第48話 アヒルの船vs海賊船
「ここにも居ないか……。次の島へ行ってみるかサーペント」
(そうですね、次に行きましょう)
俺と蒼海の死霊騎士改めサーペントは島を渡り歩いて海賊たちを探していた。これで五つ目だったが、今回も空振りだ。
「……それにしても、名前がサーペントで本当に良かったのか?」
(? ええ、私は格好良い名前をいただけて良かったと思いますが……ああ、シーサーペントの方が良かったのでは、という事ですか?)
「いや、そういう事じゃないんだが……まあ、お前がいいならいいや」
サーペント。この名前にした経緯だが、そう複雑な事はない。
名前を考えようとしたのだが咄嗟に良い名前が思い浮かばなかった。そこで大変遺憾だが、俺の名前ケルベロスのように、伝説の類のモンスターから名前を付ける事にした。
案外名前を付けるというのは大変だった。ケルベロスという名前は、当初は完全に名前負けだと思いあまり良く思っていなかった。だが、実際名前を付けるのは難しいもので、何処からか引っ張って来るのが手っ取り早いと付ける側になって気付いた。
そこで最初、海のモンスターで伝説上の存在とされているシーサーペントを挙げ、その後名乗りやすく、呼びやすくする為に「シー」を除いて「サーペント」という名前となった。
本人は満足しているようだが、自分としてはモンスター以外から引っ張って来るべきではなかったかと、名付けた後に思った。だが、本人が気にしていないようだから、これ以上気にしても仕方ないかもしれない。
俺はこれ以上名前については考えないようにして、仕事に集中する事にする。
「それにしても、ここら辺の海賊はだいぶ片付けちゃったんじゃないか?」
(そうですね……先程から海賊の姿は見当たりませんが、船の残骸が浮かんでいたりしますし……。他の団員の方が、海賊を既に退治してしまったようですね)
戦闘の跡が所々で見られ、もはや海賊は近辺には居ない可能性がある。
俺達は少し遅めに出てしまったからな…………柱を投げて移動したり、アヒルの船で移動している奴は意外と移動速度が他と比べて速いように見えた。そこら辺が既に片付けてしまったのかもしれない。
ちょいちょい空を飛んでいたり、激しい水飛沫を上げている姿が見られる。あの移動方法は機動性に優れているらしい。
「ん?」
(あれは……海賊みたいですね……)
遠くに一隻の大きな船が見えた。いかにも海賊らしい髑髏の旗をはためかせている。
(ただ、既に交戦中のようですね)
「ああ、しかもアヒルの船の奴だな……ちょっと寄ってみるか」
海賊船相手にイモータルの団員は一人でどう戦うのか、少し観戦しようと思い俺達は近付いてみる事に。
姿がよく見え、声が聞こえるようになり、現場の様子がより詳細に分かるようになった。
「おい! あれ何なんだよ!」
「分かんねえよ! どうしてあんなに速く動けんだ?」
「とにかく魔法使える奴は、あのアヒルを狙え! それ以外は小舟で近付けぇ!」
「船長! 小舟でとても追いつけないっす!」
「あれ、船の速さじゃねえよ! 馬よりも速いし、魔道具か何かか?」
「いや、違う! 滅茶苦茶足を動かしてたぞ!」
「足が滅茶苦茶動いてんのに、上半身が微動だにしねえ! 気持ち悪いよぉ!」
海賊達はパニック状態だった。アヒルの船の動きがあまりに素早く、攻撃は当たらず、近付こうとしてもまるで追いつけない。手も足も出ない状態だった。
やがて、アヒルの船に乗船している団員は海賊船に急接近して素手で穴を開けていく。そこから海水が船内に侵入していき、海賊船は沈み始める。近くには陸地はないので、おそらく沈没してしまえば海賊たちは助からないだろう。
海賊船が沈み、また小舟に乗っている海賊を忘れずに始末してアヒルの船は次なる海賊を求めて去って行った。
鮮やかな手際だった。ただ、アヒルの船に乗っていたのが、熟練の殺し屋を思わせる雰囲気を纏い、髭や髪を綺麗に整えたスーツ姿の渋いオジサンであり、その絵面が衝撃的だった。
あんな団員が居たのか……いや、どうしてアヒルの船を移動手段として選んだ……。
後で問いただそうと思いながら、俺も海賊を探す為に移動をする。
「おおい、ケルベロス!」
「ユーマ?」
海賊を探す為、海の上を移動しているとユーマが俺を呼ぶ声が聞こえた。
声が聞こえたのは空の方だったので見上げてみると、こちらに向かって降りて来るユーマの姿があった。
「よっ! どうだよ調子は?」
「こっちは全然だ。海賊が全然見つからない。そっちは?」
「こっちもだ。マジでいねえ……。魔道具で海賊っぽい反応を見つけて向かうんだけど、向かっている途中で他の団員が倒しちまうからなー。まあ、正直助かるっちゃ、助かるけどな。正直、海賊一人で相手にするのは、俺にゃ荷が重いわ」
「荷が重いって言うが、勝てるだろ?」
「たぶん……だけど一人だとなー。俺は魔道具で全身ガッチガチに固めてっから、戦えてるようなもんだからよー。それに経験上、スゲーツエ―奴が居たりすんだよなー。あー、めんどい」
確かにユーマは全身を指輪や腕輪、ネックレスなど全身を装飾品を模した魔道具を大量に身に着けている。空を飛んでいたのも魔道具の力によるものだろう。
「まあ、仕事はしないとなー。それに、そろそろ終わりっぽいしな」
「どうしてわかるんだ?」
「なんかよ、海賊らしい反応が一か所に集まってんだよ。んで、うちらイモータルもそこに集まってる。なんか最終決戦的な雰囲気を感じんな」
それを聞いて、俺はユーマとともにその場所へ向かう事にした。
空を飛ぶユーマを追い掛けるように移動して暫く、そこには先程ユーマの言っていたように数十隻の海賊船と何十人ものイモータルが集まっていた。両者ともに向かい合って、膠着状態だ。
海賊船に対する我らイモータル傭兵団は正直おかしな集団だった。
海面に立っていたり、空を飛んでいたり、はたまた船に乗っているものの、足漕ぎのアヒルの船に乗っている大の大人。この場の光景を誰かに語れば夢でも見たのだと思われるだろう。
「ようっ、ケルベロス! それと蒼海の死霊騎士だったな! お前たちも来たのか」
集まった団員の中から一人の男が話し掛けて来た。新人教育担当のダンだ。俺達に気付いて近付いて来る。
「ああ、ユーマに集まっている事を教えて貰ってな。あと、蒼海の死霊騎士の名前はサーペントだ」
「ん? そんな名前だったか?」
「ああ、喋られなかったから名前が言えなかったんだ」
「おお、そうだったのか」
俺が名付けた事は伏せておこう。俺が名付けた事が知られれば、もしかすると再度命名式なんかを催す可能性がある。そういうイベントが好きなようだからな、娯楽に飢えていると言うか…………まあ、酒を呑んでいれば娯楽なんてなくても大丈夫そうな奴は多いが。
「改めてよろしくな、サーペント」
(よろしくお願いします)
「宜しくお願いします、って言ってる」
「そうか。俺は新人教育担当だから、いずれ俺が訓練をしてやろう…………ケルベロスとともに」
「…………え? い、いや、俺はもう訓練は」
「何を言ってる。まだまだ訓練は足りてないぞ、それにお前しかサーペントの言葉が分からないんだから付き添いとして一緒に訓練するぞ。それに、その姿ならもっと上の訓練をしてもいいだろう。ガッハッハ! 楽しみだな!」
……ダンの中で俺とサーペントがともに訓練をするのは決定事項のようだ。
暫く移動とかで訓練の事なんてすっかり忘れていた。また、あの拷問が行われるのか……。
(ケルベロスさん、訓練は厳しいのですか?)
ああ、相当な。覚悟しておいた方がいいぞ…………死にかける事に慣れるような訓練を……あれ? 待てよ?
「なあ、ダン。よく考えてみると、まだサーペントは不老不死じゃないぞ」
「あ? そういえば……そうだったな」
博士とマヤの強引な説得でイモータルに入団したから、オッサンに不老不死の力を与えられていないサーペント。不老不死でないのにダンの訓練を受けさせるのは危険だ。俺の時と同等な訓練を受ける事になれば確実に即死する。
このままではサーペントに訓練はさせられないだろう。あわよくば俺の訓練も回避できるのではと淡い期待もあったが……。
「じゃあ、暫くはケルベロスだけ訓練するか」
そう簡単には逃がしては貰えなかった。
「まあ、訓練の事は置いておいて今は目の前の事を片付けるか。そろそろ敵も動くだろうぜ」
「そういえば、どうしてここに集まってるんだ?」
「ん? ああ、知らないで来たのか。なんか、ここら辺の海賊を取り纏めている海賊団が、団長に申し出があったらしい。互いの総力をもって決着をつけようってな」
「海賊を取り纏める海賊団なんてあんのか……」
と思っていると、俺は不思議な光景を目にする。
海賊の方の海面が突然盛り上がったと思えば、海中から巨大な船が現れたのだ。全体が黒く、何百人もの人員が搭乗できそうな船。しかし、帆は所々が破け、船体にも多くの傷が幾つもついていて、長年海中に沈んでたかのように海藻や貝が付着している。
しかも、乗組員も覇気がない……というか生気がなかった。白い肌、細い体…………いや、もうぶっちゃけると骨だ。
「この辺りの海賊を取り纏める幽霊海賊団、ファントムだ」
「幽霊、海賊団……」
普通の海賊とは明らかにスケールが違うものが出て来てしまい、俺は呆気に取られる。
だが、それの登場を合図に戦いの幕が切って落とされたのだった。
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