第2話 花好きの少女
「ねーねー!おにいさんだぁれ?」
少女がワタシに会うなり開口一番に言った言葉がそれだった。
数多の銀河系を漂っていたワタシは、偶然見つけたこの地球と呼ばれる星に降り立った。この星では人間と呼ばれる生命体が活動しており、ワタシ自身もこの星からの攻撃を受けないために人間の姿をとった。しかし、人間になったのはいいものの、周囲からは嫌悪の目で見られた。聞けば、人間と言うのは衣服を身に纏わねば変人扱いされるようだ。ワタシは何も纏っていない、言わば全裸。この星の文明は進んでいるようだ。他の星では全裸は当たり前だというのに。いや、この星が変わっているのか?
とにかく衣服を何とか再現し、周辺を歩き回ってみた。けれど、歩いても歩いても似たような景色ばかりが広がっている。地球と言うのはこれほどつまらないのか。そう思いながらワタシは、人里から離れた丘と呼ばれるところまでただひたすらに歩いていた。
その丘には、見事に咲いた美しき花々が、まるでこの星で言う絨毯のように広がっていた。その光景に思わず感動し、地球は素晴らしいと訂正した。その場に座り込み、花々を一つ一つ眺めていると、後ろから声を掛けられた。それが、現在目の前でニコニコ笑っている少女だった。
「ワタシ?」
「そーだよ!ふしぎなみためだねー!きいろいおめめに、まっしろなかみ!あ、ガイジンさん?」
その子は気になることをとことん口に出す子だった。けれど、そこでワタシはうっかり力を使ってしまった。正確には、言葉でどう説明しようか考えているとき、無意識に地面についていた手元から黄色い花が咲いたのだ。これは、この地球ではありえない現象だろう。
少女はワタシの手元から生えた黄色い花を見て、しばらく驚いた顔を見せた。怖がってしまうだろうか、別に危害を与えたいわけではないのだけれど。無意識とはいえ、とんでもないものを見せてしまったな。この子はワタシをなんて思うのだろうか。人外であるのは否定できないのだが……。
「すごい!タンポポだ!」
少女は怖がるどころか目をきらきらと輝かせて咲いた花に近づいた。
「ねぇねぇ!タンポポもっと!」
「……もっと?」
少女に言われるがまま周囲にタンポポと呼ばれる花を咲かせると、少女は嬉しそうに声を上げて走り回った。二つに結ってある黒い髪が揺れ、花柄の衣服が風を孕んだ。タンポポ咲く舞台で少女は踊る。その様子を見ながら、ワタシは人間の子供と言うのはこういうのが好きなのだろうかと思っていた。
「かみさまだ!おはなのかみさまだぁ!」
少女はタンポポを数本摘んでワタシの元に持ってきた。
「みてみて!きれいだよ!」
差し出されたタンポポの花束を受け取ると、少女は笑みを浮かべながらワタシの隣に座り込んだ。
「あのね!わたし、しゅんか!しゅんかってゆーの!5さい!かみさまは?」
「あ、えっ、と………」
「え!なまえないの!」
「…………はい」
「ありゃまー。じゃあ、かみさまってよぶね!」
それから、しゅんかとはしばらく様々なことを話した。とは言ってもまだ幼い為、聞けることは限られていたが。
太陽が山に隠れつつある時間。空は燃えるような橙色に染まっており、カーカーと鳴く黒い鳥が山の方に帰っていった。
「春華ー!帰るよー」
丘から離れたところから女の声が聞こえてきた。
「あ、ままだ!バイバイ、かみさま!」
ワタシに大きく手を振りながら、少女は声の聞こえた方角に向かって走っていった。人間とあれほど言葉を交わしたのは初めてだった。そして、楽しかった。また会えるだろうか、などと思いながら今日はこの場で休むことにした。
かみさま。確かそれは人間が信仰する対象、空想上の人物。人間を越えた力を持つ存在。それがワタシと言うのか。ふむ、あながち間違っていない。
にしても、無知はあまりにも苦労する。明日にでも人里で何か知識として蓄えられそうなモノを探そう。
銀河系を漂っていた際にずっと見えていた屑が、ここから見ると瞬いて見える。暗いあの空を、しゅんかはよると教えてくれた。よる、なかなかいいものではないか。
草むらの上で横になり目を閉じる。意味はないが、人間は確かこうして休息をとると聞いた。それっぽくすれば怪しまれないだろうと、とりあえずしばらくそのまま動かずにいた。
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