第45話 不屈の蒼海の死霊騎士
デュラ爺さんと蒼海の死霊騎士との戦いが始まって十分は経過しただろうか。
その戦いぶりは手に汗握る、どちらが勝つか予想もつかない熱い激闘を繰り広げ…………てはいない。先程から体が持って行かれそうになるほどの衝撃や、百メートルに至るほどの飛沫を上げてはいるが、どう見てもデュラが圧倒的に強い。
蒼海の死霊騎士はひたすらデュラの攻撃に耐えているだけのように見える。
いや、実際そうに違いなのだ。
既に武器の剣は半ばでポッキリと折れてしまい手放している。そして海を操って攻撃しようとするが、デュラ爺さんはそんなものは物ともしない。攻撃手段が何もない蒼海の死霊騎士はデュラ爺さんの猛攻に耐えるしかなかった。
幾度ものデュラ爺さんの攻撃を受け、甲冑は見た目がジャガイモのようにボコボコになっていた。そんな体で逃げようとはせず、デュラ爺さんの攻撃に耐えているのだから涙が出そうになる。
口にはしないが、正直心の中で蒼海の死霊騎士を応援している。
それに……。
「そんなものか、貴様の力は? もっと俺を楽しませろぉ!」
誰やねん! と思わずツッコミたくなるほどにデュラ爺さんが変貌していた。どうやら、漆黒の甲冑を纏うとあのような人格になってしまうらしい。元々こんな感じの人だったのだろうか……。
「はっはっはっ! なかなか丈夫な玩具だが、丈夫なだけではつまらぬぞ! もっと遊ばせろ! 楽しませろ! 喜ばせろ! 驚かせろ! 血が沸き立つような興奮を、快感をくれよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
おい、本当に誰だよあの狂人は!?
あれ、元の爺さんに戻るのかな……。
あのまま狂ったままだと正直一緒に居る自信はない。ただ、そんな心配をしているのは俺だけのようで、宙に浮いた黄金色の光を纏った船に居る他の団員達は……。
「なるほどぉ! あのモンスターの封印に巻き込まれたという事かっ!」
「ああ、来てくれて助かったよ。まさかあんな海底で封印されるなんて思いもしなかったからな」
「うーん……周囲の生命を強制的に封印するのかなー? ユーリはー、蒼海の死霊騎士の最後って知ってるー?」
「詳しくは知らない。ただ海底に封印されたとしか……」
「周囲のものを封印しようとするなら、封印が解けたのはもしかするとデュラの首のせいかもしれんなっ! あまりの強大な力に抑え込めず、封印の力が壊れてしまったのだろうっ!」
「そうかもー」
「「へー」」
いつの間にか封印されていた男性団員を回収して談笑していた。最初はデュラ爺さんと蒼海の死霊騎士の戦いを見ていたのだが、三分ほどで興味が失せたらしい。
おいおい、あんなに蒼海の死霊騎士が頑張っているのに……薄情な奴等だ。
俺は応援してるからな! 頑張れ、蒼海の死霊騎士! 一撃くらいデュラ爺さんにくらわせてやれ!
だが、勝負の世界は非常なものだ。
デュラ爺さんの猛攻に耐え切れず、両腕を交差させて剣を受け止めた瞬間に両腕が砕けた。肘の部分から先が砕けてしまうが、中に肉体が入っている訳ではなく血が流れ出る事はない。だが、血の代わりに黒い靄が砕けた腕の先から流出する。
海面に膝をつく蒼海の死霊騎士……腕が砕けるのと同時に、心も折れてしまったのだろうか。そんな姿を見て、俺はとうとう船のへりから身を乗り出して叫ぶ。
「おい! 蒼海の! お前それでいいのかよ! 折角封印が解けたっていうのに、すぐに死ぬなんて! お前の人生そんなんでいいのかよ! 諦めんなよ! 最後まで抗えよっ!」
「貴様はどっちの味方だっ! お前も青いのと一緒に殺してやろうかぁ!」
蒼海の死霊騎士にとどめを刺そうと正面に立っていたデュラ爺さんが、怒声を上げてこちらに顔を向けて来た。
「……………………」
「ビビるなよ、何か言い返せよ」
「いや、無理。怖いだろ……何あれ、本当にデュラ爺さん? 甲冑脱いだら絶対中身違うだろ? 本物は海底に沈んでんだよな、きっと」
封印から解かれた団員に言い返せと言われるが無理だ。断言しよう。言い返した瞬間に首と胴体が離れる。間違いない。あの農家のおじさんっぽいデュラ爺さんを返して欲しい。
いや、謝るから……敵を応援した事、謝るから。だから、こっちを睨みつけないでくれよ。でもさ、向こうも封印解けたばかりだし、俺達が何か被害受けた訳じゃないしさ……それぐらいにして…………んん?
