第51話 海の仕事が終わりました
記憶を失い、イモータルに入ってから、初めてかもしれないまともな正論をぶつけられて呆けてしまった。
そんな俺に対して、船長は言葉を重ねて問い掛けてくる。
「ところで、君は分離できないのか?」
「あ、はい、できます」
船長に言われて、反射的に俺はサーペントと分離した。
「ふむ……普通の人間か。分離してよく見えるようになった」
「あ、はい、普通の人間です」
「そうか。魔力は多いのだな。だが、それ以外は平凡だな…………察するにその魔力もたまたま授かったのか」
「あ、はい……魔力樹の実を食べまして……」
「なるほどな。それなら尚更だ。弱者であったものほど、力を得た時、その力に溺れやすい。いいか、周りを見るんだ。今の君は確かに一般人と比べれば、強者だ。だが、イモータルの中では最弱。いや、イモータルの団員抜きにしても、世界全体でお前は中の上といったところだろう。油断をしていれば簡単に死ぬ事になるぞ。まあ……私達は死ぬ事はないと思うが」
……俺、もしかして説教を受けているのだろうか。
何だろうな…………サラ以外にこんなまともな人と接した事がないから、よく分からん。とりあえず黙って聞いておこう、そうしよう。
それから暫く一方的に船長は話を続け、俺は黙って聞いた。話は一向に終わる気配はなく、周りに居たはずのサラ達は気付いたら居なくなっていた。サーペントだけだ残ってくれたのは……。
サーペントが居てくれないと俺沈むからな……。サーペントの中に入ってないと、海を操作する事はできないし助か(私に話しかけていないようなので、少し離れても宜しいですか)いや、待て。置いてかないでくれ。一人でこの長話に付き合うのは辛い。
だが、ようやく説教まがいな長話も終わりを迎える事になる。
「おーい、船長。こんなところに居たのか」
「ああ、団長か。すまんな、初めて会った団員が居たのでな。少し挨拶をしていた」
オッサンよく来てくれた!
俺は心の中でオッサンの登場を拍手喝采で大歓迎した。これで話も終わる……ただ、船長。少しじゃないし、挨拶だけじゃないだろ、あれは。
と、少しは腹が立ったが大した事はない。オッサンが来てくれたおかげで船長の話は止まった喜びの方が大きい。ようやく解放されそうだ。
「おお、ケルベロスと話していたのか。まあ、この後の打ち上げでまた話せるだろうから、とりあえず丘に行こうぜ。もう海賊は片付いたしな」
「ああ、そうだな。これでこの辺の海がまた数十年は穏やかになる」
そう話す船長は相変わらず生気を感じさせない顔色をしているが、この時は嬉しそうに顔を綻ばせていた。
「……そういえば、ケルベロスには話してなかったな、今回の海賊退治の詳しい事を」
ふと、オッサンが今更そのような事を言ってきた。そういう事はもっと早く気付いて貰いたかった。
「悪い……まあ、行方不明やサラの暴走、それと蒼海の死霊騎士が入団したり……色々あったからな。いや、すっかり忘れてた」
「大事だろ。どうすんだよ、誤って幽霊船に攻撃したら…………いや、普通に幽霊船と戦ってたな」
一部、幽霊船の事を忘れ、すっかり敵と思って戦っている奴も居たみたいだが…………ダンとかもそうだろう。クレアも攻撃が効かない事を知らなかったところを見ると怪しい……。
「ああ、こうして会うたびに戦ってんだ。互いに、人生のいい刺激になるからな。それに幽霊船の奴等も死なないから遠慮はいらない」
「戦うのが当たり前なのか……ん? 死なないって事はファントムの船員もオッサンが不老不死に?」
「あー違う違う。あいつらは」
「二人とも。とりあえず話はここまでにしよう。うちの船員と、イモータルの団員が待ちくたびれてしまう」
「おおっと、そうだな。じゃあ戻りながらケルベロスには説明すっか」
「それでは私は船の方に戻らせて貰おう」
「まあ、他の団員も幽霊船を普通に敵と思ってたけどな……」
船長は海面を歩き、船へと戻って行った。
一方でオッサンは団員達に向かって「帰るぞー!」と大声で呼び掛けながら、歩き始める。
俺はオッサンから話を聞く為にサーペントと再び一つになる。そしてオッサンの後を追って歩き出した。
「さてと……まあ、陸に戻るまで今回の仕事を説明してやるか。まあ、ほとんどがファントム、船長の話になるだろうが。それにしても便利だな、サーペントの力は」
俺とオッサンはサーペントの力で、海を操り陸へと向かって運んで貰っている。俺達は立っているだけだ。
「悪いな、俺まで運んで貰って」
(こうした方が話をしやすいかと思いまして)
「こうした方が話をしやすいだろうってさ」
「おお、そうか。助かるわ……それじゃあ話をするか」
サーペントの言葉を俺が代弁すると、オッサンは感謝し、早速今回の仕事について話し出した。
「まあ、とりあえず船長の事から話さないとな。簡単に言えばデュラ爺さんとだいたい同じ境遇だ。元々不老不死みたいなもんだったのを、俺の力で完全な不老不死にしたんだ」
「船長はモンスターって事か? あの感じだとゴーストとか?」
船長は自分でゴーストと言っていた。そうなのだろうと思ったのだが、オッサンは首を横に振って否定する。
「いや、あれはモンスターというか…………幽霊海賊?」
「……モンスターだろ?」
「いやいや、モンスターとは違うんだよ……何て言えばいいんだろうな…………ああ、あれだ、怪奇現象?」
「…………んん?」
「ああ、その反応は良く分かる。だけど実際説明しにくいんだよなぁ。だってよ、モンスターじゃないんだから」
正直いまいちよく分からない。ただ、オッサンの言葉をそのまま受け止めるなら、モンスターではなくて怪奇現象という事だ。うん、全くもってモンスターとどう違うのかがよく分からない。だが、とりあえず分かった事にしないと話は進みそうになさそうなので、船長は怪奇現象っていう事で納得しておこう。
「で、あいつは固有の力があってな。海で死んだ奴を仲間に不老不死の力を与えて引き入れる事ができるんだ。ただし、船長が死なない限り船からは一生降りられないがな。まあ、俺の力の海版みたいなもんかな」
船員の方は船長の力で不老不死にしているのか。てっきりオッサンが一人一人不老不死にしているのかと思った。だが、よく考えてみれば、オッサンから離れても老化が進まない人間がそんなに居る訳がないか。
そうそう不老の存在が居る訳がない……デュラ、ユーリ、船長といった感じで既に三人は出会っているが。気付かないだけで、他の団員の中にも居るのかもしれない。
「……じゃあ、今日死んだ海賊も、もしかして仲間になってたりするのか?」
「いや、それはどうだろうな。俺にはあいつが仲間にしていいと思えるような奴は居ないように見えたぞ。そもそも今回相手にした海賊達は船長が排除したかった奴等だしな。ああいう奴等が居ると海が騒がしくなる。イモータルのおかげで、また暫くは平穏な海を過ごせる、と言ってたな」
海賊達を海から根絶して、穏やかな海にしたい。だから今回みたいな騙し討ちのような手段を取ったようだが、俺は今一つ納得できなかった。既に海賊達を騙した事には納得しているが、どうしてそのような手段を取ったのかが分からない。
「どうして俺達が出る必要があるんだ? 船長達なら倒せるだろ?」
「確かにな……。だけどな、一つ一つ海賊を潰していっても面倒臭い。それなら一網打尽にしてしまった方が楽だ。それに俺達に海賊退治の仕事が回って来れば金になる」
「ああ……確かにな」
「そこで、船長と俺やサラが相談して決めたんだ。まず船長がここら一帯の海賊団の取り纏め役をするようにした。そして海賊が増えてきたら俺達に連絡。連絡を受けたら、ここらの海に接している地域の偉い人に海賊退治の仕事ありませんか? と聞いて、あると言われれば引き受ける。そして海賊を少し退治する。で、なんかやべえのが俺達を倒しに来てるぞと海賊達に危機感を煽ったところで、船長が海賊達を集めて全員一斉に襲う機会を作ったとか言って一箇所に集めるんだ。それで最後は達が一網打尽って訳だ。分かったか?」
「ああ……分かったんだが、それはそれで面倒だな」
「まあな。だが、報酬は結構な額なんだぞ。重要な収入源の一つだ」
海賊達の纏め役が言ってみれば身内であって、海賊が増えていくのを暫く放置。そして増えて来て、困ったところに助けに来る…………これって、いわゆるマッチポン……いや、深く考えるのはやめておこう。
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