第46話 ケルベロスは融合する
前回までのあらすじ!
蒼海の死霊騎士を応援していたら、マヤの魔法で海に向かって飛ばされてしまう。そして、その先には死霊騎士が!?
そして死霊騎士とぶつかる直前にバラバラとなってしまい、ばらけた甲冑の体が俺に向かって来たのだった!
…………とまあ、そんな事がありました。で、バラバラとなった甲冑が俺の方に向かって来てどうなったかというと……取り込まれました。取り込まれたんです。ただいま、蒼海の死霊騎士の中でございます。
「よしっ! アドリブだったが、どうにかいけたみたいどなっ!」
「おいっ! どういう事だっ!」
「どういう事も何も……自分の姿を見れば分かるだろう」
「自分の姿……蒼海の死霊騎士の中」
「そういう事だ」
「訳分からんっ!」
俺、何されちゃったの!?
あと甲冑の中は、ほんのり生温かい!金属なのに!
そういえば砕かれた腕とか、ところどころにあった罅割れが治ってるな! 良かったな青! だから出して!
デュラの爺さんも状況についていけないらしく、首を傾げているが、すぐに剣を構え直して、こちらに殺気を向けて来る。
「よく分からんが……ケルベロス。お前ごと、そいつを斬っていいんだな?」
「いや、よくないけど!?」
「うるせえっ! 戦いに首突っ込んだてめえの責任だ!」
「好きで突っ込んだ訳じゃねえ!」
首どころか全身突っ込んじまったよ畜生!
そう叫んだところで、きっと今のデュラ爺さんは斬り掛かって来るに違いない。今すぐこの場から逃げる手段があるなら教えて欲しい。
(申し訳御座いません。その術を私は存じ上げません)
「いや、気にしなくていい…………ん?」
誰かの声が聞こえて思わず返事をしてしまったが……誰もいないよな?
パニックのあまり幻聴が聞こえるようになったのか……。
(いえ、幻聴ではありません)
「うおっ!?」
やっぱり聞こえる? 誰だ?
(私は、あなた達のいうところの蒼海の死霊騎士です)
蒼海の死霊騎士? お前が?
(はい。私としても状況を理解できないのですが、どうやらケルベロスさんと私は融合させられてしまったようです)
……は?
いや、ちょっと待って、融合?
そういえば蒼海の死霊騎士と俺の足下に同じような魔法陣が現れていた。もしや、あれか?
(それですね)
マジか! あいつら無断で……というか、これ元に戻れるんだよな? 一生甲冑の中なんて嫌だぞ!
(……すみません、私が不甲斐ないばかりに。私が一方的にやられてしまったから、こんなことになっているんですよね?)
いや、お前は謝らなくていいよ。というか思ったよりもちゃんと話しができる相手なんだな。最初からそんなふうに話し掛けてくれれば、こんな事にはならなかっただろうに。
(いえ、その……こんなふうに話せるようになったのは融合してからなんですよ。どうしてか分からないんですが……)
そうなのか? 博士が何か魔法陣を描いていたけど、それが原因かもしれないな。まあ、色々話したい事はあるんだが、とりあえず話しはやめて目の前のデュラ爺さんをどうするか考えよう。
(そうですね……)
デュラ爺さんはいつでも斬り掛かって来そうだった。
まるで首に剣を押し当てられているような錯覚をするほどの、強烈な殺気がデュラ爺さんの全身から放たれている。
「どうすればいいんだよ……」
(………………戦うしかないでしょう)
蒼海の死霊騎士もデュラ爺さんと戦いたくないようで、嫌そうに、絞り出すようにして言葉を発した。だよね、戦いたくないよな。勝てる気がしないもん。なんかパワーアップしたように見えるだろうけど、それでもデュラ爺さんの足下にも及ばないというのが、対面していると嫌でも分かる。
まあ、なんだ……折角だから一撃くらい入れてやるか。このまま一方的にボコボコにされっぱなしじゃ嫌だろ? いや、一撃すら与えられるか分からんが。
(いや……正直、ボコボコにされている時って、朧気にしか覚えてないんですよね。融合のせいなのかもしれせん。でも、ボコボコにされたのは覚えているといえば、覚えているので…………これ以上ボコボコにされないよう頑張りましょう)
こうして、俺と蒼海の死霊騎士は協力してデュラ爺さんに挑むのであった…………それから数時間後……。
「新しく入団した蒼海の死霊騎士だ!」
「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおお! 乾杯!」」」」」