俺は必死にデュラの視線から逃れようと、逸らしていた目をデュラ爺さんへと向けた。正確には少しずれた位置。
俺の視線の先には、心が折れたかと思われた蒼海の死霊騎士が立っていたのだ。
だが、檄を飛ばした俺が言うのもなんだが、これ以上戦えるとは思えなかった。
両腕は砕けてしまい失っていて、甲冑の所々に皹が入っている。身動きを少し下だけで、甲冑の皹が広がり、ボロボロと甲冑の一部が海面へと落ちていく。
「ほおっ、立ち上がるか! 見事だなっ!」
「本気のー、デュラお爺さんを相手に凄いわねー」
気付けば俺を挟み込むように、二人が立っていて興味深そうに蒼海の死霊騎士を見ていた。そしてマヤが博士に一つ提案をする。
「博士、少し手を貸してみないー?」
「それは…………面白そうだな!」
「ケルベロスのー言葉に奮起した様子を見るとー、理性がない訳ではなさそうだしねー」
「ああ! そうと決まれば…………よしっ! マヤくん、こんなのはどうだ?」
「ふむ…………なるほどー、それでいきましょー」
マヤが言い出して、博士がその話に乗って彼女に何か提案をする。そして二人の方針が決まったようだ。仲間が戦っている相手を応援するのはどうかと思うが……いや、俺も蒼海の死霊騎士を応援しているけども。
この二人が支援するとなると…………果たしてどうなるのだろうか。
デュラ爺さんは蒼海の死霊騎士が再び立ち上がった事に気付き、少し後退して向き合って愉快そうに笑っていた。
「はっはっはっ! よくぞ立ち上がった! そうでなくては面白くない! さあ、まだまだ俺を楽しませてくれっ!」
「…………」
デュラが嬉しそうに剣を構え、蒼海の死霊騎士は無言でやや腰を落として半身になって臨戦態勢に入る。海流を操っているのか、蒼海の死霊騎士の足下の海面が荒れているように見えた。
満身創痍の状態で、圧倒的な力の差があるデュラとどう戦うのか。
そして、博士とマヤはいったい何をしでかすのか。
ユーリと救出した男性団員は再び観戦を初めて、蒼海の死霊騎士がどれだけデュラと戦っていられるか賭けを始めていた。意外とお金を持っているようでかなりの額を賭けているのに、一気にそちらに意識を持って行かれる。
だって家が買えるくらいの額が飛び出して来たのだから、そりゃ意識の一つや二つ持って行かれても無理もないだろう。不老不死の貯金は侮れない。
「よしっ! やるぞ!」
「はいー」
「え?」
次の瞬間、蒼海の死霊騎士の足下に魔法陣が出現して白い光が包み込む。
いったい何が起ころうとしているのか。そして、なぜ俺の足下に同じような魔法陣があるのか。
「おいっ! ちょっと待て! 何これ? 何が起きてるの?」
「博士、こっちは大丈夫よー」
「調整するから少し待てっ!」
「貴様、何してるんじゃっ!」
いつの間にか博士が船から消え、蒼海の死霊騎士の体に触れて何かをしていた。デュラ爺さんは怒りの声を上げている。博士もろとも斬り捨ててやろうかと思えてしまうほどの剣幕だ。一方で何かをされている蒼海の死霊騎士だが、意外と大人しい。
というか、突然現れた博士に困惑して動けないように見える。
蒼海の死霊騎士が何もしないのを良い事に、複数の魔法陣を体に描いていく。
「……ふむ、元々が同じ人の魂……だから可能か? よし、ここにも……これでよしっ! マヤくんっ! こちらも大丈夫だっ! さあ、始めようじゃないか!」
「はーい、それじゃあ魔法を発動しますー」
「なあ、だからどうして俺の足下にも魔法陣があるの!? って、のおおっ!?」
突然襲い掛かる浮遊感、そして船を飛び出して蒼海の死霊騎士に向かって飛ばされてしまう。何が起きてるのか、どうなってしまうのか……。とりあえず、このままでは蒼海の死霊騎士と衝突する。
ぶつかる、そう思った瞬間だった。蒼海の死霊騎士がばらけた。
「はあっ!?」
とどめを刺しちまった!?
そう思ったが、どうやら違うらしい。ばらけてしまった甲冑の体は海面に落ちる事なく、宙で止まっていた。そして再び一つになろうと集まり出す。なぜか、俺の方に。
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