初戦
勇者ムケツは剛力無双で知られている。何しろこの顎のしゃくれ具合だ。強靭な肉体と研ぎ澄まされた技術。それは証明されたようなものだ。
暗がりの遺跡で、ムケツは貫禄の目線を披露していた。モンスターの群れ、ビビる。毎朝欠かさず訓練している目線である。勇者として当然の嗜みだ。
「どうした、かかって来るがいい」
ムケツは『宝剣とりっぴー』を抜いた。その煌めきは甲高い鳥の叫びを奏で、どこか緑っぽい。
「おのれ、人間風情が……!」
魔神どんぶらこが忌々しげに喚いた。ムケツから見て左手それなりの辺りから聞こえた。絶妙に見つけにくいロケーションだ。流石魔神。
ムケツは全身の細胞に力を込めて発光する。完全無欠の大英雄が誇る
「僕の細胞一つ一つを魔力源とした。この無限の出力に、たったそれだけの数で立ち向かえるかい?」
百に達する魔物、三の魔神。
ここまでの大戦力が瞬殺だった。宝剣のたった一振り。魔力を十倍にして放つ、まさに必殺の重ねがけがモンスターの群れを飲み込んだ。
「無限の僕の、きっちり十倍…………グッバイヴィラン」
決め台詞に決めポーズ。荒ぶる鷹のポーズでどんぶらこと冥土に流されたモンスターの群れを見る。細胞の一つ一つを魔力炉に変える秘奥。見るどころか、死骸すら残っていなかった。
「腕は鈍っていない! 待ってろサバンナちゃん!」
見果てぬ夢にムケツが飛び出す。彼は絶対に挫けない。勇者だから。これぞ九百九拾九の一の二、『
「ゾゾにバカにされる気がする! 腐った奴が勇者をバカにするな! バーか!」
この国に来る途中ではぐれた腐り縁に思いを馳せる。腐った相方は今頃どんな発酵食品を食しているか。
ムケツは遺跡を駆け回る。
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