1-13

「まあ、『蒼の怪盗』のことはわかったと」

 真紅郎さんは、僕に確認をとるように聞いた。

「はい」

「怪盗の名前、どうしようか?早めに決めないとだよね」

 頷いて、少し考える。

 考えたけど、今すぐにぱっとは思いつかない。

「名前って、コレって感じのがなかなか浮かびませんね」

「うーん、そうか……じゃ、外見から詰めていけばイメージ湧くんじゃないかな?」

「外見……真紅郎さんの想像する怪盗って、どんな感じですか?」

「うーん……ぼくが考える怪盗のイメージかあ……シルクハットに燕尾服、かな」

「なんか、動きにくそうですね」

「社交ダンスくらいなら踊れるけどね」

 茶化すように、真紅郎さんは言う。

「真紅郎さん……」

「ごめんごめん。実はさ……そういう衣装、ぼく持ってるんだ」

 真紅郎さんは、僕が理由を聞きたそうにしていたのがわかったのか、続けて言った。

「学生の頃、劇団に入ってたんだ。それが解散することになって、使ってた衣装を記念にって山分けして、それで」

「劇団員だったんですか」

「うん。裏方で、照明係」

 すらりとしたスタイルの真紅郎さんなら、役者であってもおかしくはないと僕は言ったが、「裏方のほうが性に合ってたから」と真紅郎さんは笑った。

「見せてもらえますか?その衣装」

 真紅郎さんは快諾して「すぐ持って来るよ」と部屋を出ていった。


 程なくして、真紅郎さんは戻ってきた。大量の衣装を抱えて。


 一体何着あるんだ?


「使えそうな衣装、持ってきたよ。どうかな?」

 真紅郎さんは、床に衣装を丁寧に広げ始めた。

 ざっと十着もあった。

 中世の貴族のような衣装や、マント付きの三銃士みたいな衣装、カンフー映画で俳優が着ていそうな中国服、さっき真紅郎さんが提案した燕尾服もあった。

「やっぱり、快人君には燕尾服似合うと思うんだけどな」

 真紅郎さんは、僕を姿見の前へ連れて行き、僕の前で衣装を合わせてみて言った。

「やっぱり動き易いほうがいいですよ。その中国服とか」

 僕は広げてあった、群青色の中国服をちらりと見た。

「中国服の怪盗……うん。ちょっと珍しくて良いかもしれないね。動き易そうだし。着てみる?」

 僕は頷いて肯定した。


「どうですか?」

 僕は真紅郎さんに聞いた。

「そうだね。髪をいじったらもっと良いかも」

 真紅郎さんは洗面所からワックスを持ってきて、僕の頭を少しいじった。分け目を変え、少し跳ねさせただけでだいぶ印象が変わる。ふと思い立って、ポケットにねじ込んでいたモノクルを取り出し、掛けてみた。

「お、さっき言ってたモノクルだね。そういうのがあると、だいぶ様になるなあ。クールでスマートって感じだし。外見はこんなもんかな。キャラ付けは?」

「うーん」

 僕は少しの間考えていた。

「キャラ……クールで紳士的で」

「うんうん」

「……基本的に嘘つきですよね、怪盗って」

「嘘つき……うーん、嘘?度忘れしたなあ、何だっけ?」

 真紅郎さんは何か思いついたようだった。

「どうしたんですか、真紅郎さん」

「うん。『嘘』って英語で何だったっけなあって」

「嘘、ですか。L・I・Eで『ライ』ですよね?」

「そうそう、ライだ。これ名前に使えそうじゃないかな?怪盗ライって感じで」

 怪盗ライ。

 うん……なかなか悪くない名前だと僕は思った。

「いいですね、ライ」

「よし、これで今日から君は怪盗ライだね。と、あぁ……」

 真紅郎さんは掛け時計を見た。僕も見ると、もう十一時半を回っていた。

「快人君、さっき寝たにしても疲れたでしょ?お風呂入って、今日はゆっくり寝てね」

 そう言って真紅郎さんは風呂場の説明と必要なものを用意してくれた。

「ありがとうございます。それで、明日は……」

 店を手伝いましょうか、と言おうとしたら真紅郎さんが遮った。

「快人君、学校始まるまで暇でしょ?お店手伝ってくれないかな?」

 もちろん、と思っていた。

「はい!お手伝いします」

「ありがとう。あ……そういえば、そのモノクル貸してくれないかな?」

「はい」

 僕はモノクルを渡す。それを真紅郎さんは観察するように眺めた。

「パソコンに繋ぐとリアルタイムで映像が送られるんだったっけ」

「はい」

「じゃあ、明日のうちに接続を試しておくよ」

「わかりました。じゃあお風呂入ってきますね」

 真紅郎さんは行ってらっしゃいと言って、ひらりと手を振った。

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ファントム・シーフ=ブルー 傘ユキ @kasakarayuki

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