第22話 ケルベロスの戦支度
それから博士により、俺は魔道具によって全身をカスタマイズされていく。
何度か「この前、爆発したが理論的には大丈夫なはずだ」などの不穏な呟きがしたので、逃げようとしたのだが、他の団員に拘束された。畜生っ!
「見逃して! 味方に殺されちゃう!」
「いやいや大丈夫だって」
「死なない死なない。不死身なんだから」
「あんたらの不死身だから大丈夫っていう感覚は、見直した方が良いと思う!」
抵抗するが、さすが戦場で働く傭兵達。博士のハンドくんのように折れるほどではないが、いくら手足に力を込めても全く抜け出せなかった。
こうして俺は博士によってカスタマイズされていき……。
「よしっ、準備オーケーだ!」
「…………」
俺は自分の姿を確認して言葉を失った。いや、途中から薄々分かっていた。分かっていたけど、完成するとより強烈だ。
まず頭部には、側頭部の辺りにそれぞれ空に真っ直ぐ伸びた角のような飾りが付いた銀色の冠。
そして腕、足、首に黒い輪っかが服の上から嵌められている。他には右肩から左脇腹、左肩から右脇腹に掛けて交差させているタスキのようなものに取り付けられた手のひらに収まるほどの色の異なる複数の球体。腰には鉈が装備されている。
そして最も特徴的なのは、変わった形の両手に握られた魔道具だ。魔道具の形というものは基本的に指輪やネックレスといった既存するものの形をしている。戦場であれば魔道具としてでなく、武器として使えるように剣や槍の形をしているものだ。だが、この魔道具は独創的な形をしている。細い筒が伸び、持ち手の部分には人差し指を掛けるところがある形。ガンという魔道具らしい。
人差し指が触れる部分、引き金と言い、そこを引く事で魔力の弾丸が筒から発射されると持たされながら説明を受けたが、珍妙な格好にされた事に軽く受け流してしまっていた。
それにしても二本の角が伸びる冠に、細い筒の魔道具。このシルエットは何処かで見た事がある気がする。失った前の世界の記憶かもしれない…………なんだか、六つだったか、八つだったか……お墓の話に出て来るような……髪がぼさぼさの探偵の……。
「さて、それじゃあ一つ一つ説明しよう!」
「お、おう」
博士が装備されたものの説明を始めたので、思い出すのを打ち切って博士の言葉に耳を傾ける。
「まずは冠だが、名前をビリビリくんという。それは敵意を持った相手を一時的に動けなくする魔道具だ。半径三メートルに近付いた者を三秒は動けなくなる」
「おお、それは使えそうだな」
「ああ、ただ敵意を持った者全員が動けなくなってしまうからな。味方でも誰かに敵意を持っていれば動けなくなる」
「使えねえ!」
冠を殴り捨てたくなったが、博士が慌てて俺の腕を掴んで阻止する。
「落ち着けケルベロスくんっ! 大丈夫だ! そこはちゃんと考えているっ! これから他のものも説明するからっ!」
……確かに、この冠の魔道具が使えないガラクタと判断するのは早計か。もしかすると他の魔道具で、解消されるのかもしれないしな。
ひとまず冠をそのままに、博士の説明を最後まで聞く事にする。
「よし、それじゃあ次だ。今度は黒い輪っかだ。これはパペットくんだ。それの機能は単純なもので身体能力を高めるものだ。魔法で身体能力は高められるが、ケルベロスくんは使えないのだろう? だから魔道具で高める事にした」
うん、これはまともなようだ。突飛なものよりも、こういうシンプルな魔道具の方が安全だ。だけど……ちょっと気になるのが、この魔道具の名前だ。普段なら魔道具の機能そのままのを名前に付けるのだが、今回はパペットくんと身体能力強化とはあまり関係なさそうな名前になっている。
少し疑問に思ったが、尋ねるまでには至らず引き続き博士の魔道具の説明に耳を傾けた。
魔道具の説明を博士は引き続き行っていく。
パペットくんのように、まともなものであればいいんだが……。
「さて、そしてタスキ掛けした色の異なるボールだが、魔力を込めて敵に投げて使うものだ。色によって効果が違う。総じて名前をドッキリボールという。まず赤が爆発する」
「爆発!?」
「そうだ。爆発くらいで驚いちゃいけない。もっと凄いものがあるぞ。例えば青だが、これは一瞬で周囲を凍らせることができる。紫は毒の煙幕を発生させる。吸えば全身が麻痺して、やがて死に至る。茶色は半径五メートル、深さ十メートルの落とし穴を作る。他には」
「待った! なんか色々物騒だけど大丈夫だよな? 魔力込めて、すぐ爆発したりしないよな?」
爆発したり、凍ったり、毒の煙が発生したりと物騒な紹介をされて不安になった。そんなものを体に巻いていて大丈夫なのだろうか。何かの弾みで誤作動を起こせばひとたまりもない。
博士は俺の質問に対して鼻で笑う。
「安心しなさい。ちゃんと考えている。魔力を込めてから効果が発揮されるまで猶予を設けている」
「時間?」
「ああ。魔力を込めてから発動するまでに時間が掛かるようになっている。これで問題ないはずだ」
「……時間ってどれくらい?」
「一秒」
「短いわっ!」
何が問題ないだ! 胸を張ってんじゃねえ! あと自信に満ち溢れた顔をするな!
こいつ一秒で充分だと思っているのか? そんな短いんじゃ、魔力を込めるのと同時に投げられたとしても、自分の身が無事かどうか怪しい。
「もっと長く時間を設定しろよ!」
「それ以上だと込めた魔力が外に放出されて、効果が発揮されないんだ」
「じゃあ完成させるな! 一秒じゃ発動した時に投げた当人も巻き込まれるだろ!」
「大丈夫だ。不死身なのだから、回復する」
「不死身だから大丈夫的な思考を一度改めてくれ!」
一般人が使う事を想定して作ってくれよ……。
この魔道具、ドッキリボールは駄目だ。赤のドッキリボールを使えば、下手をすると目の前で爆発してしまうし、青を投げれば自分が凍ってしまう。
ドッキリボールは絶対に使用しない。敵と戦うよりも、自分の身が危険だ。
「ドッキリボールはいいから。鉈の魔道具の事を詳しく説明してくれ」
「んん? まだドッキリボールは黒と銀が残ってるぞ?」
「こんな危ないもの使ってたまるか! いいから鉈と筒を!」
俺がそう言うと、博士は渋々だが鉈の魔道具の説明を始める。
「これはスラッシュくん。魔力を込める事で、風魔法が発動して斬れ味が良くなる」
「……それだけ?」
「それだけではないぞ!」
だよなー。
博士の目が何かを言いたそうに訴えていたので、それだけでない事を薄々感じた。正直、斬れ味が良くなるぐらいで留めて欲しかった。きっと機能を追加した事でリスクがあるに違いない。
「この鉈は斬れ味が良くなるだけではないんだ! 風魔法によって自身を加速させる! 複雑な動きはできないが、直線的な移動であれば敵は動きを捉える事はできないだろう!」
と、それだけなら良いが、それだけで終わらないのが博士だ。
「加速が制御できるかは、ケルベロスくんしだいだ。ちなみにユーマくんも使ったが、見事に加速を制御できずに岩にぶつかって木っ端微塵に」
「返却します!」
博士、いい加減にしろよ! どれだけ加速するんだよ、ちゃんと使えるものを作ってくれ!
俺は腰の鉈を外して返そうとするが、再び博士に腕を掴まれる。
「いいから! 持っておきなさい! 大丈夫! 大丈夫だから!」
「死なないから大丈夫って言うんだろ! それ大丈夫じゃないからな!」
こんな物騒なものは外して……くそっ! ジジイ、意外と力があるな! 掴まれた腕が動かせない! なら、早速パペットくんで身体能力を高めてやる。
そう思った時だった。敵の様子を見張っていた兵から張り詰めた声が響き渡る。
「敵が動いたぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
その途端、緊張が走り慌ただしくなる。
いよいよ戦いが始まるのだ。さすがに博士と押し問答をしている場合ではない。ここは俺が折れて鉈は持って行こう……魔道具の力は使わないようにすればいいんだ。
俺は初陣の緊張からか、ガンを握る手の力を強めていた。
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