第24話 ケルベロスはご乱心!

「な、何だ!? 一人で突っ込んで来たぞ!?」

「イモータルの奴か? いや、あんなの奴等しか居ないだろ! 一人で乗り込んで来る奴なんて!」


 すぐにイモータルの団員であると瞬時に断定されてしまう。イモータルなら一人で乗り込んで来ても不思議ではないのか。いったい普段はどんなふうに戦っているのやら。


 後ろで控える団員達をチラリと振り返りながら俺は溜息を吐く。


 俺をイモータルの団員と同様な存在と認識しないで欲しい。俺は新入りだし、そこまで不死身の考え方に染まり切っていない。だからさ、平和的に解決すべきだと思うんだ。血生臭い争いなんて嫌だろ? 痛い思いはしたくないだろ? 死にたくないだろ? 俺も同じ思いだ。だからさ、お互い武器なんて捨てて……。


 次の瞬間、俺の両手に持つ筒の魔道具ガンが火を噴いた。結果、敵兵の二人の胸に穴を開け絶命させる。


「アレックスゥゥゥゥゥゥ!」

「エレェェェェェェェェン!」


 近くに居た兵が絶命した二人の名前か、悲痛な面持ちで叫んだ。


 ……いや、その…………俺は悪くない。パペットくんのせいだから。勝手に指を動かしてトリガーを引いたんだよ。あと、このガンという魔道具、引き金を引くと魔力を自動的に吸い上げる仕組みになっているようだ。だから俺は悪くないけど……何というか……ごめんね。


 二人を殺した事で一段と敵兵の向けて来る殺意が強くなる。


「畜生! あの野郎、よくもやりやがったな!」

「アレックスとエレンは、この戦いが終わった後に結婚するつもりだったんだぞ! お互いの両親にようやく理解を得たというのに!」


 今、殺してしまったアレックスとエレンは恋仲だったそうだ。

 

 なるほど、愛し合っている二人が、こんな戦場で肩を並べていたと……。


 殺してしまった罪悪感がまるでないな。ちょっとはあったけど、カップルと知った途端に失せてしまった。断じて恋人の居ない事による嫉妬ではない。それよりも戦争だ。戦争をしよう。え? 急にやる気になった。いやいや、そんな事はない。俺は新入りでも傭兵だ。戦う事こそが俺の生きる理由だ。よし、じゃあやるか。


「カップルを優先的に殺すっ!!」


 俺がやる気になったからか、パペットくんによる操作は解除されて自由に体を動かせるようになった。今なら逃げられるかもしれないが、もはや逃げるなどという選択肢はない。


 ようしっ! 一組でも多くのカップルを殺してやるぞ!


「オラァ! カップルは何処じゃ!戦場で乳繰り合う不埒者共、出て来いや!」


 ガンを連射しながら敵へと突っ込み、周囲に無差別で魔力の弾丸を放つ。魔力の弾丸は鎧くらいは貫通できる威力を持っていて、こちらに近付こうとする敵を次々と倒す。


 接近されて掴まれると厄介だ。パペットくんによる身体能力の向上で、素手でもやり合えるかもしれないが、できるだけ避けたい。


「くっ、ジェシー退がれ! 奴は危険だ、ガフッ」

「ジョゼフゥゥゥゥゥゥ!」

「リア充狩りじゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 そしてリア充臭がすると、そちらへの攻撃も忘れない。見逃してなるものか。


「盾だ! 盾を持っている奴が前に出ろ! それと防御系の魔法を使う奴もだ! その後ろから奴に魔法を撃ち込め!」


 敵兵の中で身分の高そうな男が指示を出した。

 その指示は的確で、魔力の弾丸は盾や魔法によって防がれてしまい、逃げ出す穴がまるでない包囲網が完成した。


「よし! 魔法を放て! 奴を徹底的にズタボロにするんだ! 動けなくなったところを細切れにしろ! そうすれば、いくら不死身でもすぐには復活しないはずだ!」


 それは嫌だ。そっちは簡単に死ねるかもしれないが、不死身だと完全に傷が治るまで激痛にずっと耐えないといけないんだぞ。


 リンチ、というかミンチにされない為に、使いたくなかった手段を取る事にする。

 右手のガンを手放して、代わりに赤いドッキリボールを掴み取った。


「オラアッ!」


 そして指から離れる直前に魔力を込めて敵へと投げた。身体能力が強化されており、また指から離れる直前で投げた事で効果が発揮されるまでの猶予が一秒しかなくても自分から充分離れたところまで飛んでいき…………轟音を立てて爆発した。


 盾と盾の僅かな隙間を抜けて爆発し、近くに居た者は爆散。少し離れていた者は爆風によって吹き飛んだ。その余波は俺のところまで来た。


 熱風が襲い掛かって来て、踏ん張れなかった敵兵が飛んで来る。それを避けるなり、左手に残っているガンを使って殺していく。


 突然の爆発に、巻き込まれなかった兵達は唖然として居たが、すぐに先程から指示を出す男が立ち直す。


「あ、あの球を投げさせるな! 筒を一つ手放した今が好機! 突っ込め! 投げさせるな!」


 ガンを一つ手放した事、球が危険な事から再び剣や槍を持った兵が向かって来た。


 だけど俺には、まだ魔道具がある。


「っ! か、体がっ!?」

「動けないっ!?」


 冠の魔道具、ビリビリくん。半径三メートル以内に近付いた者を三秒動けなくする。

 動きが止まった敵を魔力の弾丸で仕留めながら、ビリビリくんの有効範囲を気付かれない内に紫のドッキリボールを掴んで自分の足下に投げつけた。直後、自分を中心に紫色の煙が広がっていく。


「煙幕か! 逃すか!」


 ただの煙幕と思った兵は煙を気にせずに向かって来る。


「何処だっ! ぐうっ!? な、何だ、体が動かなく」

「く、苦しい……」

「気持ち悪、い……ぐはっ!」


 毒煙を吸い込んだ兵が次々に倒れていく。ようやく異常に気付いて煙から近付かないようになる。


 その隙に手放したガンを拾って、煙の中から適当に魔力の弾丸を放つ。敵の姿はまるで見えないが、どうせ取り囲まれている。その場でクルクル回転しながら撃てば当たるだろう。


 ただ、呼吸を止めているのは辛い。自分で使っておいてなんだが、この煙はいつになったら消えるんだろうか。その場でクルクル回るというのも単純だが、無呼吸で体を動かすのは辛いのだ。


 …………………………すうっ。


「ゴホッ! ゲホッ!」


 耐え切れなくてちょっと吸ってしまった。この毒は確かにヤバい。少し吸っただけで体に力が入らなくなってしまい、膝をついてしまう。魔力を込め続けるというのも難しく、冠のビリビリくんは一時解除する。どうせ毒煙が立ち込めている間は近付いて来る者は居ないだろう。


 幸い吸った毒の量は少しだけだったので、その症状は軽くなっていく。念の為、茶と青のドッキリボールを使って時間を少しでも稼いで休もうか。


 そんな事を考え、ドッキリボールに手を伸ばして掴んだところで荒々しい足音が聞こえた。こちらに近付いて来る。

 咄嗟に掴んだドッキリボールを手放して、力の入らない体に喝を入れてガンを向けて放つが、盾に防がれたらしい弾丸が弾かれる音がした。そして現れたのは敵兵の中で指示を出していた男。呼吸を止め、盾を構えながら毒煙を突っ走って来たようだ。


「首を刎ねれば少しは動かなくなるだろうっ!」

「っ!? げほぉっ!!」


 男は俺の首を目掛けて剣を振るって来る。

 参った……まさか毒煙の中に突っ込んで来るとは思わなかったので、驚いてかなり煙を吸ってしまった。


 その為、ビリビリくんへ魔力は込められないし、体に力も入らないのでガンを使う事もできない。

 ダンの訓練で首を刎ねられた事はあるが、あれは辛い。胴体を上手く動かせなくなるし、首だけだと受け身も取れないから地面にまともにぶつかってしまって痛い。それにダンにはされなかったが、もし首だけを回収されてしまえば悲惨だ。視界があれば胴体はなんとか動かせるが、首が離れて視界を失えば胴体が無傷でも戦闘なんてできない。実質戦闘不能の状態だ。


 こうなったら刎ねられた首をなんとか胴体を動かしてキャッチして逃げよう。毒を吸って、そこまで機敏に動かせるかは怪しいが、それしかない。


 自分の首を絶対キャッチする。

 そう決意して俺は自分の首を刎ねられるのを待った。

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