第三章 サーシャの秘密
「ルカよ、こりゃどういうこった? この家はずっと主が居なかったんだろうが。今日は
チュニックの上にマントを羽織った中年の大男が頭目らしい。ギョロリとした目玉で赤毛の子供を睨み付ける
「本当に留守だと思ったんだよ。昼に管理人の爺ちゃん、夜に家政婦の婆ちゃんが出かけてもう誰も居ないと…… 」
なめし皮の鎧を上だけ無造作に着込んだ蛮骨な風体の男が、ルカの言葉に割り込んだ。
「すいやせん、頭。主は戦争で死んだ王国騎士の夫婦だったてえのは聞いてたんですが、こんなガキが居たとは……」
「バスラ! ガキって言い方があるか。騎士と言えば貴族様の端くれじゃねえか 」
だみ声で一喝すると頭目はサーシャに目を向けた。
「それによ、そのお嬢様ってのはさすがに気が強いってのか気位が高いってのか。こんな状況で逃げようともせずに平然としてるってのは、大した度胸じゃねえか 」
サーシャは微かに震えながらも、椅子に座ったまま男達を見上げて睨み付ける。
「まとまったお金なら隣の部屋にあります。でも二階のお父様とお母様の部屋には入らないで。あそこには両親の思い出の遺品を締まってあるの 」
しかし賊の頭目は哀願するサーシャを気にも留めず、無慈悲に言い放った。
「けっ、主の居ない元貴族の屋敷なんぞ、大した蓄えがある訳じゃねえだろう。それよりも王国騎士の装備がこっちの狙いよ。一通り上を見せてもらったが、アンタの親ってのは魔法騎士だったんだな。戦闘用の魔導アイテムってのは特に高く売れるんだ 」
それまで黙ってひとり立ち尽くしていた、茶髪の少年がおずおずと口を開いた。
「あの、か…頭、親の形見まで取り上げるっていうのは……。ほ、ほら、それよりもこの壷とか銀食器とか、十分良いお金になりますよ 」
「シリウス、てめえ! 半人前のクセに頭に向かって口答えするんじゃねえ! 」
少年の背中を乱暴に突き飛ばしバスラが吠える。頭目は別に憤るわけでも無く、つっけんどんに呟いた。
「フン、お前はどうしても甘いな。壷だろうが食器だろうが親の形見だろうが、一切合切何でも頂くのが俺達の商売なんだよ! 」
バスラは賤しい薄ら笑いを浮かべると、サーシャの椅子に近づいた。。
「それにな、テメエみてえなガキにゃ判らねぇだろうが金になるのは別に物だけじゃ無いんだぜ。へへへ…… 」
ハッと身を固くするサーシャの横でバスラが足元に
「あっ!? 」サーシャは息を呑んだ。
「や、やめろっ、バスラ! 」
思わず叫ぶシリウスの怒声も構わず、身をよじって必死に抵抗するサーシャを嘲笑うように、バスラはローブスカートの裾を両手で思い切り跳ねあげた。
しかし、そこにはサーシャの白雪のように輝く美しい肌は無かった。下穿きのドロワーズから突き出しているのは、鈍く光る二本の無骨な金属の棒。
「ぎ、義足……? 」予想もしなかった展開にシリウスは呆然とした。
サーシャの眼から初めて涙が溢れた。赤面し怒りの表情で、その身を恥じるようにローブの裾を慌ただしく払って広げると、浅ましい姿を覆い隠した。
白けた空気が周囲を包む。当のバスラはすっかり興ざめし、鼻先で笑った。
「何でえ、つまらねぇ。壊れモンかよ…… 」
「バスラっ! 貴様っっ! 」
シリウスが逆上し、兄貴分に後ろから飛びかかった。
「バカ野郎っ! 何をトチ狂ってやがる! 」
しかしバスラが振り向きざま太い腕で思い切り薙ぎ払うと、少年はにべも無く床に転がされる。
「この館が
鼻白んだ顔で頭目が呟くと、バスラは畳み掛けるように吐き捨てた。
「ケッ、豪華な家の中で綺麗なおべべを着て、ただ椅子に座ってるだけが仕事じゃあな。人形に違いねえや 」
身を起こしたシリウスが、切れた唇を押さえながら燃えるような目でバスラを睨み付ける。サーシャは
頭目はウンザリした様子で冷たく言い放った。
「ともかくコイツが居るだけで気が滅入るぜ、仕事がやりにくくて仕方ねえ。シリウス、ルカ、この辛気臭いお人形を他の部屋へ連れて行け! 」
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