「お前ら、呑む口実が欲しいだけだろ!」
俺の声は誰にも届く事はなく、すっかり飲み会に突入していた。
まあ、何はともあれ、蒼海の死霊騎士の歓迎会が始まった訳だ。
…………なんか色々すっ飛ばしている気がする。
いや、本当になんとなくだが、そんな気がするので少し蒼海の死霊騎士の歓迎に至るまでの事を思い出してみよう。
まずは……そうだ、蒼海の死霊騎士と俺が融合をしてデュラ爺さんと戦った件だが、惨敗だ。一撃も攻撃を与えられなかった。本当に強い……強過ぎる……融合した状態の俺は初陣の魔道具で全身を固めていた時よりも強いのだが、呆気なく負けた。
いや、あれは勝てる気がしない。あれだけ強くて不老不死って…………地上最強の生物だろ、あれ。
ちなみに今、俺は蒼海の死霊騎士の中から出ている。
壇上でオッサンと酒を飲み交わしているのは……いや、あれ呑めてないな。足下がびちゃびちゃだ。中に誰も入っていないのだから当たり前だ。だけどオッサンに呑めと言われて仕方なく飲む仕草をしているらしい。
今、こうして甲冑の外に俺は出ているが、融合が解けている訳ではない。
デュラ爺さんにボコボコにされた後、俺と蒼海の死霊騎士を融合させた博士とマヤに詳しく話を聞いたのだが、奴等が言うにはモンスターとの融合は普通ありえない事らしい。通常であれば得体の知れない新種のモンスターができあがると説明された時には、本気でぶっ殺してやろうかと思った。不老不死であるので不可能だが。
だが、人間の念によって作られた蒼海の死霊騎士とであれば、融合できるのではないかと考えたらしい。ユーリの話では一人や二人ではない、膨大な数の人の念によって生まれたモンスターだ。比較的モンスターの中でも人間の要素が濃いという事で、成功率が高いはずと踏んだらしい。そして融合の成功を上げる為に博士が蒼海の死霊騎士の体中に、人の精神を清め、あるいは負の念によって構成されたモンスターを消滅させる浄化魔法の魔法陣を描いたとの事。
そして融合させてみたら見事成功! しかも蒼海の死霊騎士に理性を持たせる事ができた。この事に博士とマヤは素晴らしい発見と言って興奮し、暫くは二人してお祭り騒ぎだった。このように説明を聞くまでに暫く掛かったので、その間は蒼海の死霊騎士にどうやって分離できるか試行錯誤した。
その結果、分かったのが二人の意思を合わせる事だった。
俺と蒼海の死霊騎士が離れたいと思うと離れたのだ。俺が最初衝突しそうになった時のようにばらけて、今度は俺を巻き込まないように組み上がった。そして今度は一つになる……なんか語弊がありそうだが、とにかく一つになりたいと思えば再び俺は蒼海の死霊騎士の中に入るのだ。
どうやら離れてはいるものの融合をした状態を保っているらしい。このような例は今までにないらしく、博士とマヤが言うにはあまり二人が離れてしまうと大変な事が起きる恐れもある。
という事なので今後蒼海の死霊騎士の扱いをどうするかという事になり、全員で船で話し合いが始まった。そして普段の状態に戻ったデュラ爺さんが「イモータルに入団させればいいではないか」と意見を出して、とりあえずオッサンに相談する事となった。
そしてイモータルに入れようと、博士とマヤは積極的に動いた。
「多くの人の負の念を背負って生まれた可哀そうなモンスターだ! そろそろ幸せになってもいいだろうっ!」
「この子、ちゃんと理性があるんだよー。でもー、生活能力がないようだしー、それに帰る場所といったら誰も居ない海の底なんだよー。可哀そうだよー」
と必死に訴えた。
そして最終的に、不老不死の力は与えずにイモータルに入団する運びとなったのだった。この時、誰よりも喜んだのは博士とマヤだ。だが、騙されてはいけない。二人は蒼海の死霊騎士の為を思った優しさからの行動ではないのだ。
俺には聞こえていた、二人の心の声が。
あの二人が団長に伝えたかった本心は同じだ。
「「折角の実験対象を逃す訳にはいかないっ!」」
オッサンを見る二人の目は、病的なほどの研究意欲に燃えるマッドサイエンティストの目をしていた。オッサンは蒼海の死霊騎士の入団を許可した時に、二人から目を逸らしていたのだが……まさかビビって入団を許可したんじゃないよな、オッサン?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます