僕の知らない愛

@nomalhuman

第1話

きっかけは些細なことだった。明日遊びに行きたいと言ったら、もうすぐ受験なんだからやめろと言われた。ただ、それだけ。それだけのことで、俺は母親と喧嘩した。母親の言い分はもっともだ。本来なら反論なんてできるわけがない。だが、それでもそこに『反抗』してしまうのが反抗期ってもんなんだろう。

なかなか喧嘩が終わらないまま、もう2時間が経っている。今の喧嘩の内容としては、俺は母に罵声を浴びせ、母は元々の遊びに行くなからかけ離れたところに対する説教を始めている。ったく、それ俺が一番嫌いなやつだよ、大元から議題をずらすなクソババア。




そんな感じでさらに30分が経過した頃、俺は思わず自分のママチャリで家から逃げ出した。蒼く澄んだ夜の空気が頬を撫で、肺を満たす。さっきまでの重い空気がまるで嘘みたいだ。下り坂を滑りながら、その爽快感を全身で味わう。身体中が、母の呪縛からの一時的な解放に歓喜していた。

坂を下り終えた先には、24時間営業のカフェがある。そこでコーヒーを注文し、もう今日は家に帰らないぞという決心のもと一口目を口に運んだ。うむ、砂糖とミルクを貰おう。

カフェラテと化したコーヒーを片手に、俺は母がなぜああなのかということについて考えていた。母は正直めちゃめちゃうざい。自分がする行動全てに対して何かしら言ってくる。そしてその言葉全てに腹が立つ。どうしてなんだ、どうして俺の行動一つ一つに対して口を出すんだ、なんでだ、なんで…

思考はどうしてとなんでの堂々巡りになり、そこから抜け出せるほどの脳みそもなかったもんだから、その場で俺は寝てしまった。






起きたときには、どうやらそこはもう朝のようだった。店員に起こされることもなくこんな時間まで寝れてラッキーである。腕時計では現在朝の7時、なかなか健康的な時間ではないかな。そんな呑気なことを考えていた矢先、俺は異変に気付いた。まず、腕時計の日付と店のカレンダーの日付が合わない。本来10月24日じゃなきゃいけないはずの日付が、2月8日になっている。だが、それだけじゃない。コーヒーのカップは消えているし、さらに周りにはスマートフォンの1台も見えやしないのだ。このご時世、こんなFree Wi-Fiのカフェにいれば誰か1人くらい触ってなきゃおかしいはずなのに。みんな代わりに、ガラケーを使っている。


俺は大急ぎで外に出ると、ひとまず自宅に走った。自分の自転車はどこかに消え去っていたので、自分の足で。誰も俺に目を向けないことを不思議に思いながら、ようやく自宅に到着する。なぜか昨日より小綺麗な気がする一軒家。ドアノブを捻ろうとすると、手がそこを通り抜けた。思わず転んだが、痛くはないし、怪我もしてない。というか、地面に対しての感触がなんか怪しい。もしやと思って、扉に体当たりしてみたら、なんとそのまますり抜けた。

……そして同時に、玄関先のカレンダーで衝撃的な事実を知った。今俺がいる時間は、2003年の2月8日らしいのだ。どうやら俺は、世に言うタイムスリップをしてしまったらしい…

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