第14話 イモータルの良き悪友
ユーマとのおっぱい談議に花が咲き、話は盛り上がり……激化した。
「だから、おっぱいは感度が大切っしょ。触れた時の感触も良いけどよ、その反応が良いだろ? 通常時よりも少し高く『あんっ』なんて言われたら一気に猛るわ」
「いやいや、おっぱいに大切なのは形だ。おっぱい単体だけでなく、ボディに合っているかというのは大切だ」
と、互いにおっぱいは何が最も重要かを言い合った。そして見事に主張が異なる。
「確かに見た目は大切だけどさ。最終的にはやっぱ感度っしょ」
「おいおい、それはおっぱいに限っての事じゃないだろ?」
「ああ? そんなら、お前だっておっぱいだけを見てる訳じゃねえだろ? お前は相手の容姿が良いかどうかじゃん」
「違うね。あくまで、おっぱいだ。おっぱいあってのボディだ。おっぱいがなければ、それだけで魅力が半減だ」
「おっぱい、おっぱいって…………これだから女を知らない童貞は」
「どどどど童貞かどうかなんて分らないだろ! 経験あったとしても記憶がないから俺自身分らないけどさ!」
そ、そうだ。童貞かどうかなんて分からない。俺自身も分からないが、この俺の聖槍が未使用な訳………………ない! きっとない!
「いいや、その見た目だけで満足するような発言からして童貞っしょ」
「違う! ……と思いたい」
「断言する。お前は童貞だ。ロリコンだと思っていた時よりも自信があるよ。ケルベロス、お前も女を知れば感度が大事って事が分るさ」
……そこまで断言されると自信がない。
ロリコンかどうかは自信を持って否定できるが、童貞である事をはっきりと否定する事ができない。昔の俺よ、童貞じゃないよな? なんだか、自分でも童貞ではないかと思い始めたんだけど……くうっ、大事な事だ。これは是非とも思い出さなければいけない!
「まあ、俺が今度娼館にでも連れてってやんよ」
こ、こいつの上から目線がムカつく……。
そんなに女を抱いていると偉いのか? そんな事で格差が生まれるなら、いいぞ戦争だ。童貞を率いてヤリチン共を殲滅してやるよ。ただ、その前に決着をつけないといけない事がある。
「俺達がしているのはおっぱいの話だ! それに女を抱いてばかりいるから、お前はおっぱいの本質を見失っているんだ!」
「本質を見失ってる? はっ、童貞におっぱいの本質が分るのかー?」
「だから童貞と決まった訳じゃ」
「いーや、童貞だね!」
「違う」
「童貞にしか見えねー」
「その目が腐ってる」
「会話が童貞丸出し」
「その耳と頭が腐ってる」
「……もう存在が童貞だ。オプションにロリコンも付けるか」
「……チ○コ腐れや、ヤリチン野郎」
「んだと!?」
「ああん!?」
一触即発の殺伐とした空気が俺達の間に流れる。
よし、今ここで一人のヤリチン野郎を殺してしまおう。少しでも童貞サイドが有利になるように。
ヤリチンでもユーマは一応傭兵だ。真っ向勝負を挑めば簡単にやられる。ここは虚を突いて倒さないとならない。さて、どうしようか……と頭をフル回転させて策を練っていると扉を乱暴に叩く音がした。
「おーい俺だ! ユーマ、ここにケルベロスは居るかー!」
この声は確か新人教育担当のダンだ。
サラから聞いたのか、どうやら俺を訪ねてきたらしい。
「……この話は一旦やめるか」
「ああ、また後でやろう。絶対に形が大事って分からせるかな」
「お前、おっぱいへの執着心が凄まじいな。まあ、望むところだ」
俺達は一度おっぱい論争をやめ、ダンを中に招き入れる事にした。
「居るぞ、入れー」
ユーマから許可が出ると、ダンは筋骨隆々の体を少し縮こまらせながら部屋に入って来た。そして俺を見るとニカッと笑みを浮かべる。
「おうっ、昨夜振りだなケルベロス。まったく、お前の歓迎会だというのに早々に退場するなんて情けない」
「いや、俺の意思じゃないからな。強制退場だから」
副団長のユイカに建物が壊れるほどの勢いで投げられたせいであり、それにあれは俺の歓迎会と銘打った、ただの飲み会だ。俺の退場後も酒を飲み続けていたのが、ダンの体から漂う酒の匂いで分かる。
「それよりも俺に何の用だよ」
「ああ。俺の仕事をしに来たんだ」
「仕事?」
「ああ。俺の仕事、新人の教育だ。お前を傭兵として働けるように訓練してやろうと思ってな。今日と明日は戦場には行かないし、ちょうどいい」
「ちょうどいいって……」
突然傭兵の訓練をすると言われて困惑する俺にダンは諭すように続ける。
「タロスが間違って投げちまったから不死身になったのは知っているし、暫くは仕事をさせないのも知っている。だが、早い内に傭兵の仕事には慣れておいた方がいい。特に俺達のような不死身は酷く警戒されるからな。いきなり戦場に行ったら、確実に滅多刺し、あるいは滅多切り……少しでも戦線復帰を遅くさせようと燃やされる」
い、いやいや、敵味方が入り混じる中でそんな手間暇をかける訳が……ないと思ったのだが、横にいるユーマを見ると青い顔をして震えていた。
顔から血の気が引いて青褪めているユーマに、俺は恐るおそる声を掛ける。
「お、おい、どうしたユーマ?」
「て、手足がききき切られて、槍で地面にぬぬぬぬ縫い付けられ、魔法使いが何人も俺を囲んで、火魔法や雷魔法でででででで」
「経験済みなんだな!?」
「あー、そういえばユーマは訓練を受けずに戦場に放り込まれたんだよなー」
「ど、どうしてそんな無茶を?」
「いや、入りたての時に女性団員にナンパばかりしていてな。それでユイカが激怒して、『女を口説く前に、敵の一人でも殺してこい!』と問答無用で戦場に。しかも、戦場でもこんなアクセサリーをジャラジャラ付けているから目立ってなー。あれは良い的だった」
何だ、自業自得か。少しでも可哀そうと思ってしまったのが馬鹿らしい。
「まあ、そんな事にならないように早くから訓練はしておいた方がいいと思った訳だ。どうだ? まあ、体格を見たところ、そんなに鍛えていないようだし、初歩から優しく鍛えてやるからよ」
いつかは傭兵として戦場で戦わないといけないんだし、ユーマのような悲惨な目に遭わない為にも早くから訓練をした方がいいのかもしれない。
決心して俺はダンに頭を下げた。
「それじゃあ訓練の方、よろしくお願いします!」
「おう! 任せとけ! それじゃあついて来い!」
部屋を出て行くダンの後を追い掛ける。
ユーマは未だにトラウマから立ち直れないのか、青い顔をして震えていたので何も言わずに放置する事にした。戻って来て立ち直っていたら再びおっぱいに関して議論しよう。
「ユーマはあんな感じだけど戦場で戦えるのか?」
ダンの後を歩きながら俺は部屋に残ったユーマの様子を思い返しながら訊いてみた。戦場であんなふうになってしまえば、敵からしたら今も良い的だ。
「ああ。まあ今回は当時の事を思い出させるような事を言っちまったから、あんなに酷いんだ。戦場では普通に戦ってるぜ。それに後方から魔法を放つのが、あいつの戦法だからな」
「へー、そうなのか。てっきり、動けなくなって敵の良い的となる事で攻撃を一手に引き受ける役割なのかと思った」
「いや……さすがに不死身でも団員にそんな酷い事はさせないぞ」
「でも、人間投擲も酷くないか? あれ着地どうするんだよ」
タロスに投げられた時、とてもじゃないが足から着地なんてできない勢いだった。仮に空中を移動しながら、足で着地できるように体勢を変える事ができたとしても、着地した瞬間に足が潰れる。折れるじゃない。潰れる。
「あれは慣れだな。俺くらいになれば衝撃を逃しながら着地して、すぐに敵に向かって行けるぜ。まあ、そんな事ができるのは極一部で、大抵は魔法や魔道具で上手い具合に着地するんだよ」
良かった。魔法や魔道具といった着地を補助してくれるものがあるのか。ダンのようなやり方だけだったら、どうしようかと思った。着地する際の衝撃を逃がす技術を会得するだけで何年も掛かりそうだ。
不死身だからといってそんな無茶はさせないのだと、良心的なところが少し見えてイモータルという組織に対して安堵する。
「そういえばよ、ちょっと部屋に入る前に気になったんだが……」
「ん?」
「いや、部屋の中から殺気を感じ取ってな。いったい何をしていたのかと思ってな」
「殺気?」
ダンが入ってくる前というと…………ああ、童貞を率いてヤリチン共を抹殺しようかと思った時か。確かに俺は殺気立っていた。というか部屋の中の殺気を感じ取れたな。常に殺気に晒される戦場での経験があるからこそだろうか。
「いや、ちょっと意見の食い違いで熱くなってしまって」
「食い違い? どんな事を話していたんだ?」
「おっぱいで最も重要な事は何か、です」
もしかするとダンは俺やユーマよりは長い時を生きてきた男だ。この重大なテーマの答えを持っているかもしれない。そんな期待を抱きながら素直に答えた。
「おっぱいで最も重要な事は何か、か……」
歩きながらダンは口を閉ざして少し考える素振りをするが、僅か数秒の沈黙の後に口を開いた。
「吸い心地だな」
「…………」
吸い心地と答えたダンの背中が少し大きく見えた。
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