第16話 見つけた
麻子の震えが止まらないのは先程の出来事や、手のひらから噴出した魔法のせいかもしれませんが、現実問題としてここは寒いのです。ビューレ山脈というのがどこなのか知りませんが、周りにある木が背丈の低い高山植物のように見えることから、高い山であることは間違いないようです。
それに一人ぼっちになったことで余計に寒さが身に染みてきました。
ガチガチと歯を鳴らしながら、麻子は考えました。
まずは身体を温めなきゃ。それからマクスを探し出す!
麻子が最初に想像したのは、マンガで見た、髪を逆立てて火の球になって飛んでいく戦う人たちのことです。
「ウウウウウァァァァアアアアア!!!」
力を入れて自分の周りに火の球を想像すると、麻子の身体の周りが青白く光り始めました。髪も金色に変わりましたが、マンガの登場人物ほど逆立ってはいないようです。
ホッ、これで少しは温かくなったみたい。
次は飛ぶのね。どうやるのかしら? まずは地面から浮かぶことを想像する?
すると重力に逆らって、自分が地面から浮いて行くのがわかります。
本当に魔法使いになったんだ。
下の地面を見ると車酔いのようになりそうだったので、遠くの山々を眺めながらぐるりと四方をサーチしてみました。
すると北東の方角に気を引かれる感じがありました。
どういったらいいのでしょう、とにかく何か気になるという感じがしたのです。
「あっちに、マクスがいる!」
麻子は引力にひかれるように、高い空の上をものすごいスピードで飛んで行きました。
その時、洞窟では、リーンが麻子の想像力に目を丸くして驚いていました。
ピンクのスキーウェアを着た26歳の麻子は、大人しい恥ずかしがり屋の女性に見えたのです。それが一気に戦闘モードに変わったかと思うと、ここの世の人間では考えつかないような方法で飛び出していってしまいました。
「あちらの世の人間は、どんな発達のし方をしたのかしら? 魔法がない世界だと思っていたけれど、使い方を知ってるじゃない」
フフッ、でも、これで一安心ね。
後は
リーンは久しぶりにゆったりとした気持ちになれたのでした。
◇◇◇
麻子が引かれるままにやって来たのは、大きな屋敷の上空でした。
背後には湖が点在する林が広がっています。屋敷に隣接した奥の離れの方から気になる波動が伝わってきました。
「あそこの建物ね」
でも建物の入り口の辺りには、腰に剣をぶら下げた警備兵のような人たちが五人ほど見えました。
体育の授業が嫌いで、スポーツなどしたことがない麻子には、テレビで見たような変身もののヒーローたちのような戦闘はできそうにありません。
うーん、とにかく見つからないことが肝心ね。
麻子は身体を透明にすることにしました。手や身体が透けて向こうの景色が見えていることを確認すると、徐々に高度を落として、音を立てないように兵士たちの前に降りました。
二人の兵士はちゃんと扉の両側を守っているようでしたが、後の三人は頭を突き合わせてカードゲームのようなものをしています。
気は緩んでいるようでしたが、ここで麻子が扉を開けて中に入ると、さすがに目立ってしまいます。
麻子は陽動作戦を考えました。
念力を使って、建物の中の大きなものをドサッと倒したのです。
「おい、何だ?あの音は?」
「まさか奴が起きたんじゃないだろうな?」
兵士たちはたちまち臨戦体勢になって、皆で扉を開けて中へ入って行きました。
麻子もこの機を逃さず、彼らの後から建物の中に侵入しました。
建物の中は薄暗かったので、目が慣れるまでしばらくかかりましたが、麻子が倒したものが大きな
立派な部屋ね。
広い居間のようなものがあって、つい立ての向こうにベッドが見えているので寝室もあるようです。
「なんでこんな大きなものが倒れるんだよ」
「調べたらそいつを起こすんだ。奴は起きていない。面倒なことを聞かれる前に、何もなかったようにしとけ!」
兵士たちはぶつくさ言いながらも、魔法を使って箪笥を起こしていました。
……この人たち、魔法が使えるのね。用心しなきゃ。
麻子は息を殺して部屋の隅に身を潜めていました。
片付けを終えた五人が部屋の外に出ていくと、麻子はやっと息をつきました。
危なかった。他にも魔法が使える人がいるということを忘れないようにしなくちゃ。
あのゲームをしていた三人の兵士が寝室の方を見に行ったことから、マクスがそちらにいることはわかっていました。
麻子は忍び足で歩いて行って、緊張しながらベッドを除いたのです。
そこには死体袋のようなものがありました。
ドキドキしながら固く縛ってあった結び目を解いて袋の口を開けると、プンッとお酒の匂いがしてきました。それだけではなく、泥と錆で固まったような茶色の硬い髪の毛が見えたのです。
マクス!!
麻子は声を出さないように息をのみこむと、恐る恐るマクスの髪にふれました。
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