけで魔王的なアレを倒した事にして、凱旋パレード。

 王国の脅威に他国の介入は不味いらしい。

 お子様軍団は呑気に道でクレープを食べて居た。こっちには一人も視線を向けていなかった。見ろよ。アイスねだった時限定とは言え、パパとママの勇姿だぞ。


 ○月×日

 懐かしいモノを見つけたので、久々に続きを書く。

 最後の日付からから十年経っている事に気が付き、時間の流れの速さを感じた。

 だが、そうかもしれない。

 あの時のお子様達は今や立派な大人――では無いが、大きくなっている。

 先日、ヤチくんから結婚の報告が届いた。

 何てことだろう。

 我が娘の有力な嫁ぎ先の一つが埋まってしまった。

 これは残り三人に対して早急なコンタクトを取らねば。

 差し当たって、“あの人”に見つかっては行けない。

 見つかったら娘を守る為に立ち上がってしまう。

 敵わないと分かっていても、その為に立ち上がる事が出来るヒトなのだから。

 そんな所が好きになってしまったのだから。

 そう言えば、あのヒトとの思いでを綴った日記も在ったはずだ。

 懐かしいついでに探してみよう。

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ある貴族の令嬢が伝説の剣引っこ抜いて魔王を倒すまでの日記 ポチ吉 @pochi

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