第10話 博士とマヤの最悪コンビ
……あー、また気を失っていたのか。タロスに投げられた時からカウントすれば三回目だ。
これまでは目が覚めて、自分の身に何が起きたのか咄嗟に分からなかったが……慣れかな。こんな事に慣れるのは嫌だ。
もしかするとフェルが居るかもしれないと思いながら、そっと目を開ける。
「目が覚めたかねぇ! ケルベロスくんっ!」
「…………」
目が覚めるとハイテンションなジジイが居た。薄汚れた白衣を着た、ボサボサな髪の毛でやや清潔感に欠ける。デュラの爺さんと比べると、こちらの方が若そうだが、目覚めた直後に人を不快になるのは断然こちらのハイテンションジジイだ。
それにしてもイモータルの個性豊かな面々と出会ったと思ったが、まだこれほど強烈な団員が居たのか……。団員のバリエーションの豊富さに呆れながら、二度寝をしようと目を閉じる。
「おいいいいいいっ! 君が目覚めるのを待っていただぁ! 寝るなぁ!」
「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
ジジイの顔が近距離に!? 鼻と鼻がごっつんこしそうだよ! しかもジジイに瞼を押さえられて目が閉じる事ができないぃ! 激しく不快だ! 心臓に悪い!
俺はジジイの手を払い除けて立ち上がる。
「ジジイ、お前は何なんだ!」
「んんんっ? ああ、そうか名乗ってなかったな。ワタシは博士! 不死身となってからはそう名乗っていて、魔道具開発担当をしているっ!」
博士? それって記憶を取り戻せるかもしれない一人……そして暴走した時には街一つが吹っ飛びかねない危険人物…………よし。
「さよならっ!」
「何処へ行こうというのだね?」
俺は部屋から飛び出そうと扉に向かったが、博士は魔道具と思われる杖が握られていた。その杖には大人の人間ほどの大きさの手が取り付けられており、それががっちり俺の腕を掴むと杖が短くなっていき博士の方へと引き寄せられる。どうやら伸縮自在らしい。
「はっはっは! 私の開発した魔道具、ハンドくんはどうかね? 使用者の意思に従って手は自由に動き、消費する魔力量で伸びる長さが変わって来るのだよ。難点は握力の加減が難しくてねぇ」
「だよね、掴まれた時にゴキッて鳴ったよ。もうブランブランしてる」
ハンドくんに掴まれた腕は骨折していた。この短期間で建物に投げつけられたり、窓を突き破って落ちたりと痛みに慣れていなければ、痛みで叫んでいる事だ。
「ああ、だからイモータルの団員にのみ使っている」
「いや使うなよ!」
「治るからいいだろう?」
「痛みはあるからな! お前も分かるだろ!!」
「痛みくらい別にいいではないか。死なないのだし。それに、こうして開発して実際に使う事で新たな魔道具のアイディアが浮かぶのだ」
……駄目だ。やっぱりこジジイから逃げないと。このままだと記憶を取り戻すという名目で魔道具の実験に付き合わされる事になりそうだ。
だが、ハンドくんは未だにガッチリと腕を拘束していて、引き剥がそうとするがビクともしない。俺がこの場から逃げるのは無理そうだ。そうなるとサラ、もしくは他にジジイを止められる人が来るのを祈るしかない。
誰かっ! 来てくれ!
閉められた扉を見ながら俺は祈った。
そして、その祈りを神様は聞いていてくれたのか、ドアノブが回り、扉がゆっくりと動き出す。
誰か来てくれた! 助かった! この状況を最も打開してくれそうなサラではないかと期待したが、入って来たのは見知らぬ女性だった。俺と同じぐらいの年頃で、紺色のローブを着ている。
「あらー、博士もいらしてたんですねー」
間延びした声を発しながらニコニコと穏やかに微笑む女性。おっとりとした雰囲気を醸し出していて、安心感を覚える。覚えるのだが……。
どうしてだろう、嫌な予感がするのは……。
「おや? マヤくんではないか。君もケルベロスくんを?」
「ええー。記憶喪失を治せるような魔法が、幾つか思い当たるものがあるのでー。あ、申し遅れました。私、魔法戦闘担当のマヤと申しま……あら? ケルベロスさん、どうしました? 顔色が悪いですよ?」
彼女が、マヤなのか……。
記憶を取り戻せるかもしれないが、暴走すると街を一つが吹っ飛びかねない危険人物マヤ。そして博士。
揃っちまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? 混ぜなくても危険そうなのが揃っちゃったよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!
だ、大丈夫なのか? 最悪俺は死なないから大丈夫だ。でも、サーザンがマズいんじゃないか? 滅ぶんじゃないか? お、俺、知らないよ。逃げたくても逃げられないもん。こいつらを放置したイモータルのせい、ひいては団長のオッサンのせいだ。俺は知らない、どうにでもなれ。
俺は流れに任せる事にした。もう知らん。
だが、博士はハンドくんや言動でいかにもマッドサイエンティストという感じがして危険だと分かるが、マヤからはあまり危険という印象がない。
まあ、それでも嫌な予感がビンビンするが……。
博士は興味深そうにマヤに記憶喪失を治す魔法について尋ねている。
「ほう、記憶喪失を治す魔法というものがあるのか?」
「記憶喪失を治す、という直接的なものではないんですがねー。記憶喪失となった原因が呪いや、精神的なものであるのなら、解呪魔法や心癒魔法でどうにかなると思ったんですが…………どうやらそれらが原因ではないようですねー。まあ、他にも方法はありますのでーやってみましょうかー」
「他の方法というと?」
「古来からの伝統な方法ですー。強い衝撃を与えて治す、ショック療法をー」
「ほおっ! ワタシも同じ事を考えていたんだ。魔道具も案外叩くと治る事が多いからな。同じように物理的なショックを与える事で治るのではないかと思っていたのだ!」
「そうなんですかー? じゃあ、どういった衝撃が効果的かを少し考えてみましょうか」
「そうだな、ワタシは叩いて治すのが効果的ではないかと思い、これを用意した」
「それはー、金槌ですかー?」
「見た目はな! 勿論、魔道具だ! その名もドンドン君! これは魔力によって対象に与える衝撃を増す事ができるのだ。見ておれ(ドゴン! ミシミシッ、ガラガラガラッ!!)…………どうだ!」
「おおー。軽く叩いただけなのにー、壁が崩れましたねー」
「そうだろう。これで頭を叩けば、おそらく戻るだろうと私は考えている。マヤくんは?」
「私はですねー。窒息魔法を使おうかとー」
「窒息魔法? ふむ……悪いが、少々与える衝撃が弱過ぎではないか?」
「はいー、博士のおっしゃる通りですねー。でも、博士の魔道具で充分ショックは与えられると思いますのでー。私は別の方法を取ろうかとー。ほらー、人って死に掛けると走馬燈を見るじゃないですかー。走馬燈が見れれば、これまでの自分の生い立ちが見られて記憶を取り戻すんじゃないかと。意識を失いそうになったところで魔法を解除。走馬燈が見えていなければ再び窒息魔法を。この方法であれば、意識を取り戻す時間や、傷が治るのを待たずに何度もできますよ」
「おおっ! 確かに、それなら無駄な時間を省けるなっ!」
「はいー。まあ、確かに衝撃は弱いかもしれないのでー、適度にドンドンくんを使いましょうかー」
……流れに任せようと思ってたけど、目の前で繰り広げられているのは拷問の打ち合わせだろうか? もしくは、こんな事をされたくなければ記憶を取り戻せという強迫なんだろうか。
どちらにせよ、こいつらはヤバい。
ジジイもヤバいが、マヤもヤバい。
サラはイモータルの中でも大人しい部類と言っていたが、彼女の言った大人しいというのは容疑者の人柄について訊かれた時の発言のようなものだろう。
限りなく危険だ、こいつら。
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