診断メーカー【題】味気ない朝食

 いつの間にか部屋に増える私物が嬉しくて堪らなかった。

 そんな時期もあったのです。私たちにも。貴方は知らなかったでしょうけど、ねぇ。屹度遊びだったのでしょうね。キセルを只蝕すだけの満ち足りたとき、灰に近づけるようにと酔いに続く惰性。

 あゝでもどうなのでしょうか、死を待ちわびるあなたでしたから今の私たちのしあわせを思えば、屹度社会の尺度を越えた愛に埋もれていたとしても、常識という範疇はいなかったのでしょう。

 だって私たちは生きていたのですから、そうなのでしょう。

 ですからあれが、ふつう のしあわせだったのかもしれません。

 噛み砕かれた慾に滔々の成れの果てを阿呆みたいに腐らせ、崩れて往くあなたに占拠されて、逝く香りに蹂躙される私の肢体は仰山の生が纏わりついて、あなたの吐往きは進んでゆくでしょう。

 私、いっぱいに腐臭は馨り、剥製の素肌を滑る土気色の枯れた腕も簡単に剥けてしまって、触れては貴方のカタチは元には戻らない。

 その陽の朝日は妙に歪んでいて最果ての光が私に振り雪いで、覆い尽くすようにぞわりざわりと這うのです。

 濛々とする一色に灰色は消えてゆく。彩もわからない、世界は瞑られるけれど、

 あゝ あなたは口腔にみっちりと詰まってゆくでしょう。

 私を喰らおうとするでしょう、

 ですから、

 何時かあなたをかみちぎり喰らってしまおうと思っていたことを、


 今

 この瞬間のお終いといたしましょう。

 いただきまして、

 おはようとごあいさつを、

 しんでいただきたいと祈りて。

 瞑ります、失礼を申し訳なく、候


「味気ない朝食」


 私は満ち足りて素っ気ない彼方にゐ抱かれて。




 診断メーカーより

【題】味気ない朝食

【帯】痛みを擦り寄るような恋をした

【書き出し】いつの間にか部屋に増える私物が嬉しくて堪らなかった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